第5話 壁

ある日の夜、私の知らない所で、天津木兄弟が話をしていた。



「なあ、朋矢。彼女、藍璃ちゃん学校行ってないようだけど、どうして?」


「えっ?あー…ちょっと…」

「事情は良く知んねーけどさ、せめて高校は…」


「…色々と揃えないといけないし、だけど話をすると言い終える前に話を逸らされたりとか、逃げるっていうか拒むんだよね…」


「拒む?じゃあ…全日制が難しいなら定時制は?」


「だったら兄貴から話してみたら?大人だし上手く言って高校には行った方が良いって事」



「いや…俺じゃ無理」

「えっ?どうして?」

「俺との間に見えない、分厚い壁があるんだよなー」

「えっ?…あー、それはやっぱり初めて会ったのが、あれじゃ…」

「あれはジコだ!朋矢、壁、感じないか?」

「えっ?いや、俺は別に」



「そうか?ハッキリとした事情とか分かんねーけど…彼女…何かあったんじゃないかな~?って。まあ、とにかく、そういう事だから。じゃあ、先に寝る」


「あ、うん」




ある日の事だった。




「こんにちはー」


「あら?晴南ちゃん」と、志歩さん。


「こんにちは!あ!いた、いた。藍璃ちゃん、海行かない?」

「海?でも私…店…」


「大丈夫よ」と、志歩さん。



「でも…」




そこへ──────



「母さん、俺の写真、何処にしまった?」


「えっ?写真?あなたの部屋にない?大体纏めてしまっているはずよ?」



「…大雉…さん…?」

「あれ…?君は…」



晴南さんと大雉さんは知ってる様子の反応だった。



「いつ、こっちに?」と、晴南さん。


「あー、藍璃ちゃんが来た日と変わらないから、一週間位…経つかな…?」


「…そう…なんだ…みんな何も言わないから…」


「俺が戻って来ようが、どうでも良いっしょ?サーフィン辞めたんだし。つーか、朋矢も昌哉も遼輔も話さなかったんだ」


「…うん…」




「あっ!藍璃ちゃん!部屋、ちょっと物色させて貰うよ」

「ちょ、ちょっと!待って下さいっ!」



私は後を追う。




「何?」

「私のプライバシー!」


「いや、元々、俺の部屋!あんたが使ってても元は俺の部屋でもあるし。つーか、部屋を、あんたに貸してやってるが正しいか。レンタル料寄越せ!」


「なっ…!あのねー…!」

「嘘だ!」

「…嘘って…」

「ほら!海行ってくれば?」

「店あるし」


「忙しくなったら俺手伝うから。ほら行った、行った。部屋はきちんと片付けるから安心しな」



私を止めて振り返らせると、追い返すようにした。




「ちょ…」

「行ってらっしゃい」



「………………」



私は渋々店の方に向かう。




「あっ!携帯っ!」




私は慌てて取りに戻る。



「あっ!ちょ、ちょっと!」




私の携帯を手に取っている大雉さんの姿。


バッと取り上げる。



「勝手に見ないで下さいっ!」

「彼氏?」

「そうです!」

「いるんだ!遠恋?」

「そんなものじゃありません!」

「じゃあ、何?」


「そんなの関係ないと思いますけど!」

「つーか、彼氏いるなら彼氏に迎え来て貰えば?」



「…そんな…簡単に言わないで下さい!ていうか!勝手に見るなんて最低っ!」


「だったら肌身離さず持って行けば良くね?大事なもんなんだし」





✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕



「藍璃ちゃーん、海ーー!行くよーー!」




✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕




「ほらっ!行けよ!呼ばれてっぞ!」

「…い、言われなくても行きます!」




私は部屋を後に出て行った。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る