第3話

ーいやー!こんなに最新型を揃えてくれるとは!ー


画面の向こうで中東の王族らしき人間が喋っていた


「頼まれた物の想像を斜め行くのが僕のスタイルでね、お気に召して頂いて何よりですよ」


ーMr.MATSUDA!君にはまた色々頼んでもいいかい?ー


「もちろんです、何なりとご用命を!」


ー指定口座にすぐに入金させるよ、また何かあったら相談させてもらう、それでは、またー


「Peace Cpになんなりと!それではこの度はお買い上げありがとうございました!」



ーーー通信遮断ーーー



ディスプレイに表紙され松田はインカムを乱雑に外して放り投げた


「あー疲れた!時差とはいえこっちの都合も考えて欲しいよ…」

お気に入りのフルーツジュースを飲みながらボヤいた

「社長お疲れ様です、入金確認は私がしますね」

「ゴクッゴクッ…プハァ。あぁ頼むよ椿ちゃん。あと今日の予定は?」

名城が手帳を捲り確認

「11時に四ツ橋銀行の方とのお約束、13時から民友党副幹事長の唐木様と会食ですね、あと…」

「もぅ…どいつもこいつも金の話しかしないじゃないか!楽しい話しがしたいの!僕は!もう結構頑張ったでしょ?そろそろ僕だって遊びに行きたい!」

「今日終われば明日はお休みです、だからもうひと踏ん張りですよ」

「言うのは簡単だよね…はぁ〜〜〜…」

ため息が終わらないのでは?と思うくらい長いため息をついた


「ちょっと疲れたよ…少し寝かせて」

雇い主がメイドに懇願する姿はとても滑稽だ


「わかりました、1時間経ったらお声掛け致しますね」

そう言うと名城が少し松田の首筋をマッサージした

「ん?」

「少しこれでリラックスできると思いますので」

名城なりの労いだろう

「ありがとう、椿ちゃん、優しさで涙が…ウッウッ…」

「泣き真似しても無駄ですよ、あ!外には私も弟村さんも居ますのでくれぐれも邪な事は…それでは」


バタン


「チェッ…バレたか…どうするかな…」



弟村が英字新聞読みながらコーヒーを飲んでいた

「あれ?名城さん、社長1人にして大丈夫ですか?」

「ここには私も弟村さんも居ますから、そう簡単に脱出できませんよ」

名城はノートPCを開きながら答えた

「なんとなくだけど俺も「あ、逃げるな」って分かってきました」

「それが分かってきたのなら私も大助かりですよ」

「社長は金を儲けるのは好きだけど金の話は特段嫌がりますもんね、とくに今日は銀行員と政治家ですから」

「今の立場を買ってると言ったらあれですけどね、それでも我慢ならないのでしょう…お金を有意義に使える方々ではないですし」

「あの人の価値観は未だにさっぱりです」

「分かろうとするのはオススメできませんね、なんせあの方は「変人」ですから」

「確かにそうですね」


ピンポーン


他愛ない話をしていたら部屋のインターホンが鳴った


「はい!どちら様で」

反応したのは弟村だった

ドアスコープから覗くとルームサービスが押してきたワゴンを置いて立っていた


「ルームサービスです、ご注文のお品物をお持ちしました」

「ルームサービス?」

「はい、松田様からクレープシュゼットとお2人にとスィーツをお持ちしました」

名城がそれを聞き松田が寝てるであろう部屋のドアをノック

「お休みになられなかったのですか?」

「うーん、眠れなくてね、よくよく考えたらお腹すいちゃって、2人も好きなの食べていいよー」

名城が弟村に首を縦に振り合図した

弟村がドアを開けるとルームサービスが大きなワゴンを押しながら入室

シュゼット用の鉄板もあるのでかなり大きなワゴンだった

「社長?一緒に食べませんか?」

弟村がドア越しに提案した

「1人で食べたいの、それに君たちに取られたくないからさ」

「そんな事しませんよ…もう…では、有難く頂きますね」

「お気遣いありがとうございます」

弟村と名城がそれぞれ御礼を言うとルームサービスがワゴンの二段目を引き色とりどりのケーキやゼリーをだした

「お好きな物をどうぞ」

名城はシャインマスカットのタルトと、レアチーズケーキ弟村は桃のタルトを選びルームサービスがシュゼットを作った

洋酒をフランベした香りが部屋中に漂い食欲をそそる


「出来上がったらこっち持ってきてー」

部屋の外から松田の声がした

「あ!僕もケーキ見たいからからそれごと部屋にきて!」

ルームサービスがノックをし部屋に入ると数分で出てきた


「では、私はこれで失礼致します」

そういい部屋の入口前で深々とお辞儀をして出ていった


「食べるなら3人で食べればいいのに」

弟村が桃のタルトを口に入れながら尋ねた

「子供じゃないんだから取るわけないのに」

名城はレアチーズケーキにフォークを入れながら答えた

「いやーこの時期の桃は美味いっすね、名城さんも少しどうぞ」

「ありがとうございます、弟村さんもいかがです?」

名城がケーキを弟村に差し出した

「ありがとうございます、では遠慮なく…社長ー?子供じみた事しないので一緒に食べませんかーー?」

弟村がドア越しに尋ねたが返答が無かった

「社長ー?開けますよー」

不思議に思った弟村がドアを開けるともぬけの殻だった

「あ!名城さん!いないです!」

「えぇ?!」

名城は口のはたに少しついていたチーズケーキをナプキンで拭い部屋を確認

ベッドの下やカーテン、クローゼットを見たが松田は消えていてご丁寧にクローゼットには

海賊旗のようなメモ書きが貼られていた

「やられた……あ!さっきの!」

「不自然にデカかったから…追いかけましょう!」

そう言い2人は部屋を大急ぎで後にした



「まだまだ甘いなぁ…2人共…」


なんとドアが開く内側の死角に松田は隠れていたのだ


「さてと…サクッと着替えて抜けますか!」


そう言うとカーキのハーフパンツに大きめの白いTシャツ、ロレックスのデイトナを選んで黒のデカサングラスお気に入りの麦わら帽子を被りデッキシューズっぽい軽めの靴を履き部屋を後にした


ーあの二人の事だ…大方通用口とか地下駐車場に行くだろうー


2人の行動を読みあえてロビーから出る事にした


夏の行楽シーズンという事もありロビーは外国からの来訪者で賑わっていた、人混みをかき分けベルボーイに目も合わせずタクシー待ちの列に割り込んだ

「おい!君!失礼じゃないか!」

待っていた家族連れの父親らしき人物に咎められたが

「申し訳ない!知人が事故にあってね、タダとは言わないから!これ迷惑料ね!」

そういい松田は輪ゴムで束ねたお札を渡して

「運転手さん!とにかく急いで出して!」

運転手はミラー越しに松田をチラチラ見るとドアを閉めて車を発進させた




「…こんな古典的な手に引っかかるとは…情けなくなります…メイド失格です」

名城が落胆しながら部屋に帰ってきた

「俺も同じっす…護衛失格ですね…」

弟村も同じだ

「……四ツ木銀行の担当と唐木さんに連絡…ん?」

名城が電話をかけようした時大きなテーブルに松田がよく使う端末が置いてありロックもかかってなかった

「持ってかなかったんですね…あれ?これロックかかってないですよ?」

名城が弟村を少し押し出してキーボードを叩いた




「お客さん、割り込んでまで乗る程急いでるの?」

「いや、別にそうでもないんだけどね、僕の部下がうるさいからさ」

「とりあえずどこ向かいます?」

「ちょっと電話していい?」

「お好きにどうぞ」

若い運転手は松田の方をルームミラーでチラチラ見ながら答えた

「ん?さっきから僕の事チラチラ見てるけどどうしたの?」

「…いや、どっかで会ったことありません?」

「僕はタクシー乗らないからなぁ、ごめんわかんないや」

「…失礼しましたー……んなわけねぇよな…」

「ん?なんか言った?あ!もしもし!松田です!例の資料見せてもらえない?……うん…今日、場所?杉原門の公園で…え?…そうなの?……ごめんごめん、白川さんが近いとなるとそこしか……はいそれじゃあ!…運転手君、杉原門の警視庁がある所の交差点までお願い」

「うぃーす」

運転手は気だるそうに返事をしてアクセルを強めた





名城が松田の端末を調べながら弟村に話かけた

「もうここ2、3日で逃げる準備してたみたい」

「え?なんで分かったんです?」

「四ツ橋銀行の担当にメール済、唐木さんにはお詫びのメールと送金も済んでます…また理由がふざけてますけどね!」

語気を上げながら画面を弟村に見せた

「なになに…?「うちの名城、弟村両名がどこかで流行病を貰ってきたみたいで僕も万が一の事があるかもしれないからさ、伝染させたら国益を損なうしね!だから手渡しできないけどちゃんと送金しておくから!」あ!俺たちのせいにしてる!」

「どうせ嘘つくなら自分が風邪でもひいたって言えばいいのに!もう!…」

「帰ってきたらとっちめてやりましょう!あ!なんかメモありますよ!」

弟村がノート端末の裏のメモ書きを見つけた


ーサハラ砂漠でお水が欲しいって泣いてる女の子(G〜Hカップくらい)を見つけたからお仕事はできません、人命第一です、僕の事は嫌いになっても会社は嫌いにならないでください(*˘ ³˘)♥ちゅっー



「タダじゃおきませんから!」

メモ書きを読んだ名城の手は小刻みに震えていた



杉原門は瑞ヶ関の隣の駅で裁判所や警視庁、警察庁、各省庁の建物が多く議事堂も近い

交差点で車を止めさせ

「少しここで待っててくれない?」

「え?いいっすけどメーター回るし手ぶらじゃねぇ…逃げられたら俺タダ働きだよ」

運転手の言ってることは最もだ

「分かったよ、じゃあこれ」

そういい今度はマネークリップに挟んだお金をそのまま渡した

「え?こんなに?」

「遠慮しないで取っといて、んじゃ待っててね」

そういい松田が降り交差点の地下鉄駅近くの警視庁が見える広場のベンチに向かうとそこには白川審議官が座っていた

「社長、ここは警察のお膝元ですよ?我々国防省とは水と油ですから、もう少し気を使ってくださいよ」

白川は不満気を隠さず松田に封筒を渡した

「ごめんごめん、僕そういうの知らないからさ、で、これ開けていい?」

「どうぞ」

白川審議官から貰った茶封筒の中の書類を見るとほとんどの部分が黒く塗りつぶしてあった

「なんだよ、ほとんどのり弁じゃないか」

「社長が調べたいって部隊は存在そのものが抹消されてるんです、元幕府高官や評議員達が何としてでも隠したい恥部ですから」

「ははーん…やっぱりね」

「数名はわかってます…社長の所の…」

「ストップ、それは別にどうでもいい、このさ全部黒塗りの奴は?」

「はぁ…やっぱりそっちですか……その2人うち1人は東西統一戦争直前の時かなりきな臭い事をしてると噂はありました、もう1人は情報漏洩を疑われ直後にMIA」

「きな臭い噂とMIA?」

「ええ、2人が元々設立に関わっていて1人は当時の権力者平岡議員の後ろ盾を使い部隊が1番大きい規模の時は礼状も無しに突入で容疑者射殺、尋問と呼べない拷問、それに当時東西統一反対から鞍替えた評議会員やら官僚を暗殺してたとか…もう1人の方も当時不穏分子に情報を渡していたらしく…行方不明となっていますがおそらく粛清でしょう、正直社長じゃ無ければこんなもん見せられない。」

「そりゃ凄いな…隠したがるわけだね、この1人目がやったとされるいくつかの殺しが公になると今の合併政府を根底から覆すような事になりえない、でも僕が知りたいのはそこじゃないって。持ってるんでしょ?ほら勿体ぶらずにさぁ…お願い!」

松田が白川を拝むように頭を下げると白川が少し松田と距離を取り渋々と別の封筒を出した

「…これは流石に渡せません、写真もNG、私はここに置くだけですから」

白川が置いた封筒を開け何枚か松田が目を通し2枚をピックアップ

「でも…やっぱり所々黒塗りか……ふん…ふん…やっぱりだ…謎部隊ができる前に消えたり死んだりしてるのは…この2人」

「何故その2人と?」

「うーん…なんて言うかな、僕も色々調べたんだよ。なかなかこの亡霊みたいな連中の尻尾を掴めなかったからね、どうせ経歴変えて部隊設立したんだからその前に起きた事件記録を遡ってその後の消息が掴めない奴は…ってね…ん?あれ…?こいつは…」

「どうしました?」

「いや…経歴がめちゃくちゃだな…整合性がない」

「やっぱり貴方はタダ者じゃない…老人達が貴方を嫌う訳がわかりました」

白川は松田の反対方向を見ながら言った

「老人達が僕を嫌うのは別の理由さ、OK!もう記憶したよ、ありがとう、お礼に今度何か必要なら半額で用意するよ」

書類を封筒に入れながら白川に返しつつ言った

「結構ですよ、貴方は貸し借りが嫌いなのは理解してますが…これは俺個人が貴方に押し付けた貸しということで、では失礼!」

そういい白川は足早に退散


ーうーーん…とりあえずこっちから行ってみるかー

松田もベンチを後にしてタクシーに戻った



「お客さん次はどこに行けばいいのよ?」

若いタクシーの運転手がフランクに尋ねてきた

「あ!こことここの住所に行ってよ!」

「…わかりました、1つは近いけどもう1つは住宅街か…」

「ん?君知ってるの?両方?」

「まぁこの仕事してれば場所はある程度わかりますよ」

「そっか…とりあえず行ってよ、あとこれ」

「ん?金は貰いましたよ?」

「鈍いなぁ、貸切にして今日1日僕に付き合っていうお金だよ」

「貸切だと助かりますわ、それにこんなにいいんです?」

「いーのいーの、そのかわり君は何かを見ても何も見てない、いいね?」

「…わかりました、金さえ貰えりゃ俺はいいんでね、じゃ、車出します」

そう言い運転手が車を発進された


「なんだかお客さん忙しそうですね」

運転手が不意に話しかけてきた

「ん?そう見える?」

「えぇ」

「ふーん…まぁ君にそう見えるのは好都合だよ」

「どういう事です?」

「別にこっちの話、君はこの仕事長いの?」

「俺っすか?まぁここ4.5年すね」

「その前は何してたの?」

「いや〜まぁプラプラしてました、まぁ人様がやりたがらない事をやる便利屋みてぇな事をしてましたよ」

「ふーん…便利屋?で面白い事あった?」

「特に…ないっすね…強いて言えば色んなやつから良いように使われまくって時々自分が嫌になったぐらいすね」

「良いように使われるって、君便利屋だったんだからそれは仕方ないんじゃんない?でもさ?人に使われようが君は君だよ、今も君の生き方は君が決断してきたんだ、それを嫌になるって言い方はただの逃避だと僕は思うけどね」

「貸切客とはいえ初対面なのにハッキリいいますね…」

少し怒りを込めた感情で運転手は言った

「あ、ごめんね」

「悪いと思ってないっしょ?」

「あ、バレた?僕乗せるの嫌かい?降りようか?もちろん金はあげる」

「アハハ!こんなにハッキリ言われたらぐうの音も出ないっす大丈夫っすよ、それ正論ですし」

運転手が吹き出しながら笑顔になると1つの目の目的地に着いた

「たい……ゴホン!お客さん、着きましたよ」

タクシーのドアが開き松田が降りると

そこは取り壊し中のビル、都心なのに辺りに生活音がない少々不気味だ

「こんな所になんかあるんです?」

運転手が松田に尋ねた

「うーーん…中に入れればと思ったけど…この様子じゃめぼしいもんないね。…はぁ…」

「何を調べてるんです?」

「君は…特に訛りもないな、東京育ちかい?」

「あぁ、そうですよ」

「ふーん…じゃあここがなんだか知ってた?」

「まぁ…人並み?に」

「よし、時間が勿体ないから次に行こう、車で色々聞かせてよ、ほら!早くドア開けて!」

「はいはい、そんな急かさないでくださいよ」

運転手が車に乗ると同時に後部座席のドアを開け松田が乗り込み車を発進させた


「でだ、あそこは何だか知ってるの?君?」

「噂で聞いただけっすけどなんか警察?みたいな連中がいたって事くらいっすね」

「警察?」

「えぇ、なんか銃やら刀やらを持った連中が出入りしてて不逞浪士やデモ隊、半幕府を謳う連中を取り締まってたって聞きましたよ」

運転しつつミラーに目をやり答えた

「へー、東西統一の時も?そういや戦争の時君は何してたの?」

「元々主だった戦地は調印式があった関西でしたしね、東京は戒厳令が発令され、時の将軍様と西の…なんて言ったけな?まぁ西のお偉いさん達がコッチきて終結するまで家から出られなかったですよ」

「ふーん…」

松田は何やら不満そうだ

「お客さん知らなかったの?」

「僕は基本海外で暮らしていたからさ、こっちの事は疎いんだよ、統一後に日本に来たからね」

「そうなんすね、じゃあ…この機会に東京の美味いもんとか行ってみます?」

「美味いもん?!何それ?寿司?鰻?天ぷら?肉?!」

前のめりで食い気味に松田が反応

「それは言えないなぁ〜…昼飯食うには遅いけど…行きたいっすか?それとも行きたくないっすか?」

運転手は含みがあるように答えた

「行く!不味かったら怒るよ!」

「任せてくださいよ、高いもんは食ってねぇけどタクシードライバーは美味いもんは結構食ってますから!」

そう言うと運転手はアクセルを強めに踏んだ








「駐車場入れちゃっていいっすか?」

「え?もう着いたの?」

「えぇ抜け道裏道使えばこんなもんすよ、流石に路駐しとくと罰金なんでね」

「いいよ、僕が払うから適当に停めて」

「うぃーっす」

タクシーをコインパーキングに入れ枠内に車停めた

「んじゃ俺についてきてくださいね、お客さん」

運転手を先頭に2人は歩き大通りをすすみ高速下の信号を渡ると大きな看板で


「水山もんじゃストリートへようこそ!」


とあった


「…もんじゃ…?ストリート…?ってなに?」

松田が怪訝そうに尋ねると

「いーからいーから、入って食べてからのお楽しみっす」

2人で大看板をくぐるとそこは商店街で通りの入口には


「水山もんじゃ通り案内センター」


とあり案内センターにはもんじゃにちなんだお菓子が販売され案内入口には大きな地図と折りたためる地図が配布されていた

「運転手くん、ここは一体なんだい?」

「やっぱり初めてって感じすね、ここはもんじゃ屋が沢山あるんすよ」

「もんじゃ…?」

「まぁまぁ、美味いもんは何も肉や寿司だけじゃないんすよ」

そういい運転手が通りを先導した

「うわ〜なんだか凄いねぇ!沢山同じような店があるけど…」

もんじゃ通りには様々にもんじゃ焼きの店が立ち並びその様々な店入口にあるメニュー表を片っ端から松田は興味津々に見ていて1つ目の十字路を過ぎた行列がある店の前で松田が立ち止まった

「運転手君!運転手君!ここなんかどう?!なんか赤い丸まった人形もあるし!ネコの置物もあるよ!」

と手招きするが

「チッチッチ…そこも悪くないんですけどね、せっかくなら俺のオススメの店行きましょう。それに赤い人形じゃないす、達磨と招き猫っす、ホントに日本に疎いんすね」

そう言いながら店を通り過ぎスタスタと運転手は歩いていくと数えて3つ目の十字路を右に曲がり先に進もうとしたら松田が足を止めた

「ん?メロンパン専門店?色々あるんだねぇ…お?メロンパンラスクか…椿ちゃんと弟村君に買って帰ろうかな…すみませー…」

松田が店員を呼ぶ手を運転手が止めた

「食ってからでいいっす!…あと…ほらあそこ」

右手人差し指でコルクボードを指すと


「メロンパン焼きが上がり時間、次回15時30頃〜」


「あ、ホントだ」

「ね?だから食い終わったあとで間に合いますから」

そういい2人は歩き出した

途中に寿司屋や焼肉屋がチラホラあり

「ねー!もう疲れた!通りからだいぶ離れてるじゃん!」

「もうすぐッスよ!ほらここ!」

運転手がポケットに手を入れたまま顎で看板を指した


「海鮮 やま片」


「もう暑いし疲れた!早く入ろう!」

松田が店の引き戸を荒々しく開けて中に入ると昼時が過ぎたからか狭い店内には1組他の客がいるだけだった

「いらっしゃ〜い、何名?」

「2人っす」

運転手がピースサインを作り2人と示しながら答えた

「こちらへどうぞ〜、今おしぼり持ってきますね〜」

案内された卓につくとテーブルの真ん中が鉄板になっていたのを不思議に思ったのか

「ここは鉄板焼きのお店なの?」

「まぁそんなところっすよ、飲み物何にします?俺一応仕事中だから酒はNGね」

「そもそも君は車じゃないか、僕は飲めない人に勧めるのも嫌だけど飲めるけど飲めない人の前で飲むのは嫌いなの、なんかオススメある?」

「優しんすね、んじゃ…適当に頼みますわ、すみませーん!」

「はーい、まずおしぼりね」

給仕係がおしぼりを差し出しメモ帳とペンを前掛けポケットから出した

「えっと…瓶ラムネ2つ、あとスペシャルある?」

「スペシャルは…まだあるよ」

「んじゃスペシャルともちチーズ明太1つづつね」

「あいよ〜…おまえさーんスペと餅明太一丁づつねー!」

「うーい」

どうやら厨房の人とは夫婦なのかフランクなやり取りが聞こえ

松田は卓端にある調味料や小皿に乗った小さなヘラのような物をマジマジと観察していた

「…この鉄板って何を焼くの?お肉?」

「まーまー、何も鉄板焼くのは肉だけじゃないっすよ」

そうこうしていると歳のいった給仕の女性が瓶ラムネを持ってきた

「あたしがあけようか?」

「いやいや、やるんで大丈夫っす」

運転手は手馴れた手つきで瓶ラムネの栓を一気に抜いた

「ん?お客さんやった事ないならやろうか?俺が?」

「ば、バカにするなよ!これくらいやった事あるし!」

松田も見よう見まねで瓶ラムネを開けたが…泡が溢れてきた

「えー!ちょっとちょっと!なになに!」

「あーもぅ!やった事ないならないで言ってくださいよ!、すんませ〜ん、おしぼりもう1つー!」

「あいよ!」

歳のいった女性が松田に向けておしぼりを投げた

「!フツー投げるかな!」

「いーからいーから、それよりよく拭いてよ!ベタベタするから」

手を吹き瓶ラムネで乾杯して松田は恐る恐る飲んでみた

「なにこれー!うんまぁぁぁい!!」

「でしょ?酒飲めない暑い日はこれっすよ」

「グビ…グビ…グビ…ぷはー!すみませーん!同じの2本くださーい」

「あいよー」

運転手も一気に飲んだ

「美味いっすよね〜」

「うん!これめちゃくちゃ美味い!」

そうこうしていたら

「瓶ラムネ2本と…スペシャルねー、餅明太も今持ってくるよー。どうする?あたしが焼く?」

「いや、いいっすよ、俺やるんで」

瓶ラムネと一緒に運ばれてきたのは銀色ボールになにやら液体、荒切り太めキャベツ、紅しょうが、揚げ玉、細めのかつを節、その上にエビ、ホタテ、イカ

がのっていた

松田は気になるなしくじっと見つめて

「これ…なに?」

「まぁ見てなさいって」

運転手が調味料置き場から油を取り鉄板に油を塗り比較的温度が低い所で魚介を焼き出した


ジュゥゥゥゥゥゥゥ!!


手際よく魚介を抜いた後の残りを鉄板にあけるといい音が響き手際よくキャベツやらの具を焼き、たまにボールに残った汁を混ぜながら焼いた

お喋りの松田が珍しく黙って見ていた


「お、いい感じだな」


運転手が大きなコテを両手で使い魚介をひっくり返し満遍なく火を入れると他の具を平にして真ん中に穴を開けるようにし、そこに残った汁を入れ、混ぜながら焼き混ぜながら焼きを繰り返し…そこに別で焼いた魚介を突っ込んでまた同じ繰り返し…

具を平にして行くと火が通りだしたのか所々で泡がポンポンと膨れて破裂していた


「ねー…これってさ…ゲ…」

「ストップ!それ以上言わない!」

上から青のりを散らし


「完成!熱いから気ぃつけてくださいね!そのコテ使って食うんすよ、こうやって」

運転手が小さいコテで少量を自分の方へやり押し付けて焦げを作り口に入れた

「うんめぇ、ほら?どうぞ?」

松田も同じように見よう見まねで口に運んだ

「アッッッ!アッ!ハフハフ」

「だから言ったじゃないっすか!熱いって」

「ゴクン!うんめーーーー!なにこれー!初めて食べたよ!もっと貰うね!」

「良かった!じゃんじゃん食べてよ」

出汁にソースと下味がついていて丁度良い塩加減、何よりこのエビ、イカ、ホタテがその出汁を邪魔しないがちゃんと一つ一つ食べごたえがある大きさだ

松田はラムネを飲み手どコテの手が止まらない、その様子を運転手はニヤニヤしながら見ていた

「食いっぷりがいいね、お客さん」

「啓介…僕の名前は啓介だよ、硬っ苦しいの無しにしようよ?運転手君」

「啓介さん…か…やっぱり誰かに似てるっていわれない?」

「どうだろうねぇ〜ねぇ!もう1個の焼いてよ!」

気づくともう鉄板が綺麗になっていた

「お、そうっすね、じゃいきますか!ラムネ2本追加で〜。啓介さんは明太子半生派?きっちり派?」

運転手は2個目を用意をしながら尋ねた

「君に任せるよ〜美味しく作ってくれたらなんでもいいからさ!君の拘り食べさせて」

そう言うと運転手は一瞬ニヤっとして明太子を分け先程と同様に他の具から焼いていった

「…この工程見てるとやっぱりゲ…」

「だから!それ言ったらダーメ!」

鉄板が暑いのか焼き手は汗まみれだ

工程中盤に差し掛かり具で土手を作り真ん中に穴を開け残りの出汁を投入後、素早く明太子を両手のコテで解して手早く混ぜて平にした

「そろそろっすね、さ!どうぞ!」

「これも美味しそ!」

小さなコテで自分の所をに引き寄せ、鉄板に押し付け少し焦げをつけて口に入れた

「ハフ!ホフ!ハフ!ウマーい!」

「もんじゃと言ったらこれすよ!」

「君作るの上手いね!凄く美味しいよ!」

「俺好きなんすよ、不味いって言われたらどうしようかドキドキでしたけとホッとしました」

「椿ちゃん…あ、僕の専属メイドなんだけど彼女はデザートにはうるさいのに食事はてんで拘らないのよ、それにウチの運転手は美味しもん知ってるのに僕に教えてくれないの、「俺のお気に入りが口合うとは限らないし文句言われたくない」とか言うんだよ、2人とも僕より日本詳しいハズなのに」

コテを片手にラムネをぐびぐび飲みながら言った

「雇い主がこうだと下の人もそうなんじゃないんすか?でも啓介さん慕われてるんすよ」

「ふん、どうだかね」

「嫌いなら啓介さんの所を辞めてますって」

「そうかな〜」

いつの間にか鉄板は綺麗になっていた

「さて…そろそろメロンパンが焼ける時間すね、出ますか?」

「だね、美味しかったよ!今度2人を連れてくる!」

「俺ちょっと手洗いに行ってくるっす」

「ほーい」

そう言うと運転手が席を立った

その隙に

「すみませーん!お会計してちょーだい」

「はーい」

先程の中年女性が伝票を持ってきた

「ん?こんなに安いの?大丈夫?やってけてるの?」

そういいながら金を払った

「ちょっと!多すぎるよ!あんた金の計算もできないのかい?!」

「いやいや、それくらい美味しかったってことだよ、僕こう見えて日本には疎くてね、初めて食べて本当に美味しかった、そのお礼だよ」

「だからって受け取れないよ」

「いーからいーからさ、つりはいらないよ!ご馳走様!あ、連れがトイレにいるから外で待ってるって伝えておいて」

それだけ言うと店の外へ松田は出た


ー美味かったな、今度は3人で来ようー


そんな事を考えてニヤニヤしていたら運転手が出てきた

「いくら払ったんです?あのつっけんどんのオバチャン俺にニコニコしてましたよ」

「内緒!んじゃメロンパン買ってもうひとつの目的地に行こう」

そういい元きた道を戻り歩いた

メロンパンの店は混んでなくてすんなりと案内され

「いらっしゃいませ、何にされますか?」

バンダナを巻いた若い女性スタッフが聞いて

きた

プレーンメロンパンやキャラメルメロン、チョコメロンと様々な種類が並んでいて目移りしたが

「えーっと…このプレーンメロンパン5個、2つは今食べるよ、後…このラスクを2つ下さい」

「かしこまりました!」

スタッフの女性がスピーディに用意をして袋を渡した

「お会計2400円でございます」

「じゃあ3000円で、お釣りはいらないよ、ベンチでメロンパン食べさせてもらうね」

そういい店先のベンチに座り運転手にもメロンパンを渡した

「俺にっすか?ありがとうございます、俺ちょっと会社から電話あって少し電話してきますので待ってて下さい」

そういいその場を離れた

「焼きたてのメロンパンって美味いねぇ〜」

松田がカリカリのメロンパンを頬張っていると


ブーブーブーブー


松田のスマホに着信

番号は非通知だった

「はいもしもし、今メロンパン食べ…」


ーよぅ!初めましてだなー


「ん?誰?」


ー察しのいいお前なら分かるだろう?ー


「知らないね、それに自分から名乗らない相手とは喋らないんだ、もう切るよ」



ーそう言うな、松戸 和平…不正アクセスまでして何を知りたい?ー


「…わざとログを残して探ったんだ、こうすれば君らの方からコンタクトが絶対くると思ってたからね、殺すつもりならとっくにやってるだろ?何の用だい?」


ー……抜け目ないな…ー


「ドーム事件の情報も君らだよね?ロッシーニ事件も調べたよ、ウチの弟村が世話になったね、ありがとう」


ー俺は俺の仕事をしただけだ、何を探ってる?お前ならどんなにやばいか分かるだろう?俺達を調べるのは?ー


「俺達って事はひとりじゃないんだね、はいはい、僕が探してるのは誰かまだ分からないけどさ、仲間に伝えておいてよ」



ー何をだ?ー


「ウチの名城は君のお友達を探している、どうせ生きてるんだろう?だったら中途半端な事しないで会いに行ってやれ、先に進もうと歩いている人間の足を引っ張るな、それに…」


ーそれに?ー


「ウチの名城をどんな理由があれ泣かせたんだ

、1発殴らせろ。それだけ」


ー叶うといいなー


「絶対に見つけるさ、僕にはあまり不可能ってことがないんだよ」


ー勝手にやってろ、ただ俺たちを探るなら相応の覚悟を持て、それに無駄な昔の事を掘り起こすな。じゃあなー


ツーツーツー


「なんだよ、そっちから電話してきたくせに」

電話をしまいメロンパンを食べていると運転手が車で迎えにきた

「啓介さん、お待たせ、さ!行きますか」

「うん、行こうか」

そう言い松田は後部座席に乗り込んだ

「住宅街の方に行きますか?」

「いや、もういいよ、飽きたし。美味しいもん食べられたから帰って昼寝でもするよ」

「クライトンベイホテルで良いですか?」

「あぁ、頼むよ」

タクシーはホテルに向かって走りだした


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水山から近いのかあっという間に港南埋立地に着いた

「もうすぐ着くよ、啓介さん」

「ん?あぁそうだね」

「いやー貸切あざっす、しばらくこれでノルマもないから休めるよ」

「僕も初めての物を食べられていい体験だったよ……生き残り君」

車内が一瞬ピリついた

「嫌だなぁ〜何の事っすか?」

運転手が笑いながら返してきた

「あれ?おかしいな…間違えたかな?僕を誰かと似てるって言う人は限られてるんだよ、それにさっき不逞浪士と言っていたね?その言葉は一般には使われないさ、それを使うのは当時あの建物を使ってた連中だけだと思ってたんだけどね」

「人違いっすよ!人違い!いきなり何を…」

「それにさっきの電話の奴に僕のこと話たのも君だよね?」

「……」

「沈黙は答えかな…?まぁいいよ、そうやって日本全国に情報網もってるんだね、それが分かっただけで充分さ」

そうこうしているうちにホテル正面に着いた

「今日は1日ありがとう、君のおかげで退屈しなかった、僕は日本にいる時ここのホテルにいるからさ、また会えたらその時は頼むよ、じゃあね!」

そういい車を降りてロビーに入って行った


「…バレるとはまだまだだなぁ〜気をつけよ、また怒られちゃうよ…、あ!はいはい!どちらまで?」





松田はこっそり帰ったが1638号室のドアを開けると名城と弟村が背中を向けながら座って何か作業をしていた


「いや〜お腹痛くなってねぇ…トイレさまよってたら…」


「どこ行ってたんですか?!サボるのは百歩譲っていいですかGPSくらい着けといてください!なんかあったら心配じゃないですか!それにあのふざけたメモ!」

「そうですよ!居場所くらい教えてください!」

「まぁまぁ2人とも怒らないでよ、ごめんね、どうしても仕事したくなくてねぇ…あ、これお土産、メロンパンとメロンパンラスク、パンは僕の分もあるけどラスクは2人で食べて」

「あ!有名なメロンパン!やった!社長ありがとうございます」

「俺のも?ありがとうございます」

名城は知っていたみたいで機嫌が直った


ーあぶなー、手ぶらで帰らないで良かったー


「今手ぶらじゃなくて良かったって思ってます?もしかして?」

「アハハ、バレた?」

「顔に書いてありますよ」

「で?今日1日何してたんです?」

弟村はもうパンをかじっていた

「刺激的な1日だったよ、そうそう!もんじゃって言う食べ物を初めて食べたよ!そこそこ楽しかったからまた抜け出すよ」



「「ダメに決まってるでしょう!!」」


2人の声が同時に響いて松田はビクッとし耳を塞いだ…




ーーーーーーーーー完ーーーーーーーー

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