第6話 家族だから


その日の夜。



「なあ、さっきの写真ってさー、家族ぐるみで出かけた時の写真?仲良いんだな。実は結婚前提で付き合っているとか?」


「そんなの…」


「画面上の両親と思われるのは?あんたの?それとも彼氏の?」




「……………………」




「兄貴、何の話?」と、朋矢君。


「あー、藍璃ちゃんの携帯の待ち受け画面が彼女含む4人の家族写真で幸せそうな感じで。つーか、連絡して迎え……」


「それって…」と、朋矢君。




私は席を立ち、リビングを飛び出す。




「あっ!なあっ!どうなの?つーか、話はまだ…」

「辞めなよ!」


「何、お前まで。えっ?何?何?何か訳あり?逆に気になったりして」


「兄貴っ!!」


「何?聞いても良いじゃん!」


「あれは…!彼女の…!藍璃ちゃんの!…最初で最後の…思い出の写真なんだよ…!」


「…えっ…?…それって…つまり…」


「身寄りもなくて途方に暮れてて…彼女…海に…」



「………………」



「…多分…そういう経緯なんじゃないかな…?詳しい事は分からないし本人に確認したわけじゃないけど…流れ的には…だけど!これだけはハッキリ言えるよ!家族も彼氏も現在(いま)は現世(この世)には存在しない…だって…彼女は両親と彼氏と旅行に来ていたんだから…」



席を立つ大雉さんの姿。




「………………………」





「兄貴っ!」



私のいる部屋に来る。




「な、何ですかぁっ!?後を追ってまで話を聞きたいんですかっ!?」

「弟…朋矢から聞いた!」

「…えっ…?」

「あんた死に損ないなんだ」

「…し、死に損ないって…もっと…」



「でもっ!あんたの気持ち分からなくねーよっ!…俺も…!…愛する彼女…失ったから…結婚考えてて…だけど……俺の幸せは…次から次へと…奪われていった……」




近くに来る朋矢君の姿。



そんな事も知るよしもなく────




「…兄貴…」




そして壁に寄り掛かる朋矢君。




「俺の彼女の幸せも俺の幸せも奪われたかと思ったら…世界大会の前日に足の負傷して…出場停止…辞退せざるを得なくて…棄権…病院の医師から…その時…言われた言葉が… "もう2度とサーフィンは出来ません" だったよ……ただの捻挫かと思ったけど…でも…捻挫だけじゃなかった事も明らかになって…」




「………………」



「…どうして…そんな事…私に…?」



「あんたに心開いて欲しいから…あんたは俺達に心開いてねーみたいだし。だから、こっちから、あんたの心ん中を土足で入らせてもらうしかねーなと思ったから」



「………………」



「何があったかは知らねーし、無理に聞こうとは思わねーよ。でも、これだけは言っておく。あんたの事もっと知りてーし。俺達の事、信じてさ何でも話せよ!」




ドキン


ふと光平の言葉と交差した。



"俺を信じて頼って何でも言えよ"






「あんたの家族は、ここだから。血の繋がりとか無くても、一人の家族じゃん!それだけじゃねーよ!朋矢の幼なじみの昌哉や、サーフィン仲間でもある遼輔とか…」



「………………」



「いつも一緒にいる彼女達に…2人にも…みんなにも心開いて、もっと自分の事を知って貰って、お互いの事を知って仲良くなれば良いじゃん!あんたと仲良くなりてーから、友達になりてーから色々と接してくれてんだぜ?みんな良い奴ばっかだから。悪い奴じゃねーから。それ分かって……」





ポロッ


涙がこぼれる私。




「…藍璃…ちゃん…?…えっ?あ、ごめん!そんな泣かせるつもりは…悪い。きつく言い過ぎた?」




首を左右にふる私。




「…私…人…信じられなくて…前の学校では…先生やクラスメイトに意地悪されたりして馬鹿にされてたから…他人(ひと)の事、本当に信じられないって思っていた日々だったから…」




✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕



~ 朋矢 side ~



「…藍璃ちゃん…そんな事が…」



俺は彼女の心の声を初めて聞いた


そして彼女の支えになっていたのが


彼女の両親と彼氏だったんだと────




✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕



「…だから…唯一…両親や彼氏だけが…いつも…私の心の支えになってくれて…」


「…だったら…今度は俺達があんたの支えになってやるから…俺達に身を委ねな。あんたが心開いてくんなきゃ俺達…何も出来ねーじゃん…」



ガクッ スー


私はゆっくりと崩れ落ちる。





「…っく…」






崩れて行く体


溢れる大粒の涙


溢れる心の思い



私は涙が止まらなかった


次々に溢れてくる涙は


きっと 今まで


全部(すべて)の思いが


一気に込み上げてきた


涙なのかもしれない



『あなたは…もう…一人じゃない…みんなを信じて…』



両親や彼氏に


そう言われた気がした─────





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