第28話 煉獄ダンジョン攻略
俺が放った《
「ヴゥグゥゥゥギャアァァァァァァ――!!!」
イフリートは絶叫し、打ち抜いた眉間から亀裂が走る。それは巨大な全身まで及んだ。
亀裂の溝から体内の炎が血飛沫のように吹き溢れ、イフリートは苦しそうに顔面を押さえてのたうち回る。
カッと眩い閃光が発したと同時に強靭な肉体は脆く崩れて飛び散った。
粉砕された肉片が火の粉を帯びた塵となり消滅する。
最後は心臓部とされる巨大な
よし! ダンジョンのボス、イフリートを完膚なきまで斃したぞ!
と、喜んではみたものの――。
「うぉぉぉぉっ、ぶつかるゥぅぅぅ――ブフゥッ!?」
俺は飛び蹴りを放った後、減速できず岩壁に激突して埋まってしまう。
SPSの強化装甲のおかげでダメージはないが死ぬかと思った。
:うぉぉぉ! イフリートを斃したぞぉぉぉぉ!!!
:やっぱスレイヤーくん、凄いぃぃぃ!!!
:感動した!
:感動した!
:感動っす!
:ワンパンじゃなくワンキック!
:ワンキルには違いなくね?
:もうやばい! とんでもない快挙ッ!
:こんな動画配信、見られて幸せです!
:スパチャ機能ねーの!? 10万くらい投げ銭したい!
:金額やばすぎw けど気持ちはわかるわ
:神回配信!
:貴重な配信あざーす!
:カッコよかったです!
:最後の着地はアレだけどね
続々と流れるコメント。
みんな俺の活躍を称えてくれている。
素直に嬉しい……つい目頭が熱くなってしまう。
勿論、俺だけ成し遂げた快挙じゃないのはわかっている。
俺を支えてくれるD班の女子達。
SPSを与えてくれた、立花博士と開発部。
DUN機関みんなの成果だ。
「ご主人様~、大丈夫ですか!?」
「ミユキ様、抜け出せますぅ!?」
アリアとファティの心配する声が聞かれている。
俺は依然として約20メートル上で岩壁に突き刺さった状態だ。
バイザーに映し出された表示によると、SPSの残り耐久時間は45秒か……結構、危なかったんじゃね?
「大丈夫だよぉ。今から降るから」
俺は這い上がり穴から出る。
そのままカッコつけて飛び降りようかと思ったけど、ビル7階くらいの高さなのでびびってしまった。
結局ゴキブリのように壁を伝い、ある程度の高さまで慎重に降りていく。
「御幸くん、大丈夫? そういえば回収まで打合せしてなかったわね」
「センパイ~、超ウケるぅ! 手伝おっか?」
俺を射出した当事者の四葉さんと鈴音が声をかけている。
どうやらイフリートの討伐のみに重視された作戦で、俺の回収まで想定になかったらしい。
まぁSPSの耐久性ありきの作戦だからな。
「大丈夫だ――よっと!」
ある程度の高さを見計らい、今更だけどカッコつけたつもりで飛び降りて着地した。
「ご無事で何よりです、ご主人様。実に見事な一撃でした」
「あのイフリートを一撃で葬るとは、流石は救世主……今宵はアリアではなく、わたくしをお傍にお仕えくださいませ」
アリアが褒めてくれる隣で、ファティは妙なことを口走っている。
どういう意味で言っているのかわからない。ここはツッコむべきか?
「ファティ、まだ配信中だよん。不適切な発言はNGだからね。てか、ボスを斃したからか、一気に温度が下がってきたねぇ?」
鈴音の言うとおりだ。
現在は25度とダンジョン内にしては些か蒸し暑い程度。
ヘルメットのマスクも自動解除されている。
「きっとイフリートに従う上級モンスターは全て消滅しているわ。残っているのは中級から低級モンスター、きっとダンジョンの機能を維持させる調整役みたいなものね。あとはギルドの
「そうだね、四葉さん。この『
「面倒だし置いてくよ、センパイ。あとで自衛隊が回収してくれるからねん」
俺は「なるほど」と、鈴音の言葉に納得する。
戦いを終え、俺達D班はボス部屋から出た。
行きと異なり、帰りは徒歩で移動する。
あれほどまで悪環境が嘘のようで、深層からほぼ通常のダンジョンと同じ状態となっていた。
そして四葉さんの言うとおり、出現するモンスターも中級から低級ばかりだ。
さらに不思議なことが起こっていた。
出現するモンスターが変わっていたことだ。
イフリートが健在だった時は炎系に限られていたが、今はゴブリンやコボルト、オークなどに変わっている。
勿論、低級モンスターばかりなので、降りかかる火の粉として薙ぎ払った。
「ボスを討伐すると、ダンジョンの形質が変わってしまうようですね。もう、苛烈なる『煉獄ダンジョン』と呼ぶ者はいないでしょう」
「これまで誰一人としてボスを斃した者がいないため、その後のダンジョンがどうなるのか未知な部分がございます。これから色々と発見されるではないでしょうか」
アリアとファティが嬉しそうに述べている。
彼女達がいた時代の異世界においても、ボスを斃せた者はいなかったようだ。
ただ伝承上の伝説の勇者だけは、そのスキルを宿していたとか。
それこそが勇者レイドが所持していたとされる――《
◇◇◇
「
無事ダンジョンの入り口に戻った俺は、表示されたタイマーを見ながらそう呟く。
帰りはスローペースとはいえ、生死が関わるとなると余裕ぶってもいられない。
それだもん、可能か限り急がせるよなっと思った。
「……センパイ、配信終わらせるからシメのコメしてねん」
鈴音が小声で耳打ちしてくる。
この子は何かとDuチューブや生配信ルールに詳しい。
俺は頷き、ドローンカメラの前でお辞儀した。
「えー、みなさん。ここまで観ていただいてありがとうございます。こうして無事地上に戻って来ることもできました。これにて今回の配信は終了したいと思います」
するとチャット欄のコメントが爆速で流れてくる。
:お疲れ、スレイヤーくん!
:お疲れさま!
:お疲れさま!
:楽しかったぞ!
:感動した!
:本当、貴重なモノ見させていただきました!
:疑っていたけど、スレイヤーくんは本物だった!
:もう歴史的瞬間に立ち会った気分でした!
:ガチでそれな!
:アリアたん、ファティたん、謎の美女二人も凄かった!
:もうD班のファンになりました!
:これからも期待してるよ!
:次回では必ずスパチャできるようにして!
温かいコメントが次々と飛んでくる。
つい最近まで陰キャぼっちの俺が、こうして誰かに褒められ認めてくれている。
なんだか胸の奥に何かが込み上げて、じんとしてしまう。
何よりD班の女子達も称賛されおり、自分のことのように嬉しかった。
このチームに入れて良かったと思う。
「みなさん、温かいコメントありがとうございます! それでは次の配信でお会いいたしましょう! チャンネル登録、よろしくぅ!!!」
カンペつきとはいえ、ついハイテンションになってしまう、俺。
なんだか高揚して調子に乗ってしまう。
売れっ子動画配信者の気持ちがわかってきたかもしれない。
こうして初配信は終了し、鈴音は《
俺達はダンジョンから出ると、また多くの報道陣がバリケード前に押し寄せていた。
「皆さん、ご覧ください! 只今、救世主とメンバー達が凱旋いたしました! なんとダンジョンのボスを、あのイフリートを討伐したそうです! これは日本、いえ人類の快挙と呼べるのではないでしょうか!?」
美人女子アナのミキちゃんがカメラ前で公言している。
なんだか恥ずかしいし、生で見てしまうと迫力が凄い……。
なんか俺ってとんでもないことしてしまった的な?
とりあえずマスコミは無視し、立花博士が待つ仮設テントに戻るのであった。
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