第41話
さすがにずっとサボるわけにもいかない。
陽介は3時間目に間に合うようにネットカフェを出る。
キムとは、放課後彼のホテルで、と約束をし、いったんは別れたのだった。
放課後。
たまたま、なのだろうか、キムが分かってやったのか。
文芸部が合宿に使っているホテルの最上階。
陽介はそこにいく冊かの冊子を持って現れた。
挨拶もそこそこに、それを受け取ったキム。
やれやれと、首をすくめた陽介は、勝手に冷蔵庫をあさってジュースを取り出し、テーブルで持参した自分のパソコンをいじり始めた。
「やっぱり見てみるもんだね。ここから、変わってるよ。」
しばらく後。
渡した冊子を2つに分けて持ってきたキムが、そう陽介に声をかけた。
「どこ?」
「これとこれ。見てみるとほら、似せているけど、ここから正しく書いてる。」
「ああ、ほんとだ。」
陽介は、指摘された冊子の前後を見比べ、確かに、と頷く。
最新のものから2冊。
それだけは、キムが言うように、書き方が変わっているのが分かった。
「もっと言うと、これだけは別人が書いたと思う。これは本人だな。」
初めて書き方が変わった一冊が別人、最後の一冊は書き方は変わっているけど本人、との分析だった。
(ひょっとして、これが最後の違和感の素、ピースだったのか?)
陽介はそれを聞いて目を閉じ思考する。
(そうだとすると・・・しっくりくるかも)
「さすがはキム兄。僕だけだったら全部細かく見るなんてしなかったよ。」
「てことは、わざわざ極東まで足を運んだ価値はあったかい?」
「うん、大ありだ!ありがとっ。」
「お礼は観光ガイドで。」
「もちろん!」
陽介は大きく頷くと、その冊子=須東から預かった文芸部の歴代季刊誌を大事そうに胸にかき抱いたのだった。
そして、その足で15階。
文芸部が合宿所として借りているホテルのフロアへと、陽介は向かう。
が、あいにく誰もいないようで、エレベーターが15階に止まることはないようだ。特に合宿期間でもない以上、普段の部活は学内の部室で行っている。あくまで合宿所としての使用だということで、常に誰でも入れる状態ではない、ということか。
(だけどセキュリティはチェックできたな。)
陽介は思う。
ここに入るには、清真学園の学生証が必要だ。
だが、それだけ。学生なら誰でも入場可能ともいえる。
それこそ学生証を手に入れた第三者でも可能。
とはいえ、エレベーターやエレベーターホールには複数台の監視カメラが常備されているから、怪しい者が立ち入ろうとすると分かるのではあるが。
だが今回、活動時間以外はこのフロアへ立ち入ることができないことが分かり、陽介は小さく頷く。
(時間外に仕込むとしたら目立ちすぎる。おそらく権限のある者がホテル側に申し入れてロック解除されるんだろうけど、変な時間にそれをやるとホテル側に印象を残すだろう。この犯人がそんな危険を許容するか?否、だ。やっぱり、活動時間中に仕込んだと考えるのが普通。だとしたらやっぱり・・・)
陽介は、西園寺に連絡を取ると、文芸部の主立った者を合宿所に集めてもらうよう、お願いした。
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