第2章 再びやり直せるなら

10まんぼると

黄泉の国にて

 私は意識が覚めて辺りを見渡すと、底にはただ何も無い白が広がっている中で1つのバス停が立っていた。


「ビルから飛び降りたはずなのに」


疑問を抱きながらも私はバス停に向かって歩く。【⠀行先 黄泉の国⠀】と書かれた文字を見て確信した。私は死んだと、そして死後の世界は本当に存在するのだと。すぐにバスが来て、人が疎らな車内へ入った。乗っている人を見ると全員顔が靄がかって見えない。不気味な空間だったが何故だろう。とても居心地がよかった。ふと、窓に反射する自分の顔が目に映った。やはり、他の人と同じように靄がかっていた。彼らも同じ死者なのだろうか。そんなことを考えていると、バスが止まった。


 着いたのは繁華街のような場所。まるでアニメの世界に入ったかのような建物が沢山並んでいる。世界観に見蕩れているとお面を被った1人の人が現れた。


「ようこそお越しくださいました。ここは黄泉の国、いわば死後の世界です。その中でも貴女方は現世で自ら命を絶った他とは違う存在。苦悩の末にこういう結末を選んでしまったのでしょう。でも大丈夫。貴女方と似ている方が集まれば優しくし合えることでしょう。さらに、寿命という概念がなく永遠にこの素敵な世界で暮らすことができるのです。さらに、お腹が空くことや眠くなることもないのでいつでも好きな時に行動できます。ただ、お腹が空かないと言っても、食べて味を感じることもでき満腹になることもありません。睡眠なども同じような感じですね。それと、この後一人ひとりにアリアというこの世界の動物を配布します。ペットとして癒して貰ったり、一緒に歩いたりして貰ってもいいかもしれないですね。では、これからこの黄泉の国を一生御堪能下さいませ。但し、現世とはくれぐれも関わらないように」


彼はそう言ってその場を去った。要するに、私は死んで死後の世界の黄泉の国と言うところにいる。そして、此処では私と同じように自殺をした人達が集まっている。というか、みんな靄が外れお面に変わっていた。そして、


「アーン」


この可愛い鳴き声のアリアという動物と一緒に暮らすことになったということ。それぞれに色の違うアリアが渡されるらしいが私は、黒と白の子だった。ふさふさな毛と長い耳、水色の透き通った目を持っていてとても愛らしい。両手に抱えて、私は歩き出した。今日からこの子と一緒に暮らすのだ。名前は、【⠀空⠀】としよう。


「これからよろしくね、空」


私と空の黄泉の国での生活が幕を開けた。


 そこでの暮らしはそれなりに楽しいものであった。食べ物屋や売店、レジャー施設など沢山の建物があった。空と一緒にできるものも多く、充実した日々を送っている。家はマンションとなっていて、他の死者と同じ屋根の下で個室に別れて生活をしている。テレビなどはないものの、様々な種類の本やゲームを買っていたので暇をすることはない。だから、現実世界にいた頃と比べて格段に良い生活となっていた。ただ、そんな中一つの悩みがある。一緒に過ごしてくれる様な人が未だいないということだ。私もそうなのだろうけど、死者特有の接しにくいオーラが出ている様な気がする。だから、早く仲良い人を作らないとと心に決めていた。ある日、私は繁華街の端の方にある『リコリス』という名前のバーに向かった。現実世界にいた頃、バーというお店っぽい雰囲気に憧れていた。地下へと続く階段を通って、OPENと書かれたドアを開けると、大人な雰囲気の空間の中に、頭に花の飾りをつけている人が立っていた。


「ようこそ。いらっしゃいませ」


その優しい声から女性だと分かった。


「初めてご来店する方ですか」


「はい、そうです。未成年なんですけどいいですか」


「もちろんです。では、こちらのメニュー表からお選び下さい」


そこには、ずらっとソフトドリンクの名前が並んでいた。その中に見覚えのない名前のものを見つける。


「カルトジュースってなんですか?」


「もしかして、この世界に来たばっかりの方?カルトっていうのはこの死者の国でしか手に入れることができない果実なんです。どうします。こちらにしますか」


「はい、ではそれで」


「かしこまりました」


そういうと彼女は後ろを向いてその飲み物を取りに、裏の方へ向かった。長くて赤い髪が揺れる。生きていた頃からバーに憧れていたから、どういう形であれ来れたのは嬉しい。空は隣の椅子の上で寝ていた。


「お待たせしました。こちら、カルトジュースです」


出されたのは、メロンサワーの様な透き通った緑色をしていた。飲むと、少し酸味の効いた味がとても美味しく感じる。


「これ、とても美味しいです。それでこの世界に来たばっかなので幾つか質問してもいいですか?」


「もちろんです。何でもいいていいですよ。あと、これからも付い合いは続くでしょうしお互いに敬語をやめてフランクに話しましょう。いい?」


「はい」


「力抜いていいよ。それで質問って?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る