第5話

 「天は二物を与えず、なんていうのは嘘ですよねぇ。霧隠先生を見ていたらもう絶対嘘だって思っちゃいますう。」

 有名なアイドルグループのアイドルだという少女が、ゴージャスなドレスを来て、縦髪ロールをした派手な少女に言う。

 フフフ、と笑うその少女は、いかにもお金持ちのお嬢様で気も強そうだな、と陽介は思う。まぁ、美人ではあるのだろう。陽介の好み云々は別にして。



 今、文芸部の部室で行われているのは、緑川桜子の追悼上映会、なのだという。

 彼らの言う正装=一番気張ったコスプレ衣装を身につけて、故人の映像を見る。

 それは、いくつかのテレビ出演の様子だったり、部活動のビデオだったり。

 美人でゴージャスな彼女は、小説家として何度もテレビ出演をしていたようだ。地上はよりは、ケーブルやサテライトのプログラムが多かったようだが。


 編集が得意な部員が作り上げた、という彼女の記録映像は、その日の部活動の時間をすべて費やしてしまった。

 演劇部との話は後日、と言いながらも、多少は言葉を交わす。

 とはいえ、陽介は、主に演劇部部長やあやめが会話をするのを、背後から聞いているだけではあったのだが・・・



 それにしても・・・


 陽介は、画面に映る少女を見て、女の人って怖いな、と、思う。


 テレビに映る霧隠才庫。

 無口で、ほとんど頷くのみか、オホホと笑うだけ。

 一見優しげで、優雅。まるで深窓のお嬢様。

 窓辺で読書を楽しむ。

 普段どうやって過ごすか、と聞かれたインタビューに答えた言葉。その姿が簡単に想像できる、そんなお嬢様。

 (だが目は笑ってない。ていうか、さげすんでいるまである?)

 陽介はそう評した。


 一方、部としてのプライベート映像。

 こちらの緑川桜子は雄弁だ。

 高慢で荒々しい。

 出る言葉はか。

 いかにも暴君、女王様、といったところ。

 同じ衣装に同じ顔。だが、その受ける印象は全く違う。

 が、時折り映る、部員以外の人がいれば豹変する。テレビ映像の霧隠才庫のように優雅な深窓のお嬢様が現れるのだ。


 (あの人とあの人、そしてあの人か・・・)


 上映を見ながら、陽介はチラッと数名を確認する。

 少女が特に傲慢に接する数名だ。


 まずは筆頭。メイド姿の少女。

 案内役をしてくれている彼女は、まるで本当のメイドだ。

 女王様のご機嫌取り、というか、日常生活も彼女がお世話しているのか?と危惧するレベル。

 スケジュール管理に、衣装の用意。飲み物、パソコン、筆記用具に教科書まで。

 彼女の手が加わっているんじゃ無いかと思うほど。

 なのに彼女に対して発されるのは礼ではなく、愚図だののろまだの陰気だの・・・

 うつむき加減のメイドの彼女はただただ恐縮するばかり。

 今日接した彼女も控えめな感じがしたけど、ビデオの中の彼女は・・・

 (卑屈だな)

 陽介は思う。



 次に、気になったのは、おかっぱ頭の少年だ。中世貴族の少年の絵画のようなカボチャパンツとベストは派手なグリーン。中のシャツはドレープたっぷりの白シャツだ。

 一見中性的な顔立ちは、まだ成長しきっていないからとも思われる。

 気の弱そうな彼は、ビデオの中では女王様の玩具のようだ。

 女性物のドレスを着せたり、少年剣士に水着姿まで、様々な衣装を着せて喜んでいる。

 「ほらほらこっちの方が似合ってるわ。これでテルマサに喜ばれてよ。」

 オホホ、と笑う。

 女王様が言うには、彼はテルマサ氏、という人に惚れているらしい。

 陽介の友人にもジェンダレスな人も何人かいるしそういう偏見は無い。偏見はないものの、彼女の彼に対する扱いが気にかかったのは事実である。



 次に、薄い黄色のドレスを着る少女。

 彼女はどうやら霧隠才庫のファン、であるらしかった。

 闊達で、ニコニコと霧隠才庫の役に立とうとウロチョロしている。

 彼女の褒め言葉に気を良くしつつも、なぜかいろんな世話をメイド服の少女に命じる女王様に、

 「いえ、それは私が!」

 と元気よく走り去る姿が何度も映っていた。

 そんな彼女を無視して、メイド服の少女を引き連れ部屋にこもる女王様。

 戻ってきた黄色いドレスの少女が、地団太を踏む光景が笑いを誘う。



 あとは、太鼓持ちのように彼女の機嫌を取ろうとする白い燕尾服の男性。どうやら部長らしい。

 本当にもみ手をする人っているんだな、そんな感想を持って、陽介は彼を見た。

 

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