第33話

 須東の言葉にみんな、思い思いの苦い顔をした。

 そんな中でも、一人絶句したような、信じられないというような、今にも泣き出しそうな、そんな表情をする人物。

 (やっぱりなぁ。)

 陽介は彼を見て、ほっとしたような顔をした。



 「延命先輩。だ、そうですよ。」

 「・・・」

 「聞きましたか?須東さんは殺していません。緑川先輩の死になんの接点もないんです。」

 「うそ・・・・だろ。」

 「延命先輩。ひょっとして、須東さんが緑川先輩を殺したと思ったんじゃないですか?思い詰めたように出てきた彼女を見て。ひょっとしたら泣いていたのも見たのかな?何かあったと思って、緑川先輩の部屋へ入った。そのときは死んでるなんて思ってもみなかったんでしょうけど、後輩をいじめるな、ぐらいは言おうと思ったんでしょうか?リビングにいると思ってたのにいなかった。探すとベッドに苦しそうに寝ている。まさか、と思い近づくと息をしていない。これは須東さんがやったに違いない。そう思ったんじゃないですか?須東さんがここに来たことはみんな知っている。このままだと捕まる。なんとかしなくちゃ。そう思って、お湯を張り、緑川先輩をお風呂につけ、電源を入れたドライヤーを放り込んだ。お湯に入れると、死亡時刻を分かりづらくできる、とも思ったんでしょうか?」


 延命は陽介の言葉に、さらに驚愕を深めていく。


 「なんで、分かって・・・」

 「フフ。やっぱり先輩は殺してませんよね。変な細工はしたんでしょうけど。」

 「それは・・・」

 チラッと須東を見る。

 「私はやってません。」

 そんな延命に、しっかりと須東は答えた。


 「はぁーーー。」

 ズドン、と、音を立てて、延命が座り込む。

 頭を抱えて三角座りで、小さくうめく。

 「あー、ばっか見てぇー。」

 しばらくして、天井を仰いだ延命がそう言った。


 「そうだよ。僕はあのとき、須東を見てあのやろうって思ったんだ。あんなに慕ってくる後輩を泣かすか?ふざけんな、って思ったら、カッとなってあいつの部屋に突撃したんだよ。そしたら。はんっ。おまえの言うとおりさ、田宮弟。しかしなんでそんな見てきたみたいにわかんだよ。」

 確かに。

 あやめや文芸部のみんなが、頷きつつ陽介を見る。


 「えっと。最初おやって思ったのは、お風呂の中の緑川先輩を見たときですね。少なくとも感電しているようには見えなかったんですよ、きれいすぎて。」

 「どういうこと?」

 「やけどの跡もないし、表情も・・・多分誰かが目を閉じてあげたのかな、って思って。少なくとも産毛ぐらいは逆立つでしょ?西園寺先輩の撮影じゃ、どアップで肌が映ってたし、それを拡大して専門家にも見てもらいました。」

 「ああ、アメリカの友達?何?それを見せに行ったの?」

 あやめが問う。

 「それだけじゃないけどね。映像ではお湯につかってない部位も映ってて、それを分析したら、湯には死後入れられた可能性が高いって話しだったんだ。」


 アメリカの友人の分析では、この時点では生体反応がないように見える、ということだった。いくつかあるが、誰にもわかりやすいものとしては、汗一つかいていないということが上げられる。アップにした皮膚は、内からの水分が確認されず、場所柄幾分かの水分はみとめられるものの、いずれも生体反応、つまり汗ではない、そう結論づけられたのだった。


 「ちょっと君。証拠があるのかい?」

 簡単に説明する陽介に、警察官が驚き、そして慌てた。病死として処理された事案だ、そもそもまともな捜査は行われていない。そこを映像だ分析だと言われて、少々焦っているのが見て取れた。


 「証拠、ですか?ビデオデータはありますよ。その分析結果も英語でよければ渡しましょうか?」

 「英語?・・・・まぁ、その、できればもらいたい。が・・・」

 「クローズドした案件を掘り返すのはイヤですよね?」

 「まぁ。ん。いや。それは・・・しかしまぁなんだ。彼が殺していない証拠ならいいと思う。死体損壊や犯人隠避・・・いや、そもそも病死なら犯人はいないが・・・」

 「そうですか。後で必要なものはお渡ししますよ。」

 「あ、すまん。しかし、よくそんな映像を分析なんてしたな?」

 「それは、なんかいろいろ不自然だと思ったからです。」

 「不自然?」

 「はい。だって今時こんなベタなトリックで殺人、とか、不自然じゃないですか?」

 「うっ。」

 陽介の指摘は、延命にダメージを与えたようだ。

 とにかく好意を寄せる女の子の罪を隠さねば、と、頭を働かせたのだろうが、それを一刀両断されて、羞恥を覚えたらしい。


 「それに・・・」

 陽介は、横目でそんな延命を見つつ、無視して続けた。


 「それに彼女のドレスが違和感でした。」


 ドレス?


 またも、場にハテナが飛んだのだった。

 

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