第11話
緑川家がオーナーだというその大きなホテルの一五階。
そのフロアーを、清真学園文芸部のために年間契約で借り受けているのだという。
廊下を挟んで大小各十室ほどあるそのフロアー。
その両再奥はスイートルームとなっていて、片方は緑川桜子専用部屋となっているらしい。
この階にはスイートルームは他に2室。
この2室は解放され、部員みんなが活動のために共同で使用できる。
桜子の部屋とは、反対の端にあって、この2室は繋げることができるいわゆるコネクトルームになっていた。
実際の活動部屋は、このコネクトルームであり、各部屋には寝に帰るだけ。
一人で執筆する方がいいという者は自室に戻る者もいるが、参加人数によって、同室の者がいる場合も多く、結局はこのコネクトルームで過ごすのがパターンなのだという。桜子とその隣の部屋の緑子。そして階の中央に位置する部長の部屋、以外は、その都度部屋が割り振られる仕様になっているのだ。
緑子からそんな説明を受けつつ、そのコネクトルームへ向かう3人。
その部屋では、文芸部の部長をはじめ、数名が作業をしているようだった。
「やあ田宮姉弟、よく来たね。」
そう言って迎えてくれたのは鶴野部長だ。
何やら今日は機嫌がいいらしい。
ちなみに今日いるメンバーはほとんどが学校の制服で、数名コスプレしている人がいる程度。いや、普通の私服もいるか?
ちなみに部長は制服である。
「姉弟じゃなくて従兄弟なんだけど、まぁいいわ。ご招待いただいて、来させてもらいました。」
「あの、あれは?」
あやめが挨拶をする横で、陽介が気づいて指摘するのは、浅黒く日焼けした男子生徒だ。
一見運動部所属にしか見えないが、そういえば初めて文芸部を訪ねたときには道着、弓道の道着みたいな格好をしてた人か?映像の中にはいなかったけど。そんな風に陽介は記憶を探った。
「あ、あれは高2の西園寺だ。事後承諾で悪いけど映像を撮らせてもらっていいんかな?この前のビデオでも分かると思うけど、ちょくちょく活動の記録を撮っていてね。彼が去年からの記録係なんだ。その・・・緑川さんの指名でね。」
「緑川先輩の?」
「まぁ、・・・なんだ。そういうことだ。で、いいよね?」
「私たちはいいですよ。ね、ようちゃん。」
「う、うん。悪用しないなら、ですけど。」
「悪用だなんて、とんでもない。」
「じゃあ、はい。」
プライバシー等考えると簡単に首肯できないと思いつつ、部活動の一部としては認めざるを得ないんだろうな、などと、陽介は考えた。
それにしても・・・・
桜子の指名でカメラマンをしているという西園寺。
だが、部長がなぜか口どもったり、かすかに皮肉な表情を見せたことに陽介は気づいていた。
何かあるのだろうか?
「ああ、田宮先輩と田宮君。ややこしいから私もようちゃんでいいよね?なんたって運命共同体だし?って、ああ、ようちゃんてば、西園寺先輩のこと気にしてるぅ。もう、やっぱりかわいい子は西園寺先輩の色気に夢中になっちゃうのかな?かなかな?」
そのとき、黄色いドレスの須東が、奥からやってきたらしい。
肘で陽介を突きつつ、そんなことを言う。
「ちょっとあなた、なんでもかんでもその腐った頭で見ないでよね。うちのようちゃんをおかずにするのは許しません。この依頼なかったことにするわよ。」
あやめにぐいっと引っ張られて囲い込まれた陽介は、まるでデジャブだ、と肩をすくめた。
「いや、そのごめんなさい。調子に乗りました。でも、その西園寺先輩だし、ね。」
「西園寺君が何?」
「それは、ねぇ・・・」
チラッと後方を見る。
その視線の先には、小柄な少年の姿。制服を着ているけど、映像にもちょくちょく出ていた少年だ。
グリーンのカボチャパンツをあの日は着ていたけど、ビデオの中では桜子の着せ替え人形になっていた、あの少年だった。
「延命君?彼がどうしたの?」
あやめは彼を知っているようで、須東に尋ねる。
「いや、そのですね。西園寺先輩って格好いいじゃないですか?こうワイルドで。でもって、かわいい系男の娘の延命先輩とは公認の仲じゃないですかぁ?シッシッシッ。」
わざと変な笑い方をする須東に、田宮姉弟は眉をしかめる。
「何よそれ。」
「だから、カップリングですよカップリング。桜子先輩が言うんですから間違いありません。ほら延命先輩かわいいでしょ?そのかわいさを一番残せるのは、彼を愛している西園寺先輩だってことで、我が部のカメラマンに大抜擢されたんですよ、西園寺先輩は。ですよねぇ、部長。」
「んー。それはどうかな。まぁ、違うとも言い切れないというか。霧隠先生だしね。」
ようは、勝手に二人をカップルということにした桜子が、恋人だといい絵がとれるとして、西園寺をカメラマンにすると決めたって事か。二人が本当にカップルかどうかは分からないが、と、陽介は思う。
大学時代に仲のいい学生が、実は男同士で恋人だった、ということは、何度か経験している。その経験からして、彼らがそういう性癖の人か、は、今の段階では分からないが、なんていうか、違うような気もするなぁ、陽介はそう感じた。
少なくとも延命と言われた彼は、自分のことを言う須東に非難の視線を投げているように、陽介には感じられたのだった。
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