第26話 ボス以外でも頑張ってみた

「助けて頂きありがとうございます」


 意識を取り戻した探索者シーカーのリーダーが丁寧に頭を下げて見せてきた。

 他の仲間達も特に怪我はなく、回復魔法ヒーリングによる体力の回復と水分補給を施すことで動けるようになった。


「いえ、わたくしはミユキ様に許可を頂き、救いの手を差し伸べたまでのこと。さぁ、貴方達も寛大なる救世主様に向けて祈りを捧げましょう」


「「「「ありがとうございます、救世主様」」」」


 や、やめてぇ!

 恥ずかしすぎて胃が痛くなる……。

 何、みんなで俺を神格化してんの?


「俺はただ『助けてもいいんじゃない』って言っただけですよぉ! それより皆さんは、どこのギルドに所属する探索者シーカーですか?」


「自分らは【黄昏の月トワイライト・ムーン】ギルドに所属する者です。ランクを上げるため未到達の下層を目指そうとしたのですが、欲を出した結果この有様です。まったく面目ない……」


 【黄昏の月トワイライト・ムーン】か。

 確か昌斗さんの【不滅の疾風エターナル・ゲイル】に続くS級のギルド集団クランだ。

 

 リーダーの話によると、ライバル視する【不滅の疾風エターナル・ゲイル】と張り合うつもりで到達記録レコード更新を目指したが、結局は熱さに耐えきれず志し半ばで行き倒れてしまったらしい。


 ちなみに彼らは皆Aランクらしく、最高位のSランクでないにせよ探索者シーカーとして上位クラスのベテランだ。

 そんな熟練者達ですら全滅しかけるほど、この『煉獄ダンジョン』が如何に危険な大迷宮なのか伺えた。


 こうして【黄昏の月トワイライト・ムーン】の探索者シーカー達は、再び俺達に向けて感謝を述べると地上を目指し去って行った。



:スレイヤーくん、人助けを指示してまた好感度上げたな

:【不滅の疾風エターナル・ゲイル】といい、なんかんやで探索者シーカーの中にもファンが多いらしい

:けど【黄昏の月トワイライト・ムーン】のメンバーでさえ、あの有様とは……

:やべえよ、このダンジョン

:草生える。いや熱さで草も燃え尽きそうwww

:それな

:スレイヤーくん、D班の女子達も頑張れ!



 コメントからも称賛してくれる言葉が多数見られる。

 最初に見つけて助けたのはファティなんだけどね。

 なんか俺の功績になってしまっている。


「……ファティ、ありがと」


 申し訳ないのでお礼を言ってみた。

 すると彼女はヘルメットのバイザー越しからでもわかるほど、頬を染めて照れている。


「こちらこそです、ミユキ様……貴方様にお仕えすること、心から誇りに思います。アリア亡き後、このわたくしが全身全霊で貴方様をお守りいたしましょう。純潔を捧げるつもりで」


「おい、ファティ! 私は死んではおらんぞ、コラァ! ったく、いちいちご主人様に妙なことを吹き込むな!」


「揉めている場合じゃないわ、二人とも。先を急ぐわよ。ロスしたタイムを埋めなきゃ、いけないわ」


「そっだね。ボス戦まで余力は残さなきゃだねん」


 異界人のアリアとファティと違い、四葉さんと鈴音は至って冷静クールだ。

 なんと言うか訓練されたプロフェッショナルを感じる。


 それから再度、高速移動して深層を目指していく。

 中層のモンスターを蹴散らしていく中、いよいよ人類初の下層に到達した。

 

 温度は150度か。

 通常装備なら1分もいられない。


 カシュ――。


 自動的にマスク施され鼻と口を覆う。

 なんでも熱波で口腔内と肺が焼かれてしまう可能性があるからだとか。


 さらにここに来てから、モンスターのグレードが飛躍的に上がっている。


 全身に炎を纏う大きな体躯を持つ、火蜥蜴ヒトカゲことサラマンダー。

 獅子の頭と山羊の胴体、そして蛇の尻尾といった合体獣のキマイラ。

 石で構成された体に赤黒い高熱を帯びた守護兵、溶岩ゴーレム。


 そんな強力なモンスターに遭遇し、戦いを余儀なくされた。


 アリアはツヴァイハンダーから繰り出される斬撃でモンスターを一刀両断し、ファティは祈りの力で吐き出される炎を打ち消しつつ、戦棍メイスの聖杖で強力な打撃を与えている。


 四葉さんは自動小銃アサルトライフルで前衛のアリア達を援護し、鈴音も短機関銃サブマシンガンで応戦していた。

 二人とも俺と歳が変わらないのに、やたら銃器の扱いが巧みだ。

 特に四葉さんの射撃センスは超精密だった。


「センパイ、そっちにサラマンダーが向かったよ!」


「りょ、了解ッ!」


 うわっ、密かにSPSでの初戦闘だ。

 女子達が討ち漏らしたサラマンダーが咆哮を上げ、俺に向かって突撃してくる。

 サラマンダーは火を吐くだけじゃなく、その全身から溢れた炎を利用して体当たり攻撃も得意とした。


 俺は自動拳銃ハンドガンで応戦し、照準に合わせてトリガーを絞る。

 魔術式光粒子力マナ・フォトンが宿された青い閃光が、サラマンダーの体を貫いた。


 だが逆に貫通したことで、サラマンダーは肉体を半壊させるに留まり、余力を残して突貫しようと迫る。

 拳銃で仕留めるには近すぎて、さらに急所を外してしまったようだ。


「やってやる!」


 俺は片手湾刀サーベルを鞘から引き抜き踏み込む。

 サラマンダーの突進にタイミングを合わせ、剣を振り頭部を斬り裂いた。


 今度は手応えがある。

 青い閃光がサラマンダーの全身を這うように迸り四散させた。


 粉塵と化した肉片から『魔核石コア』が現れ、そのまま地面に転がる。


「や、やった! 勝ったぞぉぉぉ!」


 初めてスキル以外で勝利を収めることができた。

 勿論、SPSの性能とアシストがあっての成果だ。

 だがそれよりも、陰キャぼっちの俺が自らの意志で戦えたことに意味がある。

 そう自己評価した。



:おっ!? スレイヤーくん、ボス以外でもきちんと活躍しとる!

:結構、やるんじゃね!?

:センスあるわ!

:元々ハートが強いからな、スレイヤーくんは。斃せる武器さえあれば、そこそこできる子だと思っていた

:↑の人、実のオヤジ以上に父親目線www

:いや、そーなるよ。成長早いもん

:感動したわ

:ねぇ、やっぱSPS凄いの?



 コメントの反応が凄い。爆速して盛り上がっている。

 ここは応えるべきかな。


「はい、体は凄く軽い感じです! 機械的なアシスト機能もあるので、射撃が苦手な俺でもヒットさせることができました!」



:いいなぁ、ワイも装着したい!

:けどワイ、メタボだからな……くすん

:スタイル悪いとビジュアル的にアウトだなwww

:草

:下手な探索者シーカーなら悪用されそう

:まず量産化されなきゃ無理だろ?

:購入したい

:スレイヤーくん、売ってくれw



「ははは……あくまでDUN機関の所有物ですからね。売れることは難しいでしょう」


「見事だったわ、御幸くん。やるわね」


 四葉さんが近づいて来る。

 残りのメンバーも後ろから歩いていた。


「四葉殿に鈴音殿……其方ら、その気になれば二人だけで殲滅できた筈だ。わざと一匹逃がしたな? ご主人様を戦わせるために……」


 アリアが不満気に訊いている。


「まぁアリアちゃん、そう怒らないで。班長も言ったでしょ? 次回から御幸くんは隊長として指揮しなきゃいけないんだから……仮に彼が仕留め損ねても、わたしがしっかりフォローするつもりだったわ」


「四葉ネェの言うとおりだよぉ。ボス以外でも戦えるように度胸つけないと、困るのはセンパイだぞ。そうでしょ?」


「わかっている。だがしかし!」


「アリア、俺なら大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 俺が言うと、アリアは恥ずかしそうに体を揺らしくねらせて見せる。


「……はい。ですが無茶だけはなさらないでください」


 なんだろう?

 フルフェイス上で顔はわからないけど、デレているような気がする。


 ともあれ、その後もD班は最短ルートに従い下に降りて行く。


 立ちはだかるモンスターを駆逐して、3時間後。

 ついに深層へと到達した。

 

 さぁ、いよいよ『ボス部屋』だ。

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