第2話

服の仕立て屋に男が入店したあと、店主と思われる女が入口の札を裏返しカーテンをしめながら

「そんなに気になるならご自身でお会いになればよろしいのでは?」

とデータが入ったUSBメモリを足を引きずる男に差し出しながら言った


「死人が会える道理があるかい?毎度の情報助かる、奴に変わって礼を言うよ、ありがとう。」


男はUSBメモリを受け取り内ポケットにしまいながら答えた


「記憶違いじゃなければ本当の宗家は相棒の方だと…」

「ハハッ…あいつに宗家はむかないよ、完璧な自由人だ、それにあいつの振る舞いは檀家連中にいい顔されないからな、だから俺は昔から変わらず奴に押し付けられてばかりだ」

苦笑いをしながら答えた


「貴方も笑う事があるのですね、いつか尋ねようと思ってたのですが…彼を仕向けたのは偶然でしょうか?」


「どうかな…もう忘れたよ、でも例のドーム事件で彼女が思い直したのは少なくとも奴のおかげだ、ああいう直情的な奴は彼女にとっても俺にそっくりな奴と噂の人間にも必要だ」

男は椅子に腰をかけながら義足を外し女に渡した

「あれ?足に合いませんか?」

仕立て屋の女が義足を手に取り細部をチェック

「いや、せっかく寄ったんだ、迷惑じゃ無ければチェックだけでもと思ってね…それとこれ」

男は封筒を女に渡し

「いつもすみません…でもこう言った物をは今後…」

女は封筒を突き返した

「いや、いいんだ、義足のメンテナス代金として受け取ってくれ」

「貴方が気に病む事はありません、自分らしさを貫いて生きられたのでしょうから」

そう言うと仕立て屋の女は店奥にある写真に目をやり、その写真にはその仕立て屋と髪の短い女が咥えタバコで満面の笑みを浮かべ肩を組んでる姿が写っていた

「これで奴の好きだった酒でも供えてやってくれ、また何かあったら連絡を」

そういい男が義足を付け直し立ち上がり店を出て行く姿を仕立て屋の女は深々とお辞儀をして背中を見送った



ーーーーーーーーーーーーーー



名城は手帳を開きある写真を見ていた


写真には武装した男女のグループが写っていた


ーこの頃の私は喋れなかったなー


写真には名城も写っており大きめのマスクをして口元を隠していた

この頃の名城はある理由で喋れなかった、それを察したある人物が名城にマスクを渡し



「これで喋れない事を隠せるだろう?」



喋れない事をこの人は否定せず受け入れてくれた

人殺ししかできない役立たずのありのまま自分を


写真の真ん中に写る男は松田に似ていて台湾で初めて彼と会った時驚いた

でも外見は似ていても中身はからっきし似ても似つかない

しかし同じ事を言われた


ー自分より先に絶対死ぬなー


私の事を…いや、あの人は部隊全員を気にかけていたのに結局…


感傷に浸るのやめ、名城は手帳に写真をしまった




「いやー相変わらず社長は凄いですね、詐欺師顔負け…いや…詐欺師そのものか」

松田のインチキ金持ち相手にする講釈を舞台袖で見ていた弟村が関心していた

「社名を変えて「人助けするんだ!」とか言ってましたけど結局大して前とやってる事変わりませんよ、でも前と違うのは全額ではありませんが騙された方々に弁済してるんですよね」

名城は少し笑いながら答えた

「え?本当に?本当に人助けしてるんだ」

「えぇ、ダミー会社何個か迂回させて振り込んでるんです」

「まぁ身分がバレたら面倒ですから…」

名城が手帳を開き弟村に何かを見せた

「なんです…?ん?Extinguisher Wind Cp?」

「ペーパーカンパニーの名前です、直訳すると「火消しの風」ですよ、毎度毎度よくこんな名前を考えますよ」

弟村は笑いを堪えきれず笑った

「アハハ!相変わらずセンスないですねー!」

「ですよね、さ、社長が戻ってきますから例の物揃えておかないと」

名城も少し含み笑いをしながら手帳を閉じ準備に取り掛かった

「分かりました、俺もタオルやら氷持ってきますよ!」

弟村が準備に取り掛かると床に写真が落ちていたので拾うついでに写真に目をやった

「ん?この写真名城さんですか?」

何かに気がついて名城は慌てて弟村から写真を取ろうとした

「人の写真を見るなんて弟村さんも趣味悪いですよ〜社長の癖が…」

「あれ?写ってたの名城さんですよね?それに…あれ?あの真ん中の人…どこかで…」

弟村が首を傾げながら答えた時、名城が詰め寄った

「え?!どこで!どこで見たんです?!弟村さん!!」

「え?え?どうしたんです?!ちょっと?!」

「いいから!弟村さん!どこで会ったのですか?なんでもいいです!なんでも…」

名城は懇願するように弟村に頼み込んだ

「え…っ…あ!確か!アメリカだ!ケイトの護衛をした時に教会で…あぁぁぁぁ!左足を引きずる独特の歩き方だ!あの時すれ違いましたよ!森宿の服屋で」

「本当に?本当にこの人でしたか?!」

「そう言われると…自信はないです、すみません…教会で会った時は薄暗かったですしそれになぜか顔を隠す感じでした、顔の左側に大きな火傷のような傷があったので隠したかったのかな?と…」

弟村の返答を聞き名城は落胆して膝から落ちた

「ちょっと!名城さん?!大丈夫ですか?名城さん!」

弟村は名城の身体を支えながら呼びかけたが声が聞こえている様子は見られない


火傷…最後別れる時そんなもの無かった…左足を引きずる?…確かに被弾していた…でも死亡の報告は見た…でも報告だけ…誰も遺体を見たわけじゃない!…


「いやー相変わらずみんなお金儲け好きだねぇ〜僕も好きだけど。あ!なんで炭酸水とか用意…ん?どうしたの?椿ちゃん?お腹でも痛いの?弟村君何があったの?」

松田が文句を言いながら舞台袖に帰ってきたが名城の様子が変だと直ぐに気付く

「いや…なんか…あ…」

「ふーん…まぁいいや、椿ちゃん、とにかく1回座ろう?ほら」

松田が名城を抱き抱えながら椅子に座らせた

「弟村君、お水持ってきて、あと…」

「…すみません、社長…もう大丈夫です、直ぐにご用意…」

「椿ちゃん?これは大丈夫って言っちゃダメ、君とはもう長いんだ、相変わらず君は僕に隠し事かい?悲しいなぁ」

「…すみません…」

「弟村君、ちょっと!早くお水!僕が喉乾いたの!」

松田が弟村に催促し

「あ、はい!すぐ持ってきます!」

弟村が急ぎ足でその場を立ち去った

「さてと…椿ちゃん…これで2人きりだ、もしかしていつも見ている写真の事かな?」

「社長は知ってたんですか?」

名城は驚きを必死で隠し問うた

「僕はね?君の悲しい顔に気付かないほどバカじゃないけど問い詰める程野暮じゃないの、君がふとした時にその写真を見ているのを僕が知らないと思った?」

「……写真…見たんですか?」

嫌悪感丸出しで名城は松田を睨んだ

「いや、僕は見てないよ、興味無いもん。というより僕にとって大切な人の秘密には興味無いないんだ。人間ってさ?全部知ろうとするけどそれって僕は違うと思うよ」

「……」

「でもね?知りたいなら覚悟をしないとだよ、知りたい人の全て知るというのは言うほど簡単じゃない」

「…社長は何か知ってるんですか?」

「いや知らないよ、言ったじゃん興味無いって、興味無い無いことをいちいち調べる程僕は暇じゃない、社員を食わせないといけないから忙しいのよ、でもそれじゃ納得しないって目だよね?おー怖い、だったら好きにしたらいい」

「好きに?」

「うん、君がその人を探したいなら探してみるといい、それで君の気が済むなら。でも約束してほしい、一つだけ」

「約束…?」

「そう一つだけ、1番大切なこと…必ずここに五体満足で帰ってくるって約束してくれればそれでいい」

「いつでもいいんですか?口約束でも私を信じてくれるんですか?」

「あぁ、たまには椿ちゃんにも休みをあげないとね、それにいつか言ったよね?「君の全てを信じる」って、今もその言葉に嘘はないよ」

少し泣きそうな顔をしたが切り替えた名城は答えた

「…ありがとうございます、私は必ず帰ってきます!」

「あぁ、がんばってね!」

そう言うと名城は走って1628号室に戻って行った

部屋を出て廊下で弟村とすれ違った

「あれ?名城さん?!どこへ…」

「弟村さん!ごめんなさい!私少しお休みを頂きます!必ず帰りますので!」

そう言うと名城は颯爽と走って行った


「社長!いいんですか?またあの時み…」

弟村が焦りながら松田に話しかけた

「うるさいなーいいんだよ、椿ちゃんは必ず帰ってくる、それより先回りだ」

松田は肌身離さず持っているノートPCのキーボードを叩きスマホでどこかに電話をした

「もしもーし!松田でーす!あら?佐原さんじゃない?ありゃ…誰か話し通じる人…あぁ!君か!その際はどうも!1つ君にお願いがあるんだけどウチの名城にバレないようにガードしてやって欲しい、もちろん金は即金で言い値で払う……うん……うん……あ、そういうのダメ、君じゃないとダメ!君以外だと金は払わない!……うん!ありがとう!とりあえずウチの弟村に聞いて名城が絶対に行く場所とGPS情報送るから!任せたよ!」

と言いスマホを切った

「WCSの誰に頼んだんです?」

弟村が尋ねた

「僕も1回しか会った事ないんだ、でも今の名城…椿ちゃんには彼が絶対必要だ」

そういい松田はキーボードを叩き出した

「話が見えないですよ…」

弟村は1人浦島太郎状態だ

「さて…部屋に帰ろう、調べられるだけ僕は調べる、少し部屋に籠るからWCSからの連絡以外は取り継がないでね!ほら部屋行くよ、モタモタしない!置いてくよ!」

そう言うと松田は足早に部屋に向かった

「ちょっと!ちゃんと説明してくだ…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


森宿まで行くタクシーを拾う前に名城は1本電話をかけた


「もしもし、名城です、お忙しい所すみません」


ーおぉなんや、また社長さんが怪我でもしたんか?ー


「いや…今日は別件で…」


ーどないしたん?また面倒事か?ー


「実は…私の同僚が先日あの人らしき人を見たって…」


ー他人の空似やないか?それにあの状況やぞ?俺たちだけでも逃げられただけ奇跡や、見間違いや見間違いー


「でも見たって言ってるんです!!弟村さんはがそんな嘘はつくメリットないでしょう?それに誰も死体確認していない!だったらどこかにいてもおかしくないじゃないですか?!」


ー俺は弟村言う奴をよー知らん、そんなもん見間違いなんてなんぼでもある、それに死亡報告だけで遺体を見てはないが、でもそれはアンタの願望とちゃうか?アンタの気持ちは分からんでもない、でも俺たちは…生き残った俺達は前向かなアカンねん、アンタの希望的観測でアンタ以外が危険に巻き込まれたら誰があの社長さん守るんや!そういう事考えた事あるんか?ー


「なんで島田さんはそうやって決めつけるんですか!」


ーもう終わったんや!お互い身分も変わってこうやって生きていられるだけ幸運と思わんか?あの人が…あの時ああしてくれたから俺もアンタも今居場所があるんちゃうんかい?ー


「…終わってなんかない…あの人は…」


ーそのあの人が今の生活をアンタにくれたんや…わざわざそれを捨ててまで今の生活やアンタを待ってる人まで捨てるんか?その覚悟があるなら勝手にせい、昔のよしみ…あの人が1番目をかけていたアンタやから無茶も聞いたがこの件は俺は関わらん、少しは頭冷やせや、ホナのー


ブチッ


島田と呼ばれた男は窓の外を一瞬見て引き出しから写真を取り出した

少し汚れたその写真はカメラ好きの島田が銀塩カメラで撮った写真で島田や名城、他の武装した人間が写っていた


ーこれでええんや…これで…もう…終わったんやー


トントン…


「どないしたんー?」

「失礼します、先生、次の患者さんがお待ちですが…」

「ああ、すまんな、ホナ次の患者さん入れたって…次は…あちゃーテルのおばちゃんやん。また見合いせぇって…入れちゃってええよ」


「分かりました!」


ーアンタならこの生活でええ言うてくれるやろ…ー

写真をしまいながら両頬を叩いた




ー何か調べてくれるかと思ったけど島田さんがあそこまで言うのは予想外だったな…とにかくその服屋に行くしかない…ー


名城はスマホをカバンにしまいタクシーを停めて運転手に住所を伝えクルマを進ませた


ーーーーーーーーーーーーーーー


ー社長何やってるんかな…ー

部屋から出てこない松田を弟村は部屋のドアを見つめながら心配していると


ガチャ


「ふぁ〜!ん?君ずっとここにいたの?暇なの?」

あくびをしながら松田が部屋から出てきた

「暇とかね…心配だっただけです!そろそろ本気で怒りますよ!」

弟村は暇と言われて少しお冠だ

「ごめんごめん!心配してくれてありがとう、でも僕が調べられるのはここまで…疲れたぁ〜とりあえずコーヒー注れて」

「いいですけど…調べたって何を?」

「んーーー…僕に似てるって言われてる男の事」

「え?!なんか分かったんですか?」

食い気味に弟村が尋ねた

「うん、結論から言うとね、全然掴めない」

「はぁ?分かってないじゃないですか」

「君は思慮浅いなぁ〜何もわからない事が分かったからこそ分かる事もあるんだよ」

「何言ってるかさっぱりですよ」

呆れ顔をして弟村は頭を抱えた

「お子ちゃまには難しいでちゅかー?」

「そろそろ殴りますよ?」

「おー怖!いいかい?何もわからないって事はそれだけ秘匿性が高いって事なんだ、いい例が…名城 椿名義の前の名義は追えなかったろ?」

「あ…そう言われれば…」

弟村がコーヒーの準備をしながら答えた

「椿ちゃんが探してる僕に似てるっていう人間は名前だけの死亡届け以外何も出ない、顔写真すらね。あの椿ちゃんでさえここまで秘匿されていない…という事はもっともっと上って事さ」

「上?」

「火のない所に煙は立たないなんて大嘘、火をおこして煙が出る前に全てを処理する…秘密の中のもっと秘密…誰にも知らない、この世界から公式に存在が許されない連中だ、今回の件で確信したよ」

弟村は何やらピンと来ない様子だ

「子供っぽい事聞いてもいいですか?」

「いいよ、お子ちゃまだもんね?君は」

「ゴホン!でもホントにそんな連中がいたら都市伝説やゴシップくらいにはなるでしょう?」

「お、鋭い!でもゴシップはあくまで陰謀論とかに騙されやすい連中向けのフェイクさ、そうやって人の関心を向けさせないのが手なんだよ」

「なんか…ゾッとしますね…社長が言うと…で、なんでWCSの人を指名したんですか?」

「君は聞いてばかりだなぁ〜、彼は僕の顔を見て驚いたんだ、という事は僕に似てる男を知ってるって事、おそらくハチタケシマ?の島なんちゃらって医者もその男の事を知ってる、前に椿ちゃんが連絡とってたからね、だったらその人達同士で話せばいいさ、当時知らなかった事が今ならわかる事もある、それで椿ちゃんが理解できるなら僕らは蚊帳の外でいいんだよ。僕と弟村君ができることは椿ちゃんがいつ帰ってきてもいいようにしとくだけ」


そう言い弟村の注れたコーヒーを飲んだ

「名城さん…帰ってきますかね…」

「帰ってくるよ、僕と約束してくれたから」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お客さん、住所だとこのあたりですね」

運転手はナビを見ながら名城に答えた

「ありがとうございます、ここからは自分で探しますね、ここで結構です」

名城は車を停めさせ現金で支払い車のドアが空くと同時に急いで降り

「お客さん!お釣りお釣り!」

運転手の呼びかけを無視して目当ての服屋に向かった


ーここの角を曲がるとある筈…ー


服屋というより仕立て屋だ、弟村さんも結構大雑把なんだなと思いながら仕立て屋の扉を開けた

「すみません、失礼します」

名城が入ると奥から仕立て屋なのかスーツの女性が出迎えに来た


「はい、いらっしゃいませ、ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」

「すみません…予約はしていないのですが弟村 史の紹介で伺いました」

「弟村…様?」

「ええ、弟村 史、先日こちらに伺ったと…」

「申し訳ございません、どちらの弟村さんか存じ上げませんが…当店は紹介状が無い方はお受けできないんです。ご覧の通り1人でやってまして…」

仕立て屋の女が深々と頭を下げた

「すみません、服のオーダーを頼みに来たわけじゃないんです…お尋ねしたい事がありまして…この写真の人を見かけませんでしたか?」

名城はカバンの中から写真を取り出し仕立て屋に提示した

「重ね重ね申し訳ございません、私はただの仕立て屋、貴女様は警察か何かでしょうか?捜査等でしたら協力致しますが…そうは見受けられませのでお答えできかねます。お洋服のお話で無ければおかえりください、後のお客様がもうすぐお見えになりますので」

たしかに仕立て屋の理屈は一理ある、名城はただの人探し、それに仕立て屋が協力するいわれはない…しかしここで引いたら二度と話が聞けない可能性があるので名城も引き下がれないので食い下がった

「…ただの仕立て屋さんですか…ではなぜ右の腰後ろが僅かに膨らんでいるのですか?私にはわかります、仕立て屋さんが持ってていい物では無いでしょう?」

「そんな事、警察でもない貴方にご説明する理由はございません。それに許可証も私は持っていますよ」

「…何の話?私は「膨らんでいる」と指摘しただけで何かとは言ってませんよ?許可証?随分と物騒な話ですね、仕立て屋さん…」

仕立て屋の女からかすかに殺気がむけられたのを名城は感じ、左胸元横に隠している小型ナイフをいつでも抜ける体制に入った

「なかなか…目ざとい…」

そう言うと仕立て屋は入口の札を変えカーテンを降ろした

「私が貴方に協力するいわれは無いの、その辺を理解した上で私に質問どうぞ、つまらない話なら即ご退店を…」

「あの人は生きているの?!死んでいるの?!それだけ教えて!」

すがるように名城は声を張った

「…誰の事かわからないけどそんな事私は知らないわ…当店のお客様だったとしてもその貴方の写真の方が似ているだけの事、同一人物だとしての確証は無いでしょ?だから答えられないわ、もっと客観的証拠を私に示さないと」

仕立て屋の女は名城の目を真っ直ぐ見て答えた

「……そうね、貴方の言う通りだわ…この写真だけでは貴方はそう言うしか無いものね…感情的になってごめんなさい」

「…1つだけ…なぜ貴女はその方を探すの?」

「…理由なんてない…ただただ会いたいの…」

「だからじゃないかしら?」

「…?」

名城は意外な答えに驚いた

「会いたい理由がない方が人探しなんてねぇ…貴女が何故会いたいか?会って何を伝えたいか?を明確にしない方に相手は時間を割くかしら?何故その方と離れ離れになったのか私は存じ上げませんが…もし貴方がその時より何か変わったり見違えるくらいの人物になれたら…成長した貴女にその方自身が会いに来るのではないでしょうか?」


たしかに何も言えなかった…痛いところを突かれた、たしかに会いたいだけで何を伝えたいとか全然考えてなかったのだ


「貴方の言う通りね…時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

「気が済みましたでしょうか?ではおかえり…」

仕立て屋が出口へ名城を誘うと名城が振り向いた

「あの…私もスーツの仕立てをお願いしても良いですか?もちろん紹介状を頂いてですが…」

「はい、構いませんよ、是非ともお越しください」

「お時間取らせてしまいすみません、失礼致しました」

名城は深々とお辞儀をして店を後にした


…これで良かったのでしょう?…

仕立て屋の女は何かを思いながら札とカーテンを元に戻した


…収穫ゼロか…やっぱり私の希望的観測なのかな…

猫通りを歩いているといつの間にか尾行がいることに気がついた


…誰…?一定の距離から全然詰めて来ない…


名城は急に走り中高一貫の学校を過ぎた先のコンビニの角を曲がりすぐに身を隠した

そうすると黒いジャージにスポーツスニーカーの男が角を曲がって名城が隠れている所に走ってきた


「まさか…貴方が尾行してるとはね」

名城が殺気をむき出しに表した男はWCSの藤田という男だった

「あの社長?達と仲良し倶楽部やっててもカンは鈍ってないようだ」

「何の用?私達を負かした部隊にまで入って!よく私の前に顔を出せたわね!」

「大声出すなよ…」

そういいながら藤田はタバコに火をつけた

「フーーーー…噂に聞いていたがお前本当に喋れるようになったんだな、なのにつまらねぇ事をペラペラペラペラと」

「バカにして…!恥ずかしくないの?!あの人が…あの時私達を逃がしてくれたのに…アンタはWCSに入ったの?この裏切り者!」

「…好きに解釈しろよ…それにてめぇん所の社長だってウチと取り引きしてるじゃねぇかバカ人形が」

この藤田の一言で名城に火がついた

左脇に隠した小型ナイフを抜き藤田を切りつけたが即躱され藤田は咥えていたタバコを右手に持ち名城の顔に近づけた

「これがタバコで良かったな、俺の事をどう思うが勝手だがお前はなんも分かっちゃいない」

「はぁ?!あの人を裏切ったアンタに何がわかるんです?!」

「お前はあの時、あの戦争で戦ったWCSが本気だったと思うか?だとしたら見当違いだ」

「あの強さを肌で感じた!アレは本物の強い部隊だったわ!」

「佐原さんはいたよ、でもあれは本隊じゃない」

「は?!あれが…本隊じゃない…?」

「あぁ…俺たちを追い詰めた部隊は本隊じゃなかったんだ、これは佐原さんから聞いたんだがな、直接じゃないが佐原さんとあの人と密約があった」

名城がナイフをしまい話に耳を貸した

「密約?」

「あぁ、戦争開始直前にある高官からあの人に打診があったらしい、でもあの人はその話を蹴った代わりに自分はどうなってもいいから他の奴らはなんとか殺さないで欲しいってな、だから佐原さんは本隊じゃない部隊で俺達と戦って俺たちは助かったんだ、じゃなかったら非戦闘員の山崎さんが生き残れるわけが無い」

「…だから…あの人は囮になって私達を…」

「あぁ…だが俺もあの人が死んだなんて思ってない、WCSは日本だけじゃなく世界の戦地に行く、あの人は絶対にどこかの戦地にいるはずだ。なら傭兵やってる方が探しやすいし情報も入るしな」

「……」

「なんだよ、黙りか?まぁいい、お前が拘りたい気持ちは理解しているからあの人の事が分かったら真っ先にお前に教えてやる、だからお前は今やるべき事、帰るべき場所に帰れ」

藤田はタバコを足でもみ消した

「帰る場所…?」

「あぁ、昔からそうだがお前はお前が思ってる以上に周りに必要とされている、今回もお前の尾行を頼んできたのはそっくりな社長さんだ、ご丁寧にご指名までしてな」

「社長が?!」

「そうだ、お前が心配だったんだろう…それにこんな機会でもなければお前と2人で話す事もなかったしな、強がってはいるがお前が居ないと寂しいと思うぞ、だから早く帰れ、そうしないと俺はこのまま仕事をすることになる」

そう言うと藤田は通りにでてタクシーを拾った

「ほら、乗れ」

名城は黙ってタクシーに乗り

「……藤田さん、私はまだ貴方の決断が正しいかわからない、でも私も人に聞くだじゃダメだって気がついた。ありがとうございます」

「別にいいよ、お前の面倒を見るのは嫌いじゃないからな、ほら行け、クライトンベイホテルまで!」

そういい藤田はタクシーのトビラを叩くと車が発進した


車窓を眺めると昔を思い出す

喋れなかった私を、あの人、藤田さん、島田さん…みんなが心配してくれた

今は社長も気にかけてくれている

前に進んでたつもりが全然進めてなかった

いかに自分が未熟か分かった気がする

そんな1日だったな……


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ガチャ


「ただいま戻りました」


1628号室のドアが開き名城が帰ってきた


「おかえり、椿ちゃん」

「名城さんおかえりなさい」

松田と弟村が笑顔で出迎えた


「急なお休みありがとうございます、社長」

「いーのいーの!明日からまたよろしくね、てかさー!弟村が全然使えないの!ビックリしたよ」

「はぁ?使えないって失礼な!」

声を荒らげながら弟村が言った

「だってさーコーヒー頼んでもすげー濃いの!スケジュール管理とかも微妙だし!」

「あのね?俺は元々運転手なんですーそれ以外は俺の仕事じゃありませーん」

「あ!屁理屈野郎め!何とか言ってよ!椿ちゃん!」


「プッ!フフフフ!」

「どうしたの?急に笑って、そんなに弟村の顔が笑える程変だった?」

「ほんとさ!1回ケリつけようか社長?!」

「いや、なんとなく幸せだなと思いましてね。弟村さんもイチイチ怒らない怒らないの、明日からまた名城 椿はお仕事頑張ります!」

「うん、期待してるよ!」

「名城さんがいないとこの人世話俺には無理っすよ」


ー結局…ここが今の私の居場所なんですね…でも私は諦めません、いつか私が…もっと成長してもっと自分で考えられる人間になったら自分で貴方を探してちゃんと御礼を言わせてくださいー


ーーーーーーーーー了ーーーーーーーーーー














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