第29話 女騎士、嫁認定される

「皆、よくやったぞ! 初陣とは思えぬチームワークじゃった!」


「本当にお疲れ様でした! これで日本、いえ世界中に我らDUN機関の存在が知れ渡ったことでしょう!」


 あれから俺達はSPSを解除し、専用の大型バスに戻ってきた。

 途端、ミランダ班長と東雲副班長から称賛の言葉が投げかけられる。

 今回の働きで、幾つか企業や財閥から新たなスポンサーとして既に手上げしているとか。


「確かに御幸くんのおかげで任務は完遂したけど課題もあったわ……特にSPS、もう少し稼働時間を伸ばせないかしら? あと魔術式射出機マナ・カタパルト以外でもボスに接近する方法を検討してほしいわね」


「ガチそれ。このままじゃ、センパイの体がもたないよ~。ビジュアル的にもどーよって感じぃ」


『四葉ちゃんと鈴音ちゃんの言いたいことはわかるわ。推進機能の搭載も検討しているけど、その分エネルギー源である『魔術式光粒子力マナ・フォトン』の消費率が高くなってしまうという問題も抱えているわ。とりあえず、これから色々と検討して改良を重ねていくつもりよ』


 バスに搭載されたテレビのモニター越しで、立花博士が説明している。

 どうやらSPSもダンジョンに合わせてカスタマイズされていくらしい。


 こうして初陣を終え俺達は帰還した。


◇◇◇


 昼過ぎ頃、俺とアリアは自宅アパートに戻った。


「お兄ちゃん、アリアさん、お帰りなさい! テレビとネットで凄いことになってるよぉ!」


 早々に瑠唯が知らせてくる。

 なんでも既にSNSのトレンドを独占しているという。


「そ、そぉ……まぁ俺だけの手柄じゃないからね」


「けど、イフリートを討伐したのはお兄ちゃんでしょ? 友達も凄いって応援してくれてるよぉ!」


 瑠唯は満面の笑みでスマホの画面を見せている。

 どうやら妹の学校でも、その話題で持ち切りのようだ。

 先程から仕切りなしに着信音が鳴り響いている。

 まぁ瑠唯は、ぼっちの俺と違い友達が多いリア充妹だからな。


「それでも、アリアとファティ……チームのみんなが支援してくれた結果だよ。俺は自分のできる役割を果たしただけさ」


「そ、そぉ? (お兄ちゃん、急にカッコよくなってる!? どうしたの!?)」


「……ご主人様、変わられましたな」


「ん? 変わった、俺が?」


 アリアの言葉に、俺は実感できず首を傾げてみせる。

 彼女は寄り添い、綺麗な笑顔を見せてきた。


「はい。前にも増して素敵になられたという意味です。このアリア、騎士として貴方様にお仕えすることを誇りに思います」


「あ、ああ……ありがと」


 やばい……女の子に素敵なんて言われたの、生まれて初めてだ。

 しかも見つめながら言われると、ドキッとしてしまう。

 アリアの場合、あくまで円卓騎士ランスロットとしてなんだから勘違いしないようにしないと……。


「御幸、帰ってきたか? 大活躍じゃないか、ええ? 昼飯くったのか?」


 いきなり親父の丈司が部屋の襖をガラッと開けてきた。

 丈司もやたら機嫌が良い。


「ああ、DUN機関でご馳走になったよ。どうしたんだよ?」


「聞いてくれ、『オヤジちゃんねる』の登録者数が267万人になったぞ! 父さん何もしてないのにな。きっとお前の活躍に便乗した芋づる式効果だろう! やったね!」


 自分で言うなよってツッコミたい。

 けど動画配信者の間じゃ、よくある話だ。

 特に芸能アイドルなんかがいい例だろう。


「そこでだ。登録者が倍以上増えたことをいいことに、これから生配信をしたいと思っている。御幸よ、お前もゲストとして参加してくれ。できればアリアちゃんにもお願いしたいんだ。そうすれば再生回数も爆上がりし、にわか登録者のハートをガッチリ鷲掴み、より確固たるモノとなるだろう!」


 言い方が最悪だが一理ある。

 勢いに乗っている間が華だと言うからな。

 それに親父の借金返済の協力にもなるわけか。


「わかったよ。協力するよ」


「父上殿、私も馳せ参じましょう」


「おぉぉぉし! んじゃあ、やるぞ! 今夜は焼肉食いに行こーぜ! 瑠唯、予約頼むぞ!」


「……わかった」


 おおっ、数ヶ月ぶりで瑠唯が親父と言葉を交わしたぞ!

 なんか西埜家も良くなっているような気がする!

 お袋、戻ってくるかなぁ!?


 それから親父の部屋で生配信を始めることになる。

 カメラの前で丈司が真ん中に座り、俺とアリアが両端で正座した。

 親父はパソコン音痴だったが、いつの間にか操作を覚えたのかキーボードでタイトルを打ち込み始める。



〇オヤジちゃんねる


【緊急生配信】救世主の息子と嫁の凱旋を祝ってみたwww



 ん!?

 息子は俺だとして、嫁だと!?

 アリアのこと指しているのか!?


「ち、父上殿! 嫁とはなんでありますか!?」


 綺麗な顔が破顔するほど狼狽する、アリア。


「いいじゃん。アリアちゃん、半分同棲しているようなもんだし、世間で言えば立派な嫁だ。そうだろ、御幸?」


「はぁ!? いや、何言ってるの!? 意味わかんねーし! アリアは騎士として俺に仕えてくれているわけだし! あんま彼女を困らせるなよぁ、クソ親父ッ!」


「い、いえ、ご主人様……私は別に困っているわけでは……ただそのぅ、私如きが厚かましくご迷惑にならなかと危惧したまでで……」


「え?」


 ……何それ?

 つまり俺さえ良ければ、アリアとしては別にOK的な?

 う、嘘……マ、マジで?


「――もう! こんなふざけたタイトル、絶対に駄目だからね! あたしが撮影役するから、アンタは父親らしく振る舞ってなさい!」


 いきなり瑠唯が乱入して、素早く巧みな指さばきでタイトルを訂正し打ち直した。



【緊急生配信】救世主の息子と居候女騎士の凱旋を祝ってみたwww



 何一つ嘘偽りがないタイトルだけど、嫁から居候の降格具合が気になる。

 瑠唯からはそう見えているのか。


「父さん、アリアちゃんが嫁でいいと思うんだけどなぁ……」


 丈司は愚痴を交えそう呟く、瑠唯は「ふん!」と鼻を鳴らしそっぽを向いた。

 やっぱ父と娘の溝はまだ深いようだ。


 それから『オヤジちゃんねる』が配信され、ゲスト枠として俺とアリアが今回のダンジョン探索やイフリート戦の感想トークを行った。

 流石に詳細は話せないので、当たり障りのない程度だ。

 けど未だ興奮の熱が冷めやらぬだけあり、些細な内容でも視聴者は大いに盛り上げてくれる。


 生々しい話、スーパーチャットの投げ銭も気づけば50万円に達していた。


「うおっ! ついに登録者数、500万人突破ッ! 沢山のスパチャもあざーす! 借金の足しにしまーす!」


 底辺配信者だった親父も、気づけばトップDuチューバーの仲間入りを果たしていた。



:はよ借金かえせ

:オヤジ草

:駄目親父w

:けど、その破天荒な生き方に憧れる

:人生の反面教師

:息子くんに感謝だな

:ガチそれな

:〈スパチャ\50000円〉これで蒸発した奥さん探してください

:〈スパチャ\30000円〉愛しのアリアたんへ

:〈スパチャ\30000円〉時折、チラっと映る可愛いい妹ちゃんへ

:〈スパチャ\20000円〉クズだけど、なんか憎めないオヤジなんだよなぁ

:スレイヤーくん、最高ッ!


 親父もイジられキャラぶりを発揮し色々なコメントが流れてくる。

 けど悪意はなく、寧ろ視聴者の愛情を感じてしまうから不思議だ。

 古き良き駄目親父ってところか。


 こうして『オヤジちゃんねる』は大盛況で配信を終わらせた。


「よし! 焼肉食いに行くぞ! 父さんがなんでも奢ってやるから好きなモン食え!」


 借金5億のくせにやたら金回りの良い、丈司。

 今回の同時接続同接数も1000万人越えしてやばいことになっている。

 

 ん?

 俺はパソコンの画面を見て何かに気づく。


「……親父、誰かからDMが送られているぞ」


「ファンだろ? あとで確認すりゃいい、それより焼肉、焼肉ぅ~!」


「いや、ファンじゃない……ペコキンだ!」


「なんだって、ペコキンさん!? そりゃ無視できん! ちょい見せろ!」


 親父は食いつくようにパソコン画面を見入った。

 あの登録者数1500万人越えする現役のレジェンドDuチューバーだからな。

 『オヤジちゃんねる』が有名になった半分は、ペコキンが宣伝してくれたからに他ならない。

 言わば大恩人だ。


「な、なんだって……アンチ組織だと!?」


 親父は顔を顰めている。

 俺も横でチラ見して、その内容に驚愕して絶句した。



 こんにちわ、オヤジさん。

 今回のダンジョン攻略を皮切りに、何やら反救世主アンチ組織「ダンジョン保護団体」が結成されているようです。


 その名も、


【救世主からダンジョンのボスを守る会】

略して【救ボス会】だそうです。


 どうやら左翼思想を持つ団体のようですね。

 息子くんに「気をつけるように」とお伝えてください。


 ペコキンより――

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