第14話

 「ちょっと、ようちゃん。」

 「ん?」

 「何やってんのよ。」

 ベッドをスマホで撮影する陽介に、あやめは後ろから声をかけた。


 案内役の延命と須東が二人とも個々に走り去ってしまった、桜子の部屋。

 二人がいなくなると、陽介は、風呂場やら、ベッドルーム、リビングをチラチラと回りながら、撮影したり、触ったりしていた。

 その後ろをついて回りながらも、ドライフラワーの花弁を数枚ちぎり、手持ちのビニール袋に入れる陽介に、あやめは我慢しきれず、声をかけたのだった。


 「んー。なんて言うか、不自然な気がして、さ。」

 「不自然?」

 「ん。だって、風呂でドライヤーで感電死、だよ?ないよねぇ。昔のミステリーじゃないんだから。」

 そうは言っても偶然が重なれば不可能ではないだろうけど、どこまでの偶然が必要か。そこまで行くと陽介にはむしろ必然じゃないか、と感じたのだ。

 仮に殺すつもりで風呂に放り込んだとして、小さな子でもあるまいし、その前段階で障害が多すぎる。年頃の女子を裸にし、風呂につけ、感電死するまでドライヤーを漏電させる?今時のドライヤーが漏電するまでストッパーがかからないのも不自然だ。


 そんな話をしながらもリビングに場所を移す。

 バーカウンターや、ソファ、窓際の花なども目視し、撮影し、最後にはソファの下を、特殊な透明のガムテープみたいなので、コロコロと掃除をした。


 あきれたように見ているあやめの前で、それらのテープを鞄にしまうと、ちょうどそのとき、部長を連れた須東が戻ってきた。

 慌ててやってきた部長に、二人は苦笑いで頭を下げる。


 「お参りっていうから認めたけど、一体何があったんだい?延命は飛び出すし、須東は西園寺の撮ったあの日の映像を見せろって言うし。」

 「あ、すみません。僕がそれをお願いしたんです。」

 「どういうことだ?」

 「須東さんから、先輩が亡くなったのはお風呂だったって聞いたもので。」

 え?と、部長が須東を見ると、舌を出して頭をコツンと叩くまねをした。

 「はぁ。・・・・困るんだよね。その・・飲酒をしてたのはこっちが悪いんだけどさ。それで廃部とか退学とか、なっちゃうとさ。」

 「飲んでいたのは、緑川先輩だけですか?」

 「・・・・いや。夜は大抵酒盛りになってた。あ、今はやってない。そもそも霧隠先生が飲むと言って、酒を提供してくれてたんだ。飲まないのは、品川君ぐらいだったかなぁ。私の酒が飲めないのか、って先生に言われたら、ねぇ。」

 「品川先輩は?」

 「あの子は真面目だからね、最初はたしなめてたんだが、ほら、先生には何もいえんでしょ。立場的にね。で、一緒に食事をするのはやめていつも部屋に引きこもってたな。ああ、先生の寝る準備だけはしてみたいだけどね。」

 「寝る準備?」

 「よくは知らないけど、寝間着を準備したり、飲み物を用意したり、とかかな。あ、時間が決まらないから風呂は別の人間がやってたよ。主に須東だっけ?」

 「はい。でもあの日は・・・」

 「違った?」

 「うん。先生は疲れたからちょっと休むって中座されて、だからお開きにしようってなったときに、私、お部屋に行ったんですよ。お風呂入れようかなって思って。でも、ベッドで寝てらしたから、そのままそおっと帰りました。」

 「え?ベッドで寝てたの?」

 「うん。」

 「そのときお風呂は?」

 「入れてませんよ。だって冷めるじゃない。」

 「いや、湯船に湯は入ってたのかなって。」

 「入ってないんじゃないですか?品川先輩が入れてたんなら知らないけど。せっかくの唯一の私の仕事が、って、悔しかったけど、バスルームには行ってないし、わかんないよ。」

 「そっか・・・」

 「それにしても、ああ、生きてる先生を見たの、アレが最後だったんだなぁ、て思うと、なんだかなぁ・・・」

 その須東の表情は、切なげで、だけどなぜか喜んでいるようにも見えて、陽介はじっと見つめるのだった。

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