第39話 救世主の希望
あれから藤堂はDUN機関が関わることができる病院へと入院した。
ファティの《
現在はまともに言葉を発することもできず、独りで歩くことすらできないとか。
食事や排せつも常に介護が必要な状態だと言う。
一応、これからリハビリをすれば改善の見込みはあるも以前のような暮らしは不可能らしい。
ましてや
藤堂を勘当していた両親も流石に息子を見捨てることはできず、保護者として身元を引き受けることになった。
だがどちらにせよ、莉穂を拉致監禁した余罪もあり退院したとしても留置場行きは免れないとか。
またそれまでの間、藤堂はDUN機関と警察が連携して24時間体制で監視されることになる。
奴が喋れるようになったら【救ボス会】と藤堂が接触した『猫間』という男について事情を聞くことになるだろう。
――こうして事件は終息を迎えた。
それから莉穂を無事に自宅まで送り届け、俺達D班は解散となった。
色々な事後処理などがあり、気づけば陽が昇りかけている。
「いかん、太陽じゃ! 鈴音よ、《
「あいよぉ、班長~」
ミランダ班長の指示を受け、鈴音はスキルを発動した。
半透明の扉が出現し開かれる。
すると中から鉄製の棺桶が地面に落ちた。
ミランダ班長は棺桶を開ける。
慌てながら、その中へと入るとすぐに蓋を閉めた。
『楓よ。後のことは貴様に一任する。鈴音よ、妾を本部まで連れていくのじゃ!』
棺桶の中から、ミランダ班長の籠った声が響き渡る。
「わかりました班長。どうかごゆっくりお休みください」
「了解。あたしの《
鈴音は指を鳴らすと、棺桶は出現させた半透明の扉の中に吸い込まれるように入っていった。
両扉がパタンと閉められ、フッと消える
「ああして物質に覆ってしまえば、生身でも収納することが可能なのよ」
四葉さんが俺にそう説明してくれる。
なるほど、スキルの裏技ってやつだな。
「
「いえ、灰にはなるけど集めたら夜には復活するそうよ。げど激痛は半端ないらしくてね、班長はそれが最も嫌だって言ってたわ」
死なないのかよ……まさしく不老不死だ。
「ミユキ様、忌まわしき吸血鬼を完全に始末するには、聖なる祈りによる浄化しかございません。ですがご安心ください。あの者が悪に手を染めるようであれば、このわたくしが必ず滅してみせましょう!」
「ファティ、また貴女は……班長に何かするようであれば、この私が許しませんよ!」
ミランダ班長を溺愛する、楓さんは激昂している。
だがファティはメンタルが強いので一切動じずに「フン! 邪悪に魅入られし者め!」と悪態をつき鼻を鳴らしそっぽを向く。
ファティもよく上官として受け入れているものだ。
後々、アリアからファティは政府との交渉で、もしミランダ班長が日本に害及ぼす存在になるようであれば、いつでも浄化して良いという許可が下されております。それが条件で今の関係に至っているのです」と説明を受けた。
政府絡みとはいえ、ミランダ班長も指揮官としては有能だけに微妙なバランスでチームを成り立たせ支えているようだ。
全てが終わり、俺はアリアとボロアパオート前に辿り着いた。
もうじきここも引っ越さなければならない。
親父が購入した中古物件とやらも改装工事が終わり、来週には住むことができるとか。
また近日中に『聖雲学園』の見学会もあり、きっとそこで転入するか決断しなくてはならない。
今のところ、みんなから転入する方向で話は進んでいるけど……。
どちらにせよ、これまでの生活が一変するだろう。
これも様々な偶然と奇跡が重なった結果だろうか。
最初はあまりにも急激な変化に戸惑ってばかりだったけど、最近は受け入れ前に進みたいと思っている。
きっと以前の陰キャぼっちの俺なら、こんなポジティブな考えには至らなかった筈だ。
そう思えるようになったのはやっぱり……。
ぎゅっ。
俺は再び、隣に立つアリアの手を握りしめた。
今度はSPS越しではなく、直に手を触れている。
「あっ……ご主人様?」
アリアの青い瞳がじっと俺の顔を見据えた。
俺も彼女と瞳を合わせ、うんと頷く。
「俺が変わりたいと思えるようになったのは、アリアが傍にいてくれるおかげだと思う。キミと出会えた奇跡が、俺にとってスキルを身に着けたよりも大収穫かもしれない」
そう言った瞬間、アリアの頬がほんのり桜色に染められた。
「……ありがとうございます。まさかそのようなお言葉を頂けるとは……私も貴方様に仕えさせて頂き幸せです。騎士としてだけではなく……」
「だけでなく?」
俺が聞き返すと、アリアはじっと見つめたまま無言となる。
どこか戸惑いを見せている感じだ。
しばらくの間、沈黙が広がる。
彼女が何を言おうとしているのかわからない。
いや薄々だけどなんとなく理解できるところもある。
けどアリアの性格というか
何故なら、俺も近い感覚を覚えているから――。
でも、今のアリアとの距離間も心地好よく好きだ。
だから急いで答えを求める必要はない。
アリアとはゆっくり距離を縮めていければいいと思う。
「ごめん、聞き返して。アリアと出合えて良かったよ……これからも、俺に仕えてくれるかい?」
「勿論です! このアリア・ヴァルキリー、誓った忠誠は永遠です!」
やっぱ根っからの
こういう問いには気持ちいいくらい、スパンと応えてくれる。
「――あっ。お兄ちゃんにアリアさん、お帰りなさい。大変だったね……けど、またSNSが凄いことになってるよぉ――って、二人とも何してんのぅ!?」
妹の瑠唯が俺達の帰宅に気づいたようでドアを開け迎えてくれた。
まではよかったが、よく考えてみれば俺とアリアは互いに手を握ったままだ。
その光景に何故か瑠唯は声を荒げ指摘してくる。
俺とアリアは慌てて手を離した。
「おう帰ってきたな、二人とも。朝帰りとは隅に置けないなぁ、おい」
親父の丈司まで、ひょっこり顔を出して妙な詮索をしてくる。
おかげで瑠唯は益々ご立腹となり「うっさい! んなわけないでしょ! あんたは黙っていてぇ!」と激昂してしまう始末だ。
てか手を握っていただけで、なんだかえらい大騒ぎになっているんですけど……。
「やめろよ、瑠唯。親父も事情は知って揶揄うのはやめろよ! ところで、またなんかバズったの?」
「ああ、お前が莉穂ちゃんを助けてから、すぐにDuチューバーのペコキンさんと鈴ちゃんが取り上げてくれてな……トレンドも総ナメ状態だし、おかげで我が『オヤジちゃんねる』の登録者も増えまくっているぞ。詳しくは朝飯を食ってからだ」
「二人ともお腹空いたでしょ? 朝ご飯作っているから、早く食べよ」
「ああ、わかったよ。じゃアリア、行こっか?」
「はい、ご主人様」
「……あたし、アリアさんのこと好きだけど、まだそこまで認めてない気をつけてよね」
「わ、わかった妹殿……(何に対し気をつけろというのだ?)」
アリアは瑠唯に腕を引っ張られ、家の中へと入って行く。
なんだかんだ、彼女も家族として受け入れられている。
その光景が微笑ましくて嬉しくもあった。
大好きなみんなと一緒にいる時間がこれからもずっと続きますように――。
そのためなら俺は頑張れる。
救世主になることが条件なら、俺はそれを目指すため努力しよう。
俺は変わる。
これからもっと進化していく。
「――よし! 今日も一日やってやるぞ!」
第一章 完
◇◇◇
「――おやまぁ。藤堂君、負けてしまいましたか……しか、あの後遺症。あの場で朽ち果てた方が、彼にとって幸せだったんじゃないでしょうかねぇ」
そこは【救世主からダンジョンのボスを守る会】こと【救ボス会】の本部。
謎の男こと、『猫間ひろし』がパソコンのモニターを眺めていた。
藤堂 健太が御幸によって敗北する瞬間と捉えた動画である。
さらにDuチューブもチェックし、他の掲示板などもチェックしていた。
「今回の件、【救ボス会】が絡んでいるとは世間では公表されてないようですね。まぁ別に知られても構いませんけど。にしても、《
猫間の細い眼光が、動画に映る御幸の姿を見据えている。
異様に痩せこけた表情から実際の感情は読みにくい。
しばらく間を置き、猫間は「ふむ」と一人で相槌を打つ。
「……今回は『
第一部 完
底辺の探索者ぼっちくん、ダンジョン配信でうっかりボスモンスターをぶっとばし伝説級にバズってしまう~気づけば美少女達の推しとなり、散々いじめていた奴らの人生がオワコン化しているw 沙坐麻騎 @sazamaki
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