第4話
なんだここは?
それが文芸部の部室を訪れた陽介の最初の感想だった。
ごく普通の、元教室、である。
現在、文化部棟として存在している旧校舎。
なんたらという外国の偉い建築家が設計したもので、木製というのも相まって、取り壊さずに修繕だけして部室棟として残存されることになった、元学舎であると聞いていた。
その存在を知りつつ、なんか映画のセットみたいだ、などとのんきに古い学校の情緒に浸っていた陽介だったが、部室に入って絶句したのだった。
教室、自体はノーマルである。
木造でノスタルジックなのは間違いないが、まぁ、教室である。
だが、陽介が驚いたのはそこに存在していた人々の方だった。
教室に入ると、そこは薄暗かった。
窓には分厚いカーテンが掛かり、日差しを完全にシャットアウト。
教室前方には、チョークで書くタイプの黒っぽいグリーンの黒板。の前に垂らされた天井埋め込み式の白いスクリーンが出されていた。
教室のセンターには、投影式のプロジェクターだろうか。
生徒用の机の上に乗せられている。
そして、それを避けるように並べられた机と椅子は、陽介の教室のものと変わらない。
演劇部部長(と、先ほどあやめに紹介された)荒川新也が代表してノックをし、扉を開けたのを背後から見ていたときには気づかなかったのだが・・・
(メイド?)
演劇部の面々と陽介を室内に誘ったのは、メイド服姿のおさげの少女。
そして・・・
一歩中に踏み入れた先、スクリーンの方に向かって座る人々は・・・
ドレスの少女に男性貴族風カボチャパンツ、着物姿の男女だったり・・・
(コスプレ会場?)
陽介がその異様な光景=薄暗い昭和中期の洋風木造教室に着席する様々な衣装の人々がこちらを振り向く様、に、ギョッとした表情を浮かべるのだったが・・・
だが、ギョッとしていたのは陽介ばかり。
そんな陽介に、演劇部員で、なぜか同行してきた果鱗が耳打ちする。
「なんか、偉大な漫画家先生が、仕事をするのは緊張感を持つためにドレスでする、だとかで、その人のファンだった緑川先輩が、好きな衣装を着て活動するようにと、方針を打ち出したんだって。中3の時には書籍化した天才の言うことに、当時の部長も従わざるを得なかったって話。」
「ふうん。」
そういや、昼も書籍化がどうとか言ってたな、と、陽介は思い出す。
そんな表情を読んだのか、あやめが小声で言った。
「この文芸部の普段の活動はWEB小説の執筆なんだって。好きなサイトで発表し、互いの感想をそこに書いたり評価したりするの。人目にも触れるし、互いに読んだり評価することでランクも上がってさらに人目に触れる。一石二鳥の活動、らしいわよ。賞を取ったり出版社の人から打診があれば、普通の本として出してくれるんだって。それが書籍化。今、書籍化されてるのは緑川さんだけだそうだけどね。以前は何人か書籍化されたりしてるみたいよ。」
「WEB作家活動だけじゃ無いんですけどね。年に4回、季刊誌としてオリジナルブックを出してます。こっちの方は、100年以上の歴史があるんですよ。」
小声とは言えあやめの声が届いたのだろう、演劇部部長と挨拶やら何やら話していたメイドさん(?)が、そんな風に言う。
あ、ども、と、口の中でもごもご微妙な返答をしつつ頭をかく陽介に、メイドは、
「良かったら、皆さんもどうぞ。」
そう言いながら、開いている席に着席を促した。
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