第28話
部活動禁止期間を挟み、中間テストが終わって、やっと、普通の放課後が帰ってきた頃。
演劇部では、脚本がデータで配られ、誰のを採用するのか選考中らしい。
「でも殺人事件とかだったらさ、使えないかも、だよねぇ。」
あやめが、スマホで脚本を読みながら、そんな風に言った。
彼女の自宅である。
目の前には従兄弟。
未だ、寮に返してもらえず、しかもなぜか与えられた部屋に、従姉妹どのがやってきて、スマホを片手に何やら言っている。
「あやめ姉ちゃん。読むなら自分の部屋でやりなよ。」
「だってさ、殺人事件だよ?どうなのよ、ようちゃん。私のこれは無駄にならない?」
あやめは、スマホをブンブン振り回しながら言う。
「知らないよ。そもそもさ、病死ってことにしたんでしょ。今更かき回して事件だったら困る人いっぱいいるよ?」
「そんなこと言って、殺人犯とか側にいたら怖いでしょ?」
「うーん。」
「それにようちゃんは、これが病死じゃないって思ってるよね?」
「・・・それは・・・」
「そのためにアメリカまで行ったんでしょ?」
「うっ。」
「それは無駄だったの?無駄に学校休んでアメリカまで行ったの?病死でもいいのよ。それが真実だって言うなら、それが判明したってことであんたの行動に価値があると思うよ?でもさ。打ち切り、ってのはないでしょ?ないよね?ないからね!」
「う、うん。」
あやめの圧に、陽介はタジタジになる。
「で?」
「へ?」
「だから真実は?分かってんでしょ?」
「いや。その・・・推測はいくつか成り立つけど・・・」
「教えなさい。」
「・・・ちょっと確認したいことがあるんだ。」
「何よ。」
「うん、ちょっとね。・・・明日、文芸部に行ってくるよ。」
「何よ。私も行くわよ。」
「いいよ。一人でいくから。」
「あんたが勝手に解決してしれっと終わり、がいやなのよ。」
「別に明日じゃ解決は・・・」
「いいわね。私も行くからね!」
「う、、うん。」
翌日。
陽介とあやめは、文芸部の部室にいた。
「ちょっといいですか、延命先輩。」
陽介は、延命の姿を見つけて、外へと呼び出す。
「なんだい?」
現れたのは小柄な少年。
延命賢吾。高校2年生。被害者の同級生にして、ある意味いじめられていた対象といえるだろうか。
桜子は、同学年の西園寺とこの延命を自身の小説=BLのモデルとして公言。
また、彼が小柄で、女の子にも見える容姿をしていたことから、桜子の指示で着せ替え人形のようなことをさせられていた。女装も含め、常にからかわれる対象だったらしい。
「すみません、呼び出したりして。ちょっと聞きたいことがあって。その、緑川先輩が亡くなった日のことです。」
「はぁ。まだやってるの?あれは病死ってことになってる。本当は事故死だったけど、って、知ってるはずだよね?」
「それは、まぁ。」
「だったらもうそっとしておけば?僕らも迷惑だし、彼女だって浮かばれないよ?」
「ハハハ。その原因が、飲酒じゃ、笑えないですけどね。」
「!チッ。脅すのかよ。」
「まさか。ただ知りたいだけですよ。あの日、先輩は須東さんとすれ違ってますよね、緑川先輩の部屋の前で。」
「・・・それが?」
「そのときの須東さんですが、どんな様子でした?」
「・・・知らない。彼女とすれ違ったけど、顔までは見てない。彼女は・・・普通だった。そうだ、普通の彼女だったよ!」
「そうですか?おっかしいなぁ。彼女、テンパってたり泣いたりしてませんでした?あと、慌てて部屋から出てきた、とか、走り去った、とか・・・」
「そんなことはない。彼女は普通だ。普通だったよ。それだけかい?だったら僕も忙しい。失礼するよ。」
そう言うと、延命は陽介達を押してその場を立ち去った。
いや、部室に戻るとすぐに鞄を持って出てきて、そのまま学校を去って行った。
「何あれ?それにどういうこと、ようちゃん?ひょっとして延命君・・・」
あやめがそんな延命を視線で見送る陽介に問いかける。
「はぁ。いや、なんでもない。何でもないよ、あやめ姉ちゃん。」
「なんでもないって感じでもなかったでしょう?それに彼、あんな風に荒げるのって、あんまりないよ?まぁ、緑川さんの件の後は、様子が変わったけど・・・」
「うん。まぁ、今はいいや。それよりあやめ姉ちゃん。他の人にも聞きたいんだ。あの件から変わった人はいないかってね。さっきの延命先輩みたいに。」
「そう。じゃあそうしましょうか。」
二人はそう言うと、文芸部の部室へと再び足を踏み入れた。
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