恋人
「奈津、私はあなたがいないと生きていけないわ。あなたを、私のものにしたい。」
私は形の上で恋人になったことをいいことに、ことあるごとに愛の告白をしてみせた。しかし、奈津はなかなか同じようにはしてくれなかった。やっぱり、急に恋人になろうだなんて言って、流れで承諾してもらったけど、本当は嫌だったのだろうかと思った。しかし、友子が口にしたのは私が思っているのと違う言葉だった。
「友子さん、やっぱりわたし、自分が誰かに愛される資格がある気がしないの。」
「なんでそんなことを言うの?私は奈津を美しいと思うわ。」
「違うの。私は醜い心を持っているわ。友子さんのことだって少し妬ましく思っているの。私の家族は一度たりとも見舞いにだって来てくれない。多分こんなところに来たら病気がうつると思っている。友子さんは健康で、家族とだって仲がいい。きっとこの先も幸せに生きていける。そんな嫉妬深い心を持つ私自身のことが嫌い。友子さんは優しさで私のことを好きだと言ってくれるけど、そんな自分を愛してもらうなんて、すごく悪いことをしているように感じる。」
奈津の声は途中から震えて、最後は嗚咽のようになっていた。そんな姿ですら愛おしい。
「純粋で、恋を知りたいという好奇心があって、嫉妬深い自分は愛される資格がないと思う。そんな繊細な奈津の性格をいじらしいって思うの。これは嘘とか優しさなんかじゃなくて、私の一方的で身勝手な気持ちなんだよ。」
そして私は、看護師としていつもつけているマスクを取って、奈津に口づけをした。奈津は驚いて目を見開いた後、私の肩を両手でつかんで離そうとした。
「駄目だよ、病気うつっちゃうよ!」
「奈津となら死んでもいいって思えるくらいには、好きだよ。分かって欲しい。」
それから奈津は私に恋人として接してくれるようになった。
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