第2話
昼休み。
ようちゃん、こと田宮陽介は、りんちゃんと呼ばれていた
本当、連れてこなければしれっとどこかへ行きそうだった陽介に、果鱗はブツブツと文句を言いつつ、学食へとやってきたのだ。
田宮陽介15歳。
果鱗は、というよりも、特に内部生にとっては、彼は気になる筆頭として、認識されていた。
内部生147名。
大抵、入学式の挨拶はこの中から選出される。
おそらく肥後君と呼ばれる内部生であり、中学卒業式で答辞を読んだ秀才と名高い彼が選出されるとばかり思っていたのだが、蓋を開けてみればまさかの外部生が挨拶しているではないか。アレは誰だ?そんな感じで、内部生たちにとっての好奇の的であった田宮陽介。
まだ学校が始まって10日ほど。
内部生がすでにグループを築いている中、外部生がその中に入ったり、外部生だけでつるんだり、まぁ、グループ再構築が完全には終わってない時期でもあり、まだみんな遠目で彼を伺っている最中ではあったのだが・・・・
朝の事件?で、彼の元には人が切れないようになってしまった。
おとなしそうな、ちょっと控えめな感じの少年に対して、今までしていた遠慮というものが消えたのも原因だろうし、いざ問いかけてみれば、それなりに応対してくれる、というのもまた輪をかけたのだろう。
彼のプロフィールは、同級生の共有するものに、この半日でなっていたのだが・・・
何というか、従姉妹、である学内有名人田宮あやめと比べても遜色ない、どころか、より興味深いものではあったのは確かであろう。
清真学園1年A組。出席番号17番田宮陽介15歳。
2年C組田宮あやめの従兄弟である。陽介の父があやめの父の弟らしい。
陽介の生まれはハワイなのだという。
安定期に入ったからと、両親がバカンスに出かけたハワイで、少し早めの出産。そこから陽介はアメリカ国籍を取得。ちなみに日本の国籍も持っていて、成人後2年以内にどちらかの国籍に決めることになるのだという。
なお、アメリカは国籍について属地主義、日本は属人主義。簡単に言えばアメリカではアメリカ国土で生まれた者に国籍を与えることとされるのに対し、日本ではどちらかの親が日本人なら日本国籍を与える、ということになっているようだ。
子供にアメリカ国籍も選ばせられるようにと、わざわざ海外で出産する親もいるというが、陽介の場合はたまたまである。
たまたまではあるが、コレも何かの運命だろう、と、両親が両方の国籍を選べる選択肢を残す手続きをしてくれたらしい。
そもそも総合商社に勤めていた父に伴い、家族は全世界を転々としていた。
そんな中、陽介4歳。たまたまアメリカにてIQテストを受けることになる。
そこでなんと160という高得点を出してしまった。
ちなみに、この高得点、4歳という幼児だからこそ、ともいえる。
その年齢の平均を100として出すIQテストは、年少なほど差が開きやすい。
ある程度の年齢になると130程度が上限になるというが、少なくとも4歳の陽介は160という点数をたたき出したのだった。
実際IQ160は伊達ではない。
今やって160は出せないだろうが、頭がいいことに間違いは無く、その才能を見いだした某大学教授のすすめにより、アメリカでスキップ制度を使って学校を次々飛び級していった。
その教授、脳科学のスティーブ教授の指導の下、13歳で学位取得。その後興味の赴くまま、脳科学だけでなく、理数系にこだわらず、地歴文学に至るまで学内のいくつもの研究所に顔を出す日々を1年ほど。学生や教授にかわいがられつつ、議論や実験の日々に、気づくと周りは大人ばかり。
たまに戻る日本で、あやめたち親戚の子が楽しそうに学校の話をするのを聞いて、そういうのもやってみたい、と、急遽帰国。田宮家では清真学園にお世話になる者が多く父もOBであることから、ここ清真を受験した。
とまぁ、この程度のプロフィールは、この半日で果鱗たち同級生が知ることになった次第である。
「それにしても田宮君て、なんかぼうっとしてて、そんな賢い人に見えないのにね。」
食堂に向かいつつこんな風に言うのも失礼な話ではある。失礼な話ではあるが、当の陽介はハハハ、と、鼻の頭を掻いて笑うだけ。気にもしてないらしい。
その様子を見て果鱗はさらに首をすくめ・・・と、食堂に着くやいなや、食堂で待ち合わせの本人である田宮あやめを発見したのである。
田宮あやめ。
その容姿と中学から演劇部で舞台に立ってきた、しかも中高合同で行われる文化祭での主役を中学一年にして務めていた、ということからも、彼女のことを知らないのは外から来たばかりの新1年生ぐらいである。いや、中1生も、外部からの高1生も、ほとんどの学生はすでに彼女を認識しているかもしれない。ゴールデンウィーク前に行われた新入生のためのオリエンテーリング、その一環のクラブ紹介。誰よりもこの演劇部エースは注目を集めていたのだから。
「こっちこっち、ようちゃん早く!お弁当あるからこっちに来なさい!」
チラチラと見られていても気にしないあやめが、二人の姿を見つけるとうれしそうに席に呼ぶ。演劇部で鍛えられたその通る声は、否応なく、さらなる注目を集めたのだった。
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