第8話 晴南さんの想い

チリーン…


店内に小さな鈴の音が響き渡る。




「いらっしゃい…ませ……晴南さん」

「大雉さん…いる…?」

「大雉さんなら今、買い出しに…」

「そう…」

「急用ですか?」

「あ、ううん。大丈夫!また改めて…それじゃ」

「晴南さんっ!」



帰り始める晴南さんを呼び止めた。


そして話を続ける。



「待っていたら良いじゃないですか」

「えっ?」


「また来るより待ってて下さい。すぐ帰って来るだろうし…タイミング逃すより、今という瞬間が大切ですよ」


「藍璃ちゃん…」


「ねっ!」




私は帰さずにいた。




何となく晴南さんが


自分の気持ちに整理しようとした


瞬間な気がしたから


結果が どうこうよりも


自分の想いに素直になる


彼女の選んだ選択だと────





しばらくして大雉さんが買い出しから戻って来た。



「あれ?晴南ちゃん」

「…あの…すみません…少し…お時間良いですか?」

「うん、別に良いけど」

「あの…外に…」

「外?」

「はい…」

「ごめん。藍璃ちゃん、材料しまうの頼む」

「あ、はい」




2人は店を出る。




「すみません…仕事中に」

「良いけど…相談か何か?」

「いいえ…その……」



「………………」



「あの…実は…私…」

「うん」

「…ずっと言えないままで…」



「………………」



「魅南さんと付き合っている時から…大雉さんの事…好きでした…」


「えっ?」


「最初は自分の想いに気付かなかったし、もしかすると気持ちを抑えていたのかもしれません…遼輔との事もあったし…」


「…晴南ちゃん…」



「魅南さんの事…まだ…心残りかもしれないですけど…自分の気持ちを伝えようと思って…突然で迷惑かもしれないですけど…ゆっくりで良いので…お付き合いしてくれませんか?」



「いや…迷惑じゃないけど…驚いたかな…?」


「…そう…ですよね…」


「気持ちは嬉しいけど…魅南の事まだ吹っ切れてねーし…俺…晴南ちゃんを傷つける事になると思う。利用すんのも良くないし。まあ…利用してまで付き合おうとは思わないけど…だけど付き合えない…とりあえず…今のままで…」



「…そう…ですよね…すみません…だけど、気持ち伝えられてスッキリしました。それじゃ」





晴南さんは、その場を去り、大雉さんが一人、店に戻って来る。





「告白でもされました?」

「えっ?」

「晴南さん…大雉さんの事気になっていたみたいだし」

「…あー…そう…だったみたいだな…」



「…ごめんなさい…私には関係ない事なのに…恋愛って…いつ、何処で、うまれるか分かりませんよね…?突然の出逢いとか偶然が重なったりとか…本当、出逢いは突然で…別れも突然で…男と女って本当不思議ですよね」



「そうだな」

「私、告白された事もした事も、もう随分とないですよ」

「前の彼氏以来?」


「えっ?あ…はい…相手から告白されて試して付き合っていってたんです…もう告白された時は…人信じられなくなってて…」


「そうか…」

「大雉さんは告白されたんですか?それともしたんですか?」

「えっ?」

「あ…ごめんなさい…私には関係ないですね」


「別に構わねーよ。告白されたんだよ。彼女…魅南にね」

「大雉さんカッコ良いから告白されるタイプですよね?」

「えっ?」

「違いますか?」

「どうかな?」


「だって学生の時は、モテてたでしょう?」


「告白されるのは多かったし…モテてたってやつ?つーか、自分の事を言うの気持ち悪くね?」


「…確かに…」


「確かにって…」


「えっ?自分で言ったんじゃないですか?」




私達は色々と話をしながら店番をしていた。





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