第6話
ふうん、まさかの時代劇か。
陽介は画面を見つつ、首をかしげた。
霧隠才庫。
その書籍化もされている代表作を、教えられてスマホで読んでいるのだ。
まぁ、まさか、と言うほどでも無いか。
ペンネーム自体が、有名な忍者・霧隠才蔵をもじっているのは間違いない。
そういうのが好きなんだろう。
そんな風に思いつつ、陽介は先を進める。
WEB小説で人気の、いわゆる転生ものというやつらしい。
普通の女子高生である少女が、気がつけば戦国時代。なんと猿飛佐助に転生していた、という話だった。
猿飛佐助は、実はくノ一、つまり女忍者で、性別を隠して活動をしていた、という話だった。なんでもくノ一ならばハニートラップなんてこともできなくちゃならないと知った転生したその少女が、そんなのはいやだ、と、男だと偽り、男として生きていく、なんて話だった。その苦悩、ネタバレした敵味方との葛藤が面白い、と、なかなか好評価なのだという。
しかもメディアに登場した作家が、美人高校生(出た当時は中学生)だというので、人気もうなぎ登り。特に歴史・時代小説部門ではWEB小説でトップを独走している、らしい。
なるほど、実際、時代考証だったり、歴史解釈にいびつなところも無く、心情の変遷も不自然さは無い。まぁ、うまい、のだろう。
アメリカ育ちの陽介にとって、これが現代の日本文学である、と言われれば、納得できるものではある。とはいうものの、ラノベ的な軽さ、というか読みやすさが、歴史小説独特の暗さをなくしているのが、古い時代小説も好む陽介には残念ではあるが・・・
ただ、文のそこここから、こういう世界が好きなんだろうな、とにじみ出ているのが好感が持てる。
「くノ一とは女なり。なれど女をバラバラになしたものなり。」
「しのびとは忍ぶものなり。刃をもって心を殺すものなり。」
などと述べる登場人物達は、まさに世界を創る彼女なりの矜持じゃないか、と、好感を持てる。
適切な時代考証に、あふれる日本語への愛着。言葉もじりに言葉いじり。
そんなのがあちらこちらにちりばめられていて、ラノベを時代文学に昇華させた、なんていう評論にもうなずけるところは多い。
霧隠才庫。この「庫」のチョイスも意味があるんだろうな。「蔵」とも近似だし、そんな風に思った陽介は、くすりと笑う。
この作者好きかも、気づくと作品世界に魅せられて、陽介はそんな思いを抱いていた。
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