お嬢様ラノベ作家が亡くなったようです
平行宇宙
第1話
「ようちゃん!ようちゃんいる??」
ドタドタ、と1年生のクラスに走り込んできた上級生に、朝のクラスは騒然となる。
そりゃそうだ。
本日は5月6日。
4月から始まった高校生活にして、初めての長期休み。その休み明け早々に駆け込んできて叫ぶ先輩の姿にざわめいてもおかしくはない。
ここは私立清真学園。キリスト教系の学校で中学から大学まである由緒正しい坊ちゃん嬢ちゃんのための学校、てやつだ。あ、確か働く婦女子のために、とか言って、昭和中期に関連の幼稚園も作られたのだったか。なんだかんだで150年以上続いている私立校である。
ちなみに中学校へ入学すると、試験とは名ばかりのエスカレーター式学校で、受験で時間を取られるよりは、自分の特技を伸ばす教育、なんてのを信条にしている。
そのため中学からはほぼほぼ高校に上がるが、意外と偏差値が高いため、大学は他所に出る者の方が多い、というのも実情である。
中学は1学年約150名。高校は約400名。
いずれも進学校としても有名で、エスカレーターと言いながら、高校受験において、内部生の平均の方が外部生の平均よりも高いのが常であるし、成績トップの者がすることとなる入学式の際の挨拶も、内部の者が断然多い、というのも実情である。まぁ、本年はいささかイレギュラーが起こってはいたのだが。
それはさておいて、叫びながら1年の教室に入ってきた2年生。
ざわつきは単純に上級生が飛び込んできた驚き、だけではなかった。
中学からの進学組、つまりは内部生にとって、彼女はあまりにも有名人だったからだ。
さらに外部生にとっても。
その美貌と制服の上からでも分かる・・・なんというか胸部装甲は、感嘆をもって迎えられた。
そんな突き刺さる視線と感嘆の声も彼女には気にならないらしい。
「もう、ようちゃんったら!聞いてる?聞こえてるならちゃんと返事してよね!」
ズカズカ、と教室に入り込み、7×5列に並んだその中央の席に座る少年の前にドン、と立ち止まる。
少年は、机に肘をついて、そこに顎を乗せたまま、眠たげに少女を見上げた。
ざわめく教室の中で、一人彼女を無視したように何やら肘に顎を置いたまま本を読む少年の姿は目を引き、すぐに少女の目を引いたのだったが・・・
少年は自分を見下ろす少女に面倒そうな目を一端向けたものの、すぐに視線を本に戻す。
ドン!
が、本を引っ張り出され、その端に肘をついていた少年の頭がガクン、と机に打ち付けられた。
「何するんだよ、あやめ姉ちゃん。」
ぶつけた額を撫でながらも、少年は、ようやくまっすぐに暴君を見た。
「ようちゃん、人の話はちゃんと聞くものよ。でも、ちょうどいいわ。あんたそんなに本が好きなら、放課後私に付き合いなさい。文芸部の部室までいろいろ聞きに行くから。あ、これはそれまで人質に預かっておきます。はぁ。ったく何の本なのよ。英語?まぁ、あんたなら日本語よりこっちのが楽かもしれないけどね。とにかく、詳しいことは昼休みに話すからお弁当は、そうね、学食集合ね。あんたのお弁当も持ってきてるからちゃんと来るのよ。あら、りんちゃん、うちのようちゃんと同じクラスだったんだ。悪いけど昼休みにこの子を学食に連れてきてくれる?ごめんねぇ、じゃ、後で。」
と、少女は言うことだけ言って、嵐のように去って行った。
彼女がしゃべっている間と、その後数分間。
ざわめいていた教室がシーン、となるも・・・
誰からともなく、わぁっと、ようちゃん、と呼ばれた少年の元へと群がっていく。いったい彼女と、演劇部の絶対的エース、田宮あやめとどういう関係か、と、問いただすのに、チャイムが鳴るまで質問は絶えなかったのだ。
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