第12話

 「こちらとしては願ったり、だけど、没が増えるってことですよ?」


 あやめが、文芸部の提案に疑問を投げる。

 先ほど、会議室(といっても、共有スペースの1画だが)に招かれて今後の話を始めたところ、品川・須東以外にも希望者が脚本を書くから、その中の好きなのをコンクールに使ってくれ、という提案がなされたのだ。


 「ああ。次回の季刊誌を脚本特集にすることにしたんだ。没分もこちらに掲載するから問題無い。もちろん、今回のコンクール以外に演劇部で使ってもらっても大いに結構だよ。」

 「なるほど。それはうちとしてもありがたいです。」

 あやめもニコニコと答える。

 どうやら部長としては、部としての発展も狙っており、小説とは違う脚本という分野の開拓も考えているらしい。というか、そもそも自分がそういう分野に進みたいのかも、と、陽介は思った。


 部長の話によると、ここで作業をしているのは、主に脚本企画に参加しようとしている者達らしい。

 まもなく学校としては中間テストの時期でもあり、試験前1週間は部活動ができない。それまでになんとか上がった脚本を演劇部に提供する、ということのようだ。

 10人できかない人数が、あちらこちらで執筆していたり、資料をあさったりしている様子に、学生特有の静かな熱気が感じられて、陽介は密かに興奮していた。


 「それにしても、みんな熱心ですね。怖くないのかな、とも思っちゃうけど。って、仲間だものそんなことないか。失礼しました。」

 あやめも、そんな彼らの様子を見て、思わず口にしたのだろうか。

 怖い、というのは、緑川桜子がこのホテルで亡くなったと推論したからだろう。合宿中に亡くなった、と聞いていたのだから。


 「いや、怖がる子も多いよ。自分の家で書く、というのもいるしね。ここにいるのはそんなことを気にしないか、むしろ気にしつつ、彼女の存在を感じていたいか、まぁ、そんな奴らかな。ハハ。」

 「えっと、ここで亡くなったんですよね、緑川さん。」

 「ああ。正確には彼女の部屋で、ね。」

 「彼女の部屋ですか。・・・あの、心不全、でしたっけ?」

 「・・・・ああ。」

 部長が少しどもる。

 おや?と陽介はその表情に引っかかった。


 心不全、というのは、桜子の母に聞いた話である。

 実際、医者の認定がそうなっていたらしく、場所柄警察が入ったが、問題無く遺体は返されたそうだ。


 部長のためらいに気づいたのかどうか、あやめが気にした様子もなく尋ねた。

 「あの、その亡くなったお部屋って入ることはできます?できればお参りしたいな、と思って。」

 「・・・ああ大丈夫。警察も・・・まぁ、引き払ってるしね。案内させよう。」

 部長はそう言うと、延命と須東の両名を呼び、部屋へと案内させたのだった。

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