第29話

 お菓子の差し入れ、ということであやめが陽介とともに文芸部へと入り込んで聞いた話では・・・



 一番変わったのは部長だということだった。


 彼、鶴野大志高校3年生は、部員の印象ではまさに緑川桜子の腰巾着といったところだったそうだ。

 何か彼女に対してのクレームが部員からあれば「スポンサーは神様です。」と、我慢を強いるような人だったらしい。

 桜子の生活の世話をするのが品川緑子であるならば、その仕事に関するマネージメントは彼の仕事だったらしい。


 複数の書籍化作品を連載し、出版社とのやりとりも多い。

 美人で若い高校生作家は、マスコミからのオファーもそれなりにある。

 それらを捌いていたのが、この鶴野部長だったらしい。

 そのことから、文芸部としての活動=執筆活動がままならず、彼が物を書けるのかすら疑っていた者も少なくなかった。


 が、彼女の死後は一転。

 部員を顎で使い、自分は執筆以外は行わない。

 そして、その指示は品川緑子へと押しつけているようだった。

 部員の噂はさらに進む。

 部長は、霧隠才庫のマネージャーとして出版社に顔を聞くものだから、彼女の代わりの作家として自分を猛烈にプッシュしているのだ、と。

 霧隠才庫に成り代わろうとする身の程知らず、それが現在の部長への評であった。



 部長同様に執筆活動に力を入れるようになった、という意見が出た人として、延命&西園寺もあげられた。


 そもそも、彼らは物が書きたくて文芸部に入っている。

 中学から緑川桜子と同学年だった彼らは、中学1年の時から同じ部でやってきた仲間だった。これに品川緑子を加えて互いに切磋琢磨するも、桜子がデビューした頃から、いろいろと関係が変わったらしい。

 気がつくと、二人は桜子の言われるままに、着せ替え人形やらカメラマンやらにされていて、執筆時間などあまりとれなかったらしい。


 それが、彼女が亡くなって、思いのまま執筆ができるようになった。今は水を得た魚のように、書きまくってる、という。

 それが何かから逃れるようでもあり、何かを忘れないようにするためのようでもあり、最近はあまり声がかけづらくなった、というのが、彼らを見るためだけに入部した者達の意見である。



 「後は須東ちゃんかなぁ。彼女すっごく霧隠先生に傾倒してたからさ、なんかたまに豹変して怖いのよねぇ。特に品川さんに当たりが強くて、慌てて仲裁に入ることもあるのよ。」

 「まぁ、品川さんは気にもしてないみたいだけどね。彼女ぐらいかしら、ほとんど変わらないのって。一番近かったって思ってたけど、でも彼女のこと物扱いしたりして、ほんと、ひどかったからねぇ。いてもいなくても同じ、むしろすっきりしたんじゃないかなぁ。あっと、死んだ人の悪口はダメね。今のオフレコで。」

 「でもほんと、品川ちゃんっていい子よねぇ。あれだけされても悪口一つ言わないし。緑川さんのことにしても須東ちゃんのことにしてもさぁ。」

 「そうそう。男子人気もなんだかんだで一番じゃない?古風でいいって。」


 ねぇぇ。そう女子たちがハモる。

 男子もうんうんと頷いている。

 なるほど、彼女の評判は本当にいいようだ。須東以外には。



 そんなこんなの話を聞いた二人は、その日は連れだって家に帰る。


 だが、そのニュースを聞いたのは、夕飯を食べているときだった。

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