都会から逃げ出した限界OL、旅館の女将に百合に目覚めさせられる!?

木田灯

都会からの脱出、そして女将との出会い

「もうこんな町出て行ってやる!ろくな仕事もないし、向上心のない人やつらしかいないし、こんなところにいたら私は腐っちゃう。私は腐りたくない!」

そんな風に家族に向かって啖呵を切ったのは16歳の時だった。こんな考えを抱くになったのは、中学時代バレー部のせいだ。私は部活を本気でやりたくて、自主練にも打ち込んで、1年のころから先輩の試合にも出るようになった。そんな真面目な私を先輩方もかわいがってくれた。しかし先輩方が卒業してから、私は同級生と後輩に煙たがられていたことを知った。キャプテンになって、少しでも勝ち上がるためにチームを運営する努力は孤軍奮闘だった。他校に頼んで組んでもらった練習試合をうちのメンバーがバックレたとき、私の中で何かが吹っ切れて部活をやめた。部活をやめた私は、それからずっと中学に馴染めずにひっそりと過ごした。そのあと同じ中学校の生徒が誰にも行かないような高校に行ったけど、そこでも同じようなことを繰り返した。今思えば私が不器用だったから人間関係でうまくいかなかっただけなのだけれども、当時の私はそれを町のせいにした。きっと東京には、向上心があって、何かを実現したくて出てくる人たちがたくさんいるんだろう。そんな町の中で、私も何かを成し遂げる人間になるんだ。そんな風に漠然と思っていた。


もう無理だ。東京の空気を吸いたくない。そんな風に思ったのは3日前に仕事が終わらなさ過ぎて終電で帰っているときだった。酔っ払いとくたびれ切ったサラリーマンに押しつぶされながら、窓に映る自分の顔を見たら目が死んでいた。こんなの、人が住むところじゃない。強制ログアウトしよう。半分自棄になりながら、帰宅するまでの電車の中で宿と新幹線のチケットを取って、今私は富山の温泉へと向かっている。

行きの新幹線で中学生の時好きだった少女漫画を読み返そうとしたのに、完全に眠りこけていた。これだから限界OLは嫌だ。ガラスの美術館とか、有名なスタバとか、一通り写真を撮るだけ撮る。これインスタに上げるかどうか迷うな。一人で旅行なんて…周りは結婚式の写真とか、育児日記とか、そんなのばっかりだ。市内観光はさっさと切り上げる。どうせ観光しに来たというより、旅館でゆっくりしたいだけだし。

富山駅から小一時間ほどバスに揺られて、古びた外観の旅館に着いた。着物を着た女将が出迎えてくれる。

「遠かったでしょう、ゆっくりしていって下さいね。」

立派な女将の風格があるけれども、声が思ったより若く、顔もよく見るとだいぶ若かった。

「わ、ありがとうございます。お邪魔します。」

なんか変なリアクションになってしまった気がするけど、女将はにこりと笑って部屋を案内してくれた。

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