第10話 大雉さんの秘めた思い~未完成のパズル~

ある日の事、例の2人が店に現れた。




正直迷惑だし


お店の評判も悪くなる


現に売り上げが良くないのだ



それに


これ以上は精神的にも私が辛い



もちろん志歩さんも小さいため息を吐き


頭を抱えて悩ませているのを度々見掛けた



大雉さんが私達に話せない理由があるのは確かだ




明らかに借金取りだというのは分かる



一体


大雉さんは


何を隠しているのだろう…?






私は蓮花ちゃんや晴南さんがいる中



「あの!」



私は勇気を出して例の取り立てと思われる人達に声をかけた。





「何でしょう?」


「彼の…借金は…いくらですか?」



私は周囲に聞こえないように尋ねた。




「どうして?個人情報だから言えないよ」

「そうですか…ちょっと待ってて下さい」




私は2人の元から去り再び戻ってくると、封筒を渡す。





「足りるか分かりませんが、これ持って、もう2度と、こちらには来ないで下さい!」



「………………」




私は2人を立たせて追い出すように店から出した。




「これ…いくらあんの?」

「君、お金持ち?だったら最初から君に出してもらえば…」

「100万あります!」

「100万って…」

「足りませんか?」

「いや…十分だけど…」


「だったら、そのまま持って帰って下さい!お客様が出入りしている場所です。これ以上出入りして貰うと凄い迷惑なんです!」


「まあ…借金、返してもらえば用はないし」





そして彼らは帰って行った。


私は店に戻る。





「藍璃ちゃん!」と、蓮花ちゃん。


「藍璃ちゃん、もしかして今の…お金…?」と、晴南さん。



2人が駆け寄る。




「………………」



「ちょっと駄目だよ!大雉さん絶対、良い気しないって!」


蓮花ちゃん。



「他の人に迷惑になるから…お客さんは沢山、出入りしてるし…」



「だからって…」と、晴南さん。



「藍璃ちゃんの言い分も分からなくないけど…」と、蓮花ちゃん。



「正直…あの人達が来始めてから売り上げ落ち始めてたし、お客さんは沢山いるようで減って来ていたんです」


「…えっ…?志歩さん…本当…なんですか?」と、晴南さん。


「ええ…お客さんからも声は上がってたのよ…常連さんからは…」



志歩さんと、お客様の会話が蘇る。



『せっかく、ゆっくりしに来てるのに…美味しいコーヒーが不味くなるから、しばらく来ないよ』


『借金あるの?大丈夫?』


『早く解決しないと店の評判悪くなるよ』


『せっかく長年続いてる良い店なのに店のイメージ悪い噂たってるよ』





「そんな…」と、晴南さん。


「私達の知らない事…」と、蓮花ちゃん。


「…大雉さん…その事は知っているんですか?」と、晴南さん。




「…どうかしら?息子には話していないから…だけど薄々気付いているんじゃないかしら?」





その後、再びお金が戻ってきていた。


50万の入った封筒が──────



つまり50万の借金があった事になるのだろう…





ある日の事─────



店の手伝いで大雉さんといる時の事だった。



「なあ!あんたさ、どういうつもり?」


「えっ?」


「誰が払ってくれって言った!?」


「…大雉さん…?」



「勝手に50万払ってんじゃねーよ!」


「…50万…それは…だって…お客様の迷惑になるから…」


「あんたの気持ちは分からなくないけど勝手な事してんじゃねーよっ!!」


「…ご…ごめんなさい…私…」


「どうかしたの?」と、志歩さんが奥から顔を出した。



私は店を飛び出した。



「藍璃ちゃん!?」




「うわっ!藍璃ちゃん突然の飛び出しは危険…」と、昌哉君。


「…今…藍璃ちゃん泣いてなかった~?」と、遼輔さん。


「えっ?ま、まさか!」



2人は入れ違いで店に入って行く。




~ 大雉 side ~




「いらっしゃいませ」


「あら、いらっしゃい」


「「こんにちは!」」


遼輔と昌哉が母親に挨拶しながら入って来た。




「大雉さん、今、藍璃ちゃん飛び出して…」と、昌哉。


「…そう…」


「そうって…それだけ!?」と、昌哉。


「何かあったんですか?」と、遼輔。


「いや、別に」と、俺。


「そんなわけないですよね?あの雰囲気じゃ、そういう感じじゃなかった様子ですけど…」



「…ほら!適当に座れよ!」




俺は2人に座るように促し2人は腰をおろす。




そこへ───




「ただいまー。あれ?兄貴、藍璃ちゃんは?買い出し?」


弟・朋矢が帰宅してきた。




「それはないと思うけど?」と、遼輔。


「そうそう。今さっき慌てて飛び出して出て行った」と、昌哉。



「慌てて?」と、朋矢。


「泣いてるように見えたんだよね~?」と、遼輔。


「あーーーっ!兄貴っ!前みたいに無理矢理押し倒して…」



「えーーーっ!俺達の知らない所でっ!?」と、昌哉。


「大雉さん、店番中に、そんな事したんですか?」と、遼輔。



「おいっ!馬鹿っ!朋矢っ!誤解を招くような言い方すんじゃねーよ!」


「えっ?いやいや、普段は知らないけど、最初、兄貴が戻って来た時は…」




「あー、そこか?ビックリした!普段…」



ベシッ


俺は昌哉の頭を叩く。



「痛っ!!」


「好きな女じゃねー限り、そういう事しねーよ!」


「て言うより…大雉さんの中では、まだ、魅南さんの事が心残りなんでしょう?」


と、遼輔。




「………………」




「…大雉さん…この際、話すべきじゃないですか?」



と、蓮花ちゃん。



「うわっ!お前いたの?いつから?」と、昌哉。



「何を?」と、俺


「お金…借金の事です!」


「無視かよ!って…えっ!?大雉さん借金あるんですかっ!?」



昌哉が蓮花ちゃんの反応に突っ込みを入れつつ、俺に尋ねた。





「…蓮花ちゃん知ってたんだ…」と、俺。


「私も知ってる。現に、その時そこにいたから」と、晴南ちゃん






どうやら2人に話が入っていたとなれば


話さざるを得ない状況だと思ったし


言い逃れ出来ないと思った


しかも、彼女・藍璃ちゃんが


店を飛び出した時


2人は


その前に


ここの店内にいたのだから─────





「…母さん…悪い…店…閉店…良いかな?」

「…ええ…」





俺は意を決して話す事にした。





「…50万…払ってくれなんて頼んでもいねーし、頼もうとも思わなかった…お店やお客に迷惑かかるとか言ってたけど…確かに彼女の言う分も分からなくねーけど、正直、関わって欲しくなかったんだよ…」



「…兄貴…」



「だけど…藍璃ちゃんが払わなかったら大雉さんは、そのままにしておくつもりだった…違いますか?」


遼輔が尋ねた。



「………………」



「結局…払わないままなら取り立て来るの目に見えてるじゃないですか?」


再び話を続ける遼輔。




「…大雉さん…ここの店…評判悪くなってたの知ってますか?」


と、蓮花ちゃんが尋ねた。




「えっ!?」



「兄貴…今だから、この場を借りて話すけど…常連さんや…地元の人なら尚更、俺がここの息子だって知ってる人は俺に言ったり聞いたりしていたよ」




~ 朋矢 side ~



俺は記憶を蘇らせる。



『お店、借金あるんだって?』

『ヤバイ人達が出入りしてるんだってね』


「あー…」



『お兄さん、戻って来てから店…変な噂流れてるけど…』


「…そう…なんですか?」



『朋君、大丈夫?店閉店するの?』

「えっ!?いや…そのつもりは…」




「会う人、会う人、俺の店の事を知ってたり利用している人は、お構い無しに声かけて…」




~ 大雉 side ~



「………………」



俺は知らなかった




だけど俺は自分の正直な気持ちを話した。



「だけど、彼女でも何でもねーじゃん!アカの他人だぜ?」


「でも一人の家族だろう?兄貴そう言ってたじゃん!それなのになんだよ!」


と、朋矢。



「仕方ねーだろっ!?その50万は…魅南が俺の為にかけてくれた…色々なお金なんだよ!」


「大雉さん、残していれば彼女が戻って来る…まさか、そう思っていたんじゃないんですよね?」


と、遼輔。




「言わせて貰いますけど!魅南さんは亡くなったんですよ!もう、この世に存在していないんです!いい加減、現実を見て下さい!思い出ばかりに頼らず振り返らず、この現実と今と向き合って下さい!」



晴南ちゃんに言われた。




「…大雉さん…確かに大雉さんが愛した人…愛し合っていた人だから心残りかもしれません。きつい事、言いますけど、魅南さんは大雉さんの心の中に生きています!藍璃ちゃんが、お金を出さないなら店は閉店せざるを得なくなってますよ」


と、遼輔が言った。





「…大雉…あなたは家族に何も話さないから…確かに、お金の事は事情は、どうであれ取り立ての人が出入りしてから売り上げも客数も減って来てたのが現状だったのよ」



「……………」



「"ゆっくりしたくても出来ない" とか、"しばらくは来ない"とか……常連さんや利用している人から同じ事を何度も言われたのよ。そんな中、藍璃ちゃんの出した答えが…」





『志歩さん、私に、お金を出させて下さい!』




「だったわ。私は止めたけど藍璃ちゃんは私の居場所を作ってくれたから、その、お礼を兼ねて出したいって…ここがなくなったら、みんなと会えなくなるからって…」



「……………」



「私を助けてくれた朋矢君や昌哉君。私を心良く…優しく受け入れてくれたみんなが好きだからって…それにね…彼女が来てから、お客さんも増えてたのよ…それから…藍璃ちゃんには確認してないけど…藍璃ちゃんね…時々、ここの店…来てたような気がするのよね…4人だったり、2人だったり…」



「えっ…?」




~ 遼輔 side ~



「志歩さん、藍璃ちゃん本人は気付いてるんですか?」


「さあ?どうかしら?だけど…時々、何かを考えてるようにも見えたりして…あ、そうそう。一回だけ、“懐かしい” って…」


「…懐かしい…?」


「ええ…藍璃ちゃんに尋ねたら、きょとんとした表情で気付いてる様子なかったわ。だけど、最近、私も気付いた所だから、詳しい事は…」




俺の中で


彼女の存在は


引っ掛かっていた



少しずつ


少しずつ




そして────




ついに


俺の中で


未完成だった


パズルが


繋がっていくのだった─────
























































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る