第7話

 「え?時代劇じゃ無いんだ?」

 あやめから、コンクール用の台本は、一人の男を巡る男女の三角関係を描いた現代物だと聞いた陽介は、思わずそう聞いた。

 「うん。緑川さんと言えばBLだからね。」

 「BL?!」

 「やだ、ようちゃん、アメリカにいて知らないの?ボーイズラブ。男と男の恋愛ものよ。」

 「いや、BLは知ってるけど。ちなみにアメリカでそんな言葉無いからね。」

 正確には日本から輸入されて、特殊な環境では使われているらしい。

 クールジャパンは、アメリカでも健在だ。


  「あの霧隠才庫の書くBLって言えば、界隈じゃ有名なんだからね。季刊誌もそれ目当てのファンで完売らしいわよ。」

 あやめの話では、季刊誌はWEBと違って本名で書くらしい。

 これも伝統、とかで、学校関係者やディープなファンは、緑川桜子名義のBLは、まるで別人、と、人気が高いらしい。

 ストイックともいえる霧隠才庫と、自由奔放な緑川桜子。

 この才能は、誰もがたたえるべき、などとSNSでも評判なのだとか。

 とはいえ、霧隠才庫ファンの中には、彼女の下品で稚拙な現代物は見たくない、と酷評も少なくない、のだとか。


 あやめのそんな説明を聞きつつ、渡された季刊誌の桜子の文章を読む。

 いや読もうとした。

 が、無理だな。すぐに陽介はさじを投げた。

 BLというが、初っぱなからエロ小説じゃないか。こんなの従姉妹の前で平然と読めるわけ無い。

 というか、これ、学校公認でいいのか?そんな風に陽介は疑問に思う。


 「ハハハ、ようちゃんてば、なんて顔してるの?賢くてもそんなところはまだお子ちゃまねぇ。」

 「いや、だって・・・ていうか、これ学校的にOKなの?」

 アメリカじゃきっとアウトだ。

 そもそも、日本に来て紙おむつのCMにギョッとするアメリカ人は少なくないんだぞ。あれって、州によっちゃ、赤ちゃんのヌードとして児童ポルノ系のいろんな罪状で一発アウトだ。


 「表現の自由、ってやつだそうよ。ギリギリセーフを攻めるのが醍醐味なんだって。さすがに舞台でこれはないから安心して。」

 あやめの言葉に陽介は眉をしかめるしかなかったのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る