第20話
21時30分。
桜子不在で緑子の批判とそれへの批判の応酬も収束した頃。
彼女を呼びに行くか解散か、そんな話になったらしい。
彼女は中座をした後、結局寝ている場合も多く、そんなときは宴会はそのままお開きになる。が、勝手にお開きにすると起きていた場合には怒るので、一応確認に行くのが常であった。
この確認は、須東が行うのが常だったらしい。
唯一、緑子なしで桜子と触れあうチャンスなのだとか。
特に機嫌が良ければ、お湯張りやら、飲み物の用意などのお世話ができる。
桜子ファンの須東にとって、彼女のお世話は大変名誉なこと。緑子より役立つと思ってもらうのだ、と、アンチ緑子筆頭の彼女は、鼻息荒くこの大役をつかみ取るべく立ち上がったのだ、と話してくれた者は苦笑した。
そんなわけで、須東が確認に行き、桜子がベッドにいるのを確認。
「結構長い時間中にいたから、起きてるか、お風呂の用意をしてるのかと思ったんだけど、寝姿を遠目に見てただけって言ってたわよね。」
「遅いから誰かが様子見てくるって行かなかったっけ?」
「あ、それ延命君。ほら、彼、心配性だから。須東ちゃんオンリーで、ね。」
フフフ、ハハハ、とさも楽しげに笑う少女達。
そんな文芸部員を見ながら、
(最後に寝ている姿を確認したという須東さん。そしてその様子を見に行った延命君。その延命君は須東さんが好き?これはメモをして置いた方がいいかしらね。)
などど、あやめは心の中で語ったのだった。
21時45分頃。
須東の報告で桜子が寝ていたと知った部員一同。
延命が戻っていないので、それを待って解散しようかと話をしつつさらに30分ほど無駄話をしていた。
が、延命は戻らず、そのまま勝手に部屋に戻ったのだろう、などと話をする。
そんな中、
「お姫様の寝起きドッキリ、なんて良くないですか。」
と、誰かが言い、飲んだ頭で実行が決まった。
22時20分頃。
カメラ係の西園寺とレポーター役の須東が送り出される。
22時24分。
ビデオカメラの記録により、この時間は正確で、まさにこの時間、西園寺が桜子を湯船から抱き上げた。
すでに息はしていなかったらしい。
なお、この騒ぎで部長と品川、延命が部屋に駆けつけた。が、他の者はすぐに立ち入り禁止にし、風呂から救出されたことを知るのは、警察に立ち会った者だけである。
この辺りはようちゃんが持って帰ったデータにある、と。
それにしても、高校生が羽目を外しすぎよねぇ。
ようちゃんはこの様子をビデオで見て、何を思ったんだろう。
そういえば、やたらとドライフラワーを気にしてたっけ?
あれを提案したのは確か西園寺君だっけ?
「そういえば西園寺君。あなたがドライフラワーにしよう、って言ったんだっけ?」
あやめは、その場にいた西園寺に聞いた。
「ああ。」
「それは、なんで?」
「・・・緑川が気に入っていたからな。自分のようだ、とか言って。」
「そうよねえ。あの人、あんな派手なくせに、桜のような色の花が自分のようでかわいい、とか、よく言うわ、と思ってたのよね。」
「そうそう。なんか白ばっかで陰気くさい花が好きだったみたいよね。」
「一条さんがきれいだからって買ってきた真っ赤なバラとか、私はこんな下品じゃない、って投げつけたんでしょ?」
「あ、それ聞いた。それで彼女、部をやめたのよねぇ。他にもきれいな花束を持ってきた男子とか、けちょんけちょんに言ってたって。」
「ハハハ、そんなことがあったんですねぇ。で、なんでドライフラワー?」
「・・・・あの花が捨てられるのは良くないかも、と思ったんだ。多分、本当に好きで、テーブルで眺めてたろうから。」
「?どういうこと?」
「あのお嬢様のことだ。自分で何かするなんてことはなかっただろう?だけど花は違うんだなって。テーブルに飾ったり、自分で水を替えたりしてたんだろうな、そう思ったから、かな?最後に愛でたやつを取っときたかった。」
「へえ。ひょっとして西園寺先輩って、緑川先輩のこと、好きだったとか?」
戸惑いながらポツポツと言う西園寺に、果鱗がうれしそうに言う。
恋愛話が好きすぎる後輩にも困ったものだ。時と場合を考えてほしいわ、などとあやめは思うが、「え、ほんと?」等々、文芸部の女生徒たちも興味津々の様子だ。
「はぁ、違う、違います!むしろ嫌な奴だなぁ、と思ってた。だけど、こんな意外な一面もあるんだなって思ったら、感慨深い、というかなんというか・・・」
「きゃっ、それってギャップ萌え?!」
ますます女生徒達を盛り上がらせるのだった。
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