第16話
陽介は、あやめと別れて寮の部屋に戻ると、もらったUSBをパソコンに差し込んだ。
そこには複数の動画や静止画が入っていた。
1つめの動画は遺体発見時のものだろう。
最初は、テレビでよくあるような寝起きドッキリを真似たのか、しーっと指を立てて、ドアの前で振り返る須東が映っている。そしてそうっと、鍵をまわし、扉を開ける。
そのままベッドルームへ。
カメラはその背を追う形だ。
ここでも後ろ向きの須東が振り返り、再びシーッ。
「ってなぁんだ、先生いないみたいですぅ。あ、私、バスルーム見てきますね。あ、先輩はここらで待っててくださいよ。おのぞき
ウィンクしてパタパタと走り去る背を撮り、そのままカメラはリビングへを映す。
テーブルには水差しと、空のコップが1組。
窓際には、今はドライフラワーになっている白を基調とした花。
開けられたクローゼットには、衣装のドレスが1着だけかかっている。
隣のクローゼットは閉まっているから、わざと開けて風でも通しているのだろう。
と、パーンする感じでリビングが映される中、
「先輩、桜子先輩?・・・先生!先生ってばぁ!」
狂ったように叫ぶ須東の声。
「どうしたっ?」
そう言いながら手ぶれのカメラがバスルームへと入り込む。
「え?おいっおい、大丈夫か、緑川!」
カメラが奥の様子を一瞬映しながら床を向き、派手に振りながら床や壁が乱雑に映る。
チラチラと映る様子から、どうやらカメラは首か手首にかけられていたようで、それを支えていた手を離してカメラを放置したまま、バスタブに駆け寄ったのだろう。
突き飛ばすように須東をどかすと、湯船につかる少女を強引に抱え上げバスタブから出した・・・ところまでが映っていたのだった。
次の動画には、リビングの片隅から警官やらなんやら、たくさんの大人が慌ただしくする様子が映っていた。
部長が「西園寺が撮っていた。」と言っていた現場検証の様子がこれなのだろう。
動画では、一人に警官に、品川が何かを聞かれている様子も映っており、ときどき彼女を移動させて説明をさせているようだ。
その様子を映す間に側にいるのであろう学生がチラチラと映る。
すすり泣く須東。
険しい顔の鶴野部長。
泣く須東を心配げに見つめる延命もいた。
立ち会った人間以外、お風呂で死んだことは知らないって言ってたよね。てことは、この映ってる4人と撮ってる西園寺先輩だけが知ってるってことか。
映像を見ながら、陽介は確認した。
他にも短い動画が数点。
部員に説明する部長。泣く部員達。
慌ただしくやってくる桜子の両親やら・・・
丁寧に桜子を運び出す葬儀社の人たちとか。
静止画には、おそらく警察が来る前に撮ったのであろう写真が数枚と、警察がいなくなった後であろう、ベッドに寝かされた桜子の写真なんかも映っていた。
それらの写真と、自分が撮ってきた写真を並べ、違和感がないか、地道に比べる陽介であった。
何度も何度も動画を流しては止め、拡大し、写真を拡大したまま隅まで何かを確認。他の写真と重ね合わせたり分離させたり。
その様子は、まるで専門家のようで。
だが、そんな彼の姿を見る者は誰もいなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます