第38話
簡単に自分たちの間柄を陽介に語った西園寺は言う。
「だからこそ、緑川桜子が殺されても仕方がないって思うし、その手段としてスズラン毒を用いてもおかしくない、と思っている。」
と。
「それはどうして?」
「緑川は、自分の言葉は全部受け入れられて当然だと思っているような、傲慢な奴だ。表だってはどうでも、心の中では嫌っている奴も恨んでいる奴も多い。」
「あなたたち、3人も?」
「だろうな。あえて言うなら、3人だけじゃなくてガチ勢なら全員だ。少なくとも、俺には思うところもある。ただ、あいつは自分がどんなひどいことを言ってるのか、やってるのか、分かってないところがあるからな。よく言えば無邪気、なんだよ。人の気持ちを思いやるという発想もないんじゃないか?」
「ひどい言われようだ。」
「だな。だからって訳じゃないが、腹を立てることも多いが、仕方がないって諦めているところもある。なんていうか、殺すにしたって、なんで自分が殺されるのかさっぱり分からない、って顔をされたら、殺しがいがないって言うか、馬鹿らしいだろ?だから、俺は
「だから?」
「だから、緑川が殺されたって不思議じゃないってわけだ。ガチ勢になら誰にでも、な。」
例えば、延命賢吾。
後輩に好意を持っていた。その後輩がいじめられていたと思ったら、最後のたがが外れるかもしれない。
例えば、品川緑子。
いつも奴隷のようにこき使われていた。どこかで堪忍袋の緒が切れるかもしれない。
例えば、鶴野部長。
マネージャーのようなことをやって、出版社にもコネを獲た。彼女さえいなければ、そういう思いが行動を起こさせたかもしれない。
例えば、須東菜穗。
桜子の勘気に触れて部のクビを言い渡されたとしたら、かわいさ余って憎さ百倍となるかもしれない。
例えば・・・
例えば・・・
例えば・・・
「俺は、はじめは延命を疑った。実は、奴が思い詰めた顔で緑川の部屋の近くにいたところを見たんだ。ドッキリを撮影しよう、とか急に言い出されたから、バッテリーの予備を取りに部屋へ戻ったんだが、そのときにな。廊下で、緑川の部屋の方からあいつが歩いてきて、声を掛けようとしたんだけど、顔を見てやめたんだ。よくあることっちゃああることだったんだけどな。あいつ、緑川におもちゃにされてたしな。」
「よくあること、ですか?」
「散々着せ替え人形にされたり、俺とカップリングされたりさ。うれしいわけないだろ。緑川の側を離れると、よく死んだ顔してたからな。部員ならみんな知ってると思うぞ。」
「はぁ。」
「だからそんときは、またか、ぐらいだったんだけどな、実際部屋に入ってああだったろ?あいつ、とうとうやっちまったか、って思ったんだ。」
「なのに黙っていたんですか。警察とか来たんでしょ?」
「・・・だな。だけど対処が素早かったんだよ。特に部長とか、な。」
「?」
「まず救急と親に連絡をしたんだ。そうして、全員を閉め出した。見た者に箝口令を敷いてな。」
「部長が、ですか。」
「ああ。で、救急が来る前に、ホテル詰めの医者が来て、緑川の両親が来て、部長が説明した。そのまま、気がつくと、ベッドで病死したことになっていた。警察が来て検証に呼ばれたけど、そんときには、そんな話になってたんだ。」
はぁ、と西園寺は大きなため息をついた。
「そのとき、延命じゃないかも、と思ったんだ。死体を発見したときは延命だろうって思ったんだが、あの部長の対処は早すぎて怪しいと思った。それに・・・」
「ミュゲ、ですか?」
「ああ。ミュゲ、スズランだ。テーブルの下に転がってたスズランの花が、気がつくと消えていた。緑川が死んでバタバタしていたからどの時点でなくなったかはわかんないし、誰がやったかなんてもっと分からない。だが、遺体をベッドに置いた後、全員を追い出して、部屋の番をしたのは、部長だ。」
「一番あやしい?」
西園寺は大きく頷いた。
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