第38話 藤堂の末路(ざまぁ回)
暴走した『
奴の肉体は目立った損傷や欠損は見られないも、何故か衣服が消えており全裸となっている。
そういえばダンジョンのボスも《
あの『
再び地面に落ちた藤堂は大の字姿勢のまま、ぴくりとも動かない。
やっぱり死んでしまったのだろうか?
俺の心配を他所に、アリアとファティが藤堂に近づく。
「――ふむ。虫の息ですが、この者、一応は生きていますね」
「本当か、ファティ!?」
「はい。このまま放置したら死に至りまるが、わたくしの回復魔法なら命を繋ぐことが可能です」
「じゃあ回復させて欲しい。酷くて嫌な奴だけど、何も死ぬことはないと思う」
「……わかりました。やはりお優しいですね、ミユキ様。その寛大なお心、いつも感服いたします。流石はわたくしの救世主、純潔を捧げる殿方として相応しきお方です」
「ファティよ、ご主人様の寛大な心に感服するのは仕方ないとして、最後の部分は余計ではないか? とはいえ、この藤堂という男……ゴキブリ並みの生命力だ」
確かにファティの台詞にはいつもドキっとするけど、アリアも何気に酷いことを言っている。
まぁ実際、悪運が強いというかそのとおりなんだけど……。
:またまたスレイヤーくんの大活躍!
:スキルこそパワー!
:無双なのに何故かハラハラしてしまうのは何故?
:実際、アリアたん達が時間を稼いでくれなければ危なかったと思う
:まさにチームでの大勝利ですな
:感動をありがとう!
:最高の配信です!
:すっきりしたわw
:藤堂、ようやくざまぁ到来www
:しかしクズ男の全裸って草生える
:大事な部分が自動修正されていて安心w
:ドローンの高性能に感謝w
:ドローン乙
:スレイヤーくん、D班の女子達、乙
コメントの反応からして大いに満足してもらえたようだ。
しかも藤堂の全裸も大事な部分は自動的に隠されているらしい。
運営側で削除されず済みそうだな。
それからファティの回復魔法により、藤堂は治療を受ける。
以前の反田の時みたいに命を繋ぐだけの回復かと思ったが、ミランダ班長の指示で入念と《
「……こやつはもう無害じゃからな。社会的にも日常的にも、相応の制裁を受けることになるじゃろう」
「日常的ってなんです?」
「うむ。『
「そ、そんな……ってことは、藤堂はもう」
「
「自業自得とはいえ、藤堂を先導した【救ボス会】の猫間という男……赦せませんね。事実上、彼の償いの機会と未来を奪ったのですから」
「消耗品としてしか考えてなかったんじゃない? このまま中途半端に生かして良いのか、わたしには判断できないけど……ごめんね、御幸くん。わたしってこういうドライな考え方だから」
いつも優しそうな四葉さんが申し訳なさそうに言ってくる。
副班長の楓さんより、「四葉の考え方は、彼女の過去に起因していますので赦してあげてください」と説明を受けた。
「いえ、俺は……自分が甘いのはわかっています。けど、こんな理由で命を落とすのも何か違うと思っていますから」
「私はご主人様のお考えに賛同です。本来命は尊いもの、救える命は救ってこその救世主ではないでしょうか?」
「……アリア、ありがとう」
「いえ、わたしは……あっ」
俺はアリアの言葉が嬉しく、つい彼女の手を握ってしまった。
SPS越しだけど、その華奢な感じがなんとなく伝わる。
アリアは瞳を反らし「恐れ多いです」と頬を染めた。
「――センパイ、大丈夫ぅ?」
間もなくして、鈴音が合流してきた。
その隣には保護された、幼馴染の琴石 莉穂が歩いている。
おぼつかない足取りだが目立った外傷は見られない。
「莉穂、無事か!?」
「……うん、ちょっと変な薬を嗅がされて、まだ少しくらくらするけど大丈夫だよ」
弱々しい声で話ながらも、何故かキッとアリアを睨む。
ん? どうしたんだ?
あっ、そういやまだアリアの手を握ったままだ。
俺は慌てて彼女の手を離した。
「こ、これは誤解ですぞ、琴石殿! ご主人様からのご褒美であってそういう意味ではありませぬからな!」
アリアも何故か天然で意味不明な弁明をしている。
「別に気にしてないよ、アリアさん……絶対に負けないんだから」
最後の言葉だけは誰にも聞こえないように呟いている、莉穂。
そのままチラッと、回復を終え寝そべっている全裸の藤堂を凝視した。
「……御幸、あのクズは?」
「ん? 藤堂か……まぁ色々あってね。もう危害を加えられる体じゃないよ」
「そう、拉致された側としてざまぁね……けど、どうでもいい」
莉穂はあっさり言いながら、俺に近づき寄り添ってくる。
「莉穂?」
「ありがとう、御幸。私のために戦ってくれて……迷惑かけてごめんね」
「謝ることないよ。だけど、これまで助けてくれた恩は返せたかな?」
「うん、もうおつりが出るくらいにね……えへへ」
「そっか……ちょっとは自信になったかな、ははは」
緊張が解けたのか、俺も自然と笑みが零れている。
なんだか久しぶりに二人で笑い合った。
そんな俺達を、アリシアを始めとする周囲が冷めた眼差しで見据えている。
「なんだか二人の世界ですな? 別に羨ましいとかではありませんが……」
「ミユキ様、どうかわたくしにもご褒美をください!」
「お姉さんね、ひいきはいけないと思うのよぉ」
「センパイ、ウチらのことも忘れないでよねん」
D班の女子メンバーの視線が痛い。
普段、優しい子達なのに妙な殺気を感じてしまうのは何故だろう?
:いきなりの修羅場展開w
:ほっとする
:けど羨ましい
:スレイヤーくん、代わってくれ
:役得やねwww
:ハーレムやん
:この争奪戦も見ものだわ
:草(いい意味で)
:オイラ、班長さんがガチ好みです!
:ロリやん
:美少女だけどね
ありゃ、妙なコメで溢れているぞ。
ハーレムって……何故そーなる?
確かD班メンバーって俺の趣向で揃えられたって話だけど。
けど、みんな素敵すぎて……今の俺なんかじゃとても。
やっぱり、これからも鍛え続けよう。
自分に自信が持てるように……これまでの自分を変えるために。
間もなくして、大勢の警官が押し寄せてくる。
俺達に向けて敬礼し、藤堂の下に向かい奴を拘束した。
「私が通報しておきました。藤堂自身も相当痛い思いをしましたが、犯罪は犯罪ですので」
楓さんが銀縁眼鏡のフレームを指先で直しながら説明してくる。
確かに莉穂という立派な被害者がいる以上、奴は裁かれなければならない。
「しばらく警察で尋問させ、DUN機関も介入する手筈じゃ。奴の口から【救ボス会】、特に猫間という男の詳細を聞かねばなるまい」
「そういう意味では、彼を生かしたことは英断でしたね、御幸君」
「はぁ、けどそこまで深く考えてなかったんですけど……」
ディープな大人の事情ってやつか。
正直ついて行けない時もある。
藤堂は警官に「フルチンがこれで隠せ!」っと、毛布を被せられた。
そのまま両脇を抱えられ立たされるも、上手く立位が保てない。
ファティの《
おまけに嘗ての活気が見られず、口を開けて涎を垂らし始めていた。
「あ……ぐっ、にしの……ぐえ、めぇええ」
藤堂は俺の方に目を向け何かを訴えている。
だが言語機能に異常をきたしたのか何を言っているのか聞き取れない。
「うるさい、黙れ! きりきり歩け!」
警官達に無理やり引っ張られ、拘束された藤堂は俺達の前から消えていく。
あれが『
もろ障害が残っているじゃないか……。
「……これが【救ボス会】なのか? 何がダンジョンの保護団体だ! 救世主のアンチだ! 俺は絶対に許さないぞ!」
俺は拳を握りしめ、沸々と湧き上がる怒りを抑えた。
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