第31話

 緑川桜子の両親、そして警察官数名、桜子の亡くなった当日の合宿参加者、そして陽介とあやめ。

 ホテルの15階、文芸部合宿所へと集まった。


 多くの部員は、桜子の死んでいた状況を知らない。

 ベッドの上で就寝中に亡くなった、と、思っているのだろう。もしくは、発作的に苦しくなって、ベッドへと倒れ込んだとか。

 実際は遺体発見はバスルームであった、との公表はされていない。


 バスルームで倒れていたことを知っているのは、文芸部では4名。

 遺体発見者である須東と西園寺。

 そして、その二人が大声を出していたこともあって、不審を抱いて飛び込んできた品川と延命。

 そして、異常発生の知らせを受けた責任者である部長鶴野。

 これは、駆け込んできた品川と延命に「部長を呼べ」、と、西園寺が怒鳴ったため、延命が走ったのだそうだ。

 そのとき、部長は複数名といまだ共有スペースにいて、延命の知らせに他の者はこの場で待機と命じて、自分だけが延命とともに駆けつけたとのことだった。


 バスルーム云々のことを伏せたまま、当時の詳細がそんな風に部員達によって語られた。


 「病死、じゃないんですか?延命が自首ってどういうことです?」

 ある程度、遺体発見当時の様子を警察が確認したときに、ある男子学生が尋ねた。

 何人かが、そうだそうだ、というように頷く。

 急に、延命が自首したから合宿所に集合、と呼び出されたのだ。不安になっても仕方がないだろう。


 「僕が眠っている彼女を風呂に入れ、ONにしたドライヤーのコードを湯の中につけた。一か八かの駆けだったけど、あれだけ酔っ払っていたんだ、仮に生きてても自分で風呂に入って寝てしまったって思うだろう、って思ったからな。」

 「なんで・・・」

 「なんで?フン。分かるだろう?こっちは何度もやめてくれって頼んだんだ。BLのモデルにするのも着せ替え人形にするのもな。もうウンザリなんだよ。みんなも知ってるだろう!」

 部員達が気まずそうに顔を伏せ、互いの様子をうかがう。

 彼ら彼女らは、桜子と一緒に、その様子を楽しんでいたのだから。



 「それは、本当なの?その・・・桜子が、そんないじめみたいなことをしていたなんて・・・」

 桜子の母が驚いたように尋ねた。横で父も苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

 部員が顔を見合わせる中、西園寺が口を開いた。

 「本当ですよ。なんなら見せましょうか?ビデオがあるんで。延命が着せ替えさせられているところとかね。それに、俺と延命で恋人のふりをさせられました。キスなんてまだかわいいもんだったよな。」

 西園寺が部員を見渡す。

 みんな顔を背けたことが、事実を雄弁に物語っていた。


 「フン。あんたんところのお嬢様は、妄想の中で俺たちにエログロをさせて、耽美とか言いつつ、公開していたんだよ。さすがに外に出せないことは、しっかり口頭で、本人判断でOKだと思ったラインまでは文にしてな。気持ち悪ぃぜ、まったく。」

 「・・・・そんな・・・」

 「緑子、それは本当か?」

 絶句する母親を尻目に、父が緑子に問うた。

 緑子が小さく頷くのを見て、クッと喉を鳴らす。

 「なんで、報告しなかったんだ?」

 「・・・申し訳・・・ありません。」

 小さく答える緑子に攻めるような視線を父親は送った。


 「おいおい。ちょっとおっさん。いい加減にしろよ。品川が言えるわけないじゃん。あんた、娘のこと全部品川に放り投げて、我関せずだったんだろうが?みんな知ってるぜ。緑川は品川のことをメイドどころか奴隷だと思ってるってな。」

 西園寺が、そんな父親に吠える。

 えっ、というように目を見開く父だったが、本当に何も知らなかったのだろう。

 「本当、なのか?」

 「いえ、そんなことは。」

 「正直に言いなさい。私は君のことも自分の子だと思っているんだぞ。世話になるのに忍びない、働かせてほしい、そういうから、形だけの家政婦見習いとして来てもらったんだ。仕事は桜子の遊び相手、そう言ったはずだ。世話を焼くようなことはするな、そう言っただろ?」

 「はい。」

 「じゃあなぜ!」

 怒鳴る父親からかばうように西園寺が緑子の前に立った。


 「あんた、娘の性格、ちっとも分かってないんじゃないか?遊び相手?ああ確かにそう言ってたね。をやりましょう、そんなことを言ってたっけ?あいつにとっちゃ、品川だけじゃない、みんな奴隷みたいなもんなんだよ。独裁者ってやつさ。誰もあいつに頭が上がらない。それをいいことにやりたい放題。できるだけ被害を減らそうと、品川は矢面に立っていたから、まだマシだったんだろうけどな。」

 「そんな・・馬鹿な・・・」

 「何が馬鹿だ?彼女こそがこの部では法律だったんだよ。なんせ金も握っているし、多くの生徒があんたんところの会社に間接的にでも世話になってるからな。延命が殺した?マジかよ?もしそうだったら奴こそ英雄じゃね?そう思ってる奴、結構いるぜ。この俺も含めてな。」


 今度こそ、緑川桜子の両親は立ちすくむのだった。


 

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