第30話

 「自首した?」


 陽介は、夕飯中、かかってきた須東からの電話に出ると、素っ頓狂な声を出した。

 須東が泣きながら言った言葉。

 『よくわかんないんだけど、延命先輩が先生を殺したって警察に自首したって・・・』


 同じような内容は、あやめも同学年の文芸部員から複数受けたようだ。

 どうやら、陽介達と別れて帰宅、その後、両親を呼び出した上、自分は同級生を殺したから自首したい、と告げたらしい。

 慌てた両親だが、緑川桜子が合宿中に急死したというのはもちろん知っていた。

 病死だとは聞いていたし、実際緑川は自分の経営する会社の親会社的な立ち位置の会社でもあって、家族ぐるみで付き合いもある。

 親子3人で、お通夜は参ったのだった。



 急性アルコール中毒。

 そんな噂は耳にしていた。

 実際、自分の子に聞きただし、飲酒をしていたことは聞いていた。

 理由はともあれ、飲酒が原因かもしれない。

 良くないことだが、心不全による突然死、としてその死は処理されたらしい、というのは息子が立ち会ったことでもあり、把握していた。


 が、夕方、突然話があるから、と家に戻るように連絡を受けた両親が耳にしたのは、自分が殺したから自首したい、と語る息子だった。

 問いただしても、ただ、自分が殺した、というばかり。

 緑川家に、謝罪と息子を警察に連れて行く旨を告げて、それを実行したのだそうだ。


 これに慌てたのは緑川家だった。

 死体発見の様子から、アルコールで酔ったまま風呂に入り心臓が止まったか、ドライヤーのコードが湯につかって感電したか、どちらにしても娘の愚かな行為による病死か事故死。

 いずれ、本人の不注意に起因するならば、せめてベッドで死んだようにしたい。風呂中で死んだとなれば、誰もが裸体を想像する。しかも泥酔中に風呂など失笑物だ。

 そう考え、本人の名誉のためにも、緑川家の名誉のだめにも、安らかに、とは言いがたくてもベッドで突然死したのだ、という形にしたい。

 そういう意向が、このホテルと提携関係にある鑑定医にも、個人的にも既知の間柄である現場をしきる警察官にも、なんとなく察せられたため、今回のような事案処理となったのだった。



 ただ、病死か娘の不注意からの事故死であるならば、その程度の忖度をねだるのも、いたしかたはない、少なくとも緑川家において、それは是とするところだった。

 何を言ってるの?と普通の感覚からすれば非難ものであろうが、現実とはそのていどのものなのかもしれない。


 だが、殺した?


 殺人となると話は別だ。

 自分のかわいい娘を殺した?

 誰がなんのために?

 いや自首してきたのだから延命のところの息子か?

 だがなぜ?

 父は、緑子に本当のところ何があったのか、部員を集めて聞き出すよう指示をした。



 須東をはじめ、陽介やあやめに連絡をよこした文芸部員の話を総合するとそんな感じであった。

 そもそも、風呂で亡くなっていたことを知っている者は少ない。

 緑子は、緑川の家長の命で、亡くなった当日の合宿参加者を、現場、すなわち合宿所に呼び出すようにと指示をされ、須東他該当者に連絡をよこしたらしい。

 あやめが緑子に直接聞き出したことから、緑川家内での騒動が田宮姉弟(?)の知るところとなったのである。



 翌日。


 合宿所には該当者が集められ、追加で陽介とあやめも参加することになった。

 そこには、警察の人に付き添われた延命の姿もあった。

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