第25話 苛烈の煉獄ダンジョン

「お、おはようございます! この度、DUN機関に入った探索者シーカー、西埜 御幸です! 本日はお日柄もよく、僕達の初配信を観ていただきありがとうございます!」


 Duチューブでの生配信が始まり、俺はドローンに向かって一礼する。


 モニター越しでミランダ班長から『堅い! 堅いのぅ! 汝、若者なんじゃからウェーイくらい言わんか!』と駄目押しされてしまう。


 んなこと言われたって……俺、つい最近まで陰キャぼっちだった男っすよ?

 『オヤジちゃんねる』だってずっと裏方だったし、いきなりハイテンションの強要は俺にとって罰ゲームでしかない。

 元々そんな明るいキャラじゃないし。



:おはようございます!

:おは

:おは

:おは、息子くん!

:うおっ、カッケェ! 何、そのカッコウ!?

:やべぇ、ガチ救世主だわw

:スレイヤーくん、イケてる!

:ニュースだと対ダンジョン攻略用の戦闘服だってばよ!

:美人女子アナのミキちゃんが言ってたやつね

:DUN機関って公共団体の組織だっけ?

:地方公務員的な? 【不滅の疾風エターナル・ゲイル】に引き抜かれたって噂はガセかよ

:草

:ブラック系ギルドに引き抜かれるより超マシw

:スーパーヒーロー爆誕!

:楽しみにしてました!

:期待してるよ!

:西埜! 頑張れ!



 色々なコメントが浮かび流れ始める。

 とりあえず好意的な内容が多いようで、まず掴みはOKってところかな?


「たくさんのコメントあ、あざーすぅ! せ、宣伝どおり今日は、最も苛烈と言わしめる極悪大迷宮こと『煉獄ダンジョン』に潜り探索アタックしたいと思いますぅ! これまでSランク探索者シーカーでさえ中層までしか到達できなかった未知の領域、果たしてどんなボスが待ち構えているのでしょうか! 乞うご期待!」


 俺はバイザー越しに表示されるカンペを読み解説する。

 つい棒読みになってしまうけど仕方ない。


 ちなみに視聴者の間でダンジョンのボスが「イフリート」だと知られておらず、サプライズとして直前まで黙っているようにと言われた。


 それから視聴者にD班のメンバーを軽く紹介する。


 アリアとファティは既に顔バレしているので、「うおっ、アリアたんもメタリック装備かよ!」「厨二心がくすぐられる!」「ファティたんもかわいい!」「なんかエロい!」と言われていた。

 

 一方の四葉と鈴音はシークレット扱いであり、ヘルメットのバイザーもスモーク処理され顔や名前が明かされていない。

 ただ装甲越しから浮き出される抜群のスタイルの良さから、「二人とも絶対美少女に違いない!」とコメントが殺到していた。

 実際にそのとおりだけどね。


 しばらく先に進むと、さっそく低級モンスターが現れた。

 炎を吐く黒犬ヘルハウンドだ。

 しかも通路を塞ぐ形で、10匹ほど待ち構えている。


「――フン!」


 アリアは猛スピードで駆け出し、ツヴァイハンダーを振り回した。

 その際、全身に纏っているSPSと大剣から青い光輝が発せられる。

 原動力とされる『魔術式光粒子力マナ・フォトン』の閃光だ。

 

 ツヴァイハンダーの剣身は狭い洞窟の外壁をものともせず、寧ろ岩ごと斬って削り砕きながら、ヘルハウンド8匹の首を同時に刎ねた。

 

「先手必勝とは言うけど先走りすぎね、アリアちゃん――」


 四葉は冷静な口調で言い放ち、腰のホルスターから素早く自動拳銃を抜き二発撃った。

 弾丸は青光の弾道を描き、残ったヘルハウンド2匹の眉間を正確に射貫く。

 頭部はスイカの如く飛び散り、肉体ごと消滅した。

 

 まさに瞬殺。

 恐ろしい攻撃力だ……これがSPSの性能か。


 その後、ヘルハウンドが落とした『魔核石コア』を鈴音が回収し、自分のスキル《無限格納庫ハンガー》へと収納する。


 低級モンスター相手とはいえ、俺の出る幕がない。

 まぁボス戦以外は見学扱いだけどね。



:アリアたん最強!

:つよっ!!!

:岩ごと斬るって何?

:元々強い子だけど、パワーアシストが輪をかけてヤバイ!

:Aランク探索者シーカーだけど次元が違う一振りだった

:銃を撃った子も早撃ちやばくね?

:ガチ、超精密射撃だったわ

:あの子、スキル持ちか?

:反則級のスタイルwww

:お姉さんの顔みたい



 視聴者すら圧倒するほどの戦闘力。

 アリアだけでなく、顔を隠している四葉さんのミステリアス具合が視聴者の興味をより引き立てているようだ。


「四葉殿、フォローすまない」


「構わないわ。けどアリアちゃん、御幸くんの護衛もあるんだから一人で先走ったら駄目よ」


 ちなみに四葉と鈴音の名前を呼ぶ際、自動編集で「ピー」が入っているらしい。

 アリアは「そうだな、面目ない」と認めながら、俺の傍に戻ってきた。


「ご主人様、雑魚の討伐は私達にお任せください」


「う、うん……けど俺もみんなの足を引っ張らないよう頑張るよ」


 一応、役割が決まっているとはいえ守られてばかりも情けない。

 ボス以外の相手に無双は難しいけど、せめて低級モンスターを斃せるくらいにはなりたいと思う。


◇◇◇


 ダンジョン探索アタックを開始してから約15分。

 

 もう中層に到達した。

 通常なら1時間以上は要する筈だが、表示された最短ルートマップに沿い、SPSの機動力を駆使して高速移動を行った結果だ。


 勿論、各所でモンスターが出現するも、アリアとファティが速攻で薙ぎ払うか四葉と鈴音が銃器類やハンドグレネード弾など使用し速攻で殲滅していく。

 ここまで、ほぼタイムロスなく来られたというわけだ。


 やっぱりSPSの性能は絶大だと実感する。

 おまけに、これだけ人間離れした動きを見せているにもかかわらず、自身の体に一切の負荷がなかった。

 流石、魔法学を融合させていることはある。


 反面、運動神経というべきか。感覚が追いつかない。

 あまりにも超人的な馬力ぶりに時折ブレーキや回避行動が遅く、岩壁に激突しそうになることもあった。

 まるで、いきなりレーシングカーを運転させられた気分だ。


 実際にコメントからも、



:は、はぇぇぇ!!!

:マジか!?

:ひぃやあぁぁぁぁぁぁ

:うぎゃぁぁぁぁぁぁ

:あばばばばばばば

:ちょい、ヤバイって!

:目が回るぅ!

:うおぇ、気色悪う

:画面酔い半端ねぇぇぇ!

:みんな自立神経混乱中w

:酔い止めプリーズ

:誰もついて行けてなくて草

:もうこれ事故配信だろwww

:今から三半規管、鍛えに行きます!

:鍛えるの遅すぎて草



 などと凄い状況っぽい。まぁ盛り上がっていると捉えるべきか。

 ミランダ班長からは「うむ、ウケとるぞ」と前向きに評価されている。


 こうして急ぐには理由がある。


 まずはSPSの稼働時間が限られていることだ。

 立花博士の説明によると、約5時間しか持続使用できないとか。


 もう一つは、今回の『煉獄ダンジョン』は短期攻略が望まれている点だ。

 何しろ中層で既に温度が100度を超えている。

 さらに下層、深層はより温度が上昇するらしい。


 そしてしばらく進んでいくと。


「待ってください。どこかの探索者シーカー達が行き倒れています」


 ファティは足を止め、進路方向とは別の通路側を指して言ってきた。


「ファティちゃん。わたし達の任務は一刻も早くボス部屋に行くことよ……って結構、危ない状態のようね」


 現場を指揮する四葉も立ち止まり、枝分かれになっている方向を凝視している。

 俺もバイザーの遠視センサーを拡大させ、薄暗闇の通路を見据えた。


 確かに探索者シーカーらしいパーティが地面に倒れ伏せぐったりしている。

 外傷はないようだが、あまりにも高温の熱気にやられてしまったようだ。


「中層まで到達しているってことは、Sランクの探索者シーカーだねぇ。全員、体に何かしらの高温対策を施しているようだけど、それでも限界はあるからね……四葉ネェ、どうするの?」


「このまま放置したら、モンスターに襲われ一溜りもないでしょうね。けど彼らもプロである以上、相応の腹を括っている筈よ……っと、普段のわたしならそう思うところだけどけどね」


 四葉さんはチラっと、こちらの方を見据えてくる。

 どうやら次期隊長の俺にチームの判断を委ねたいようだ。


 俺としては勿論。


「助けられるなら助けてあげたい。SPSの稼働限界時間だって、まだ余裕がある筈だろ?」


「流石は我が主。素晴らしい英断だと思います」


「……だそうよ、ファティちゃん。待っているから助けに行ってらっしゃい」


「はい! やはりミユキ様はわたくしの救世主様です!」


「センパイ、やーさーしぃ」


 なんだろ?

 やたら女子ウケがいいんだけど。


 俺、人として当たり前のこと言っただけなのに……まぁ、いいか。


 ファティは鈴音から飲料水を受け取り、探索者シーカー達のところへと向かう。

 回復系魔法ヒーリングで彼らの体力と意識を取り戻させ、水分補給を促すのであった。

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