第40話
(1時間目はとっくに始まっちゃったな。)
西園寺と別れた陽介は、悪びれる様子もなく、学校を徘徊する。
今の時間から授業に出ても、他の生徒の時間を止めてしまうだけだ。
それに、確か1時間目は英語の授業。申し訳ないが、先生よりもアメリカ育ちの陽介の方がスキルは数段上だ。むしろ先生は時折、チロチロと陽介を伺うように見てくるのが、少し窮屈だった。どうやら間違った発言を陽介に指摘されないか戦々恐々としているようで、そのことを生徒たちも敏感に感じ取っている。
わざわざ、彼の胃を痛めるようなことをする必要はないだろう、そう結論づけた陽介は、手ぶらのまま、ぶらりと学校を出ることにした。
パソコンは、居候先の叔父の家。
仕方がない、ネットカフェにでも行こう。
ということで、駅前のネットカフェを訪れた陽介。
個室に入り、パソコンを立ち上げる。
メールをチェックすると、いくつかのメールがあったが、その中の一つを開いて、陽介は苦笑した。
『へい、ヨッシー。元気かい?俺は今おまえの近くにいる。10分後、そこにいくから待て。キム。』
ヨッシー、とは陽介のことだ。
ローマ字でyosukeはなかなか呼びづらいらしい。
それに友人とはニックネームのようなものを使うことも多く、子供は「y」をつけることが多い。子犬をパピー、子猫をキティと言うような感じだ。
陽介は「yos(h)y」と呼ばれていたが、いつのまにか、「ヨッシー」と呼ばれるようになった。どうやら日本初世界的メジャーなゲームのキャラから出ているらしい。
そのメールは、接続すると送信される仕組みになっていたようだった。
IPアドレスをたどり、どこにあるパソコンで受信したか分かるようにしているのだろう。
ちょっとしたハッキング知識があれば簡単な行為であって、陽介もやろうと思えばできるし、これの対策も簡単にできる。
が、わざわざ逆探知する必要もないし、撃退する必要もない。
どう考えても悪友のやり口だ。
しかも10分だって?
陽介は苦笑した。
この近く、メールを開いたら10分以内にたどり着ける距離にいる、ってことか。わざわざ日本に来たのか?まぁ、自分に会いに来たのだろうけれど。相変わらずフットワーク、軽いなぁ、などと、自分の行いを棚に上げて、陽介は思った。
そしてジャスト10分後。
コンコンコンと、個室の扉がノックされる。
「いるよ。」
「やぁ、ヨッシー。へぇ、それが制服かい?かわいいじゃないか。」
入るなりそう言いながら、ハグ、そして右手、左手、右腕、左腕、とパンパン合わせる。
「にしても、わざわざ酔狂なこった。高校なんて二度とやだね。あれは刑務所と変わらん。やっと出所して自由を得たのにねぇ。」
「そう言わないでよ。初めて同年代で机を並べて、結構楽しいんだから。」
「だが、授業中にこうしてバックレてる。」
「ハハハ。たまたま今日だけだよ。」
「アメリカに勝手に戻ってたこと、こってり絞られたと言ってたのは誰だっけ?」
「もういじわるなんだから。で、キム兄、なんで日本に?」
「例の文字、本物見たくてな。おまえの目を疑うつもりはないが、画像だけで分析まがいのことをするのは、俺の矜持が許さんのだ。」
ああ、うずうずしちゃったんだな、と、陽介は内心微笑んだ。
彼は趣味で、書などの分析をやる。
単純に自分のルーツである中国発祥の文化の研究が趣味というだけで、本業は、宇宙線の研究だ。主に波の解析で・・・と言っても、専門的なことはここでは関係ないだろう。
陽介は、彼の趣味から、とある質問を行って、ある程度結論はもらっていたのだ。
ただ・・・
(そういえば、以前中国政府関係者から壺の鑑定を打診されたとき、本物をよこさなきゃ見ない、とかごねてたよな)
陽介は、そんなことを思い出したのだった。
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