第24話 色々な探索準備

『まず私から作戦内容を伝えます』


 ミリンダ班長のウィンドウ枠の隣側で、東雲副班長のキリっとした美人顔が映し出される。


『煉獄ダンジョンに潜入後、各隊員は表示されたルートマップに従い深層まで向かってください。ボス部屋に突入後、新たな指示に従い行動すること。尚、ダンジョンには他のギルドに所属する探索者シーカー達が既に潜入しているとのことです。彼らのことは気にせず任務を優先して進んでください』


『どうせ、彼奴きゃつらの装備では深層まで行けん。ボスであるイフリートさえ斃してしまえばダンジョンの環境も改善されるじゃろう』


「わかりました」


『それと探索アタック中の実行指揮は、四葉が行うのじゃぞ』


「ですが班長、わたしよりアリアちゃんかファティちゃんの方が階級は上ですが?」


『ふむ。アリアは強さには問題ないが、猪突猛進の性格故に指揮にはむかん。ファティに関しては論外じゃ。経験豊富な汝の方が適任じゃろう』


「……この忌まわしき吸血鬼め、イラっとします。いつの日か聖なる光で浄化させてみせましょう」


「やれやれ、ファティよ。そういうことを言うと、また副班長殿に叱られるぞ。あい分かった班長殿、其方の指示に従おう」


『うむ、ミユキは四葉の指揮能力をよく学ぶのじゃぞ。次は汝に隊長をやってもらうからな』


「え? は、はい! わかりました!」


 うわぁ、プレッシャーだわ……。

 陰気キャぼっちだけに、これまで誰かに指示するなんてやったことないんだけどなぁ。

 こりゃ真剣に取り組まないと駄目だぞ。


「あと、SPSのチュートリアルはキミ達のOSに入れてあるわ。戦いながら覚えてね。御幸君は探索者シーカー経験はあるけど、非戦闘員の支援役サポーターだったわね? なら、まず戦いに慣れることを勧めるわ」


「……はい、立花博士。頑張ります」


「ご安心ください、ご主人様。我ら一同、全力で貴方様をお守りいたしましょう!」


「どうか大船に乗った気持ちでいてくださいませ、わたくしの救世主様」


「御幸くん、ボス戦までは鈴音と一緒に後方で待機ね」


「えへへへ。よろしくね、センパイ!」


「わかったよ。こちらこそ、よろしく!」


 こうしてブリーフィングが終わり、俺達はテントから出た。

 ちなみにミランダ班長と東雲副班長の二人は地上で待機し、探索する俺達に指示を送る戦闘指揮官だ。



「ご覧ください! ただいま、テントから救世主とパーティ達が出てきました! これより苛烈極まる『煉獄ダンジョン』へと潜入する模様です! おや? あの黒い装備はなんなのでしょうか? おっと、どうやらDUN機関が開発した対ダンジョン攻略用の戦闘服だそうです! 頑張れぇ、救世主!」


 バリケード越しで、有名な女子アナがテンションを上げて実況している。

 カメラのフラッシュが半端なくて眩しい。


 さらに見物人と思われる野次馬から「救世主ぅ、頑張れよぉ!」「キャーッ、素敵ぃ!」など黄色い声援が飛び交っている。

 まるで人気アイドルのような熱狂ぶりだ。


「手ぐらい振った方がいいかな?」


「真のヒーローはね、子供達にだけ愛想よくしてればいいのよ」


 現場を指揮する四葉さんが諭すように言ってくる。

 見た目は癒し形のお姉さんだけど、ミリンダ班長から信頼されていることなどから、探索者シーカーとして相当な実力者のようだ。


 入口付近で警備する自衛隊員に敬礼され、俺達D班はダンジョンの中に潜入する。


 いよいよ『煉獄ダンジョン』の探索アタック開始だ。



 ――熱い。


 入った瞬間、そう思った。

 SPSを身に纏っているのに、ムンとした熱気が立ち込めている。


「温度、80度!? 上層なのに、既にサウナ状態じゃないか!?」


 親父とフリーの探索者シーカーである俺にとって、初めて訪れたダンジョンだけに驚愕してしまう。

 

『御幸君、最初だけよ。SPSで自動体温調整してくれるから安心して……初めてはね、誰でもそうなのよ。だから優しくするのよ』


 立花博士がウィンドウ越しで意味ありげに説明してくる。

 後半部分の説明は絶対に不要だと思う。


「相変わらず博士は痴女だね~ん。はい、アリっち」


「うむ、かたじけない」


 鈴音はアリアに身の丈ほどの大剣を手渡している。

 以前見た剣とは異なっているデザインだ。

 広刃の剣身から柄に至るまで漆黒色に染まり、各所にブルーライトの光が線状に帯びている。


「アリア、それは?」


「SPS専用の魔術式光粒子力マナ・フォトン型ツヴァイハンダーです」


魔術式光粒子力マナ・フォトン?」


『魔法学と科学を融合したエネルギー粒子よ。SPSの動力源でもあるわ。常に光っているブルーライトの光がそれよ。専用武器と連動することで、より効果的なパフォーマンスが発揮されるってわけ』


 立花博士が捕捉する。


「魔法学? まさか異世界の力とか?」


『そうじゃ。日本政府はそのために、異界人を柔軟に受け入れておる。妾達も情報を提供することで市民権を得ているというわけじゃ。まぁ、ケースバイケースというやつじゃぞ』


 ミランダ班長の話だと、対モンスター用として異世界の魔法学はとても有効らしく、以前から情報提供をしている間柄らしい。

 またその知識で作られた武装類は、一般のギルドに流用され広められている。


『SPSは魔術式光粒子力マナ・フォトン技術を惜しみなく集約された最先端の装備よ。機能的なアシストだけじゃなく、付与魔法によるバフ効果も備わっているわ。だから超人的な力を発揮しても使用者の肉体に負荷がかからないメリットがあるのよ』


「凄い、これなら素人の俺でもなんとかなりそうだ……ん?」


 立花博士の説明を聞く傍ら、ふと仲間達の少女達に疑念を抱く。


 気がつくと、全員がいつの間にか何かしらの武器を手にしている。

 ファティは先端が戦棍メイス状になった聖杖。

 四葉さんは自動小銃アサルトライフルに、鈴音は短機関銃サブマシンガン

 いずれも魔術式光粒子力マナ・フォトンの技術が導入された特殊仕様だ。


「みんな、その武器はどっから出したの?」


「あたしだよん、センパイ」


 鈴音は声を弾ませ、掌を上に翳し始める。

 すると空間が歪み、半透明の両開き扉が出現した。

 自動に扉が開かれて、彼女はそこから自動拳銃ハンドガン片手湾刀サーベルを取り出している。

 それらの武器を俺に手渡してきた。

 扉が閉じられると、フッと消失する。


「……今のはスキル?」


「そっだよぉ――《無限格納庫ハンガー》っていう、あたしのスキルぅ」


 なんでも特殊空間を創り、あらいる物体を無限に収納し好きな時に取り出せる能力らしい。

 食べ物も収納可能であり、その場合は現存の状態を維持したまま永久保存が可能だ。

 ただし生物は収納できず、また人のサイズより大きな物体も不可能だと言う。


「親父から聞いたけど、スキルって大半は身体能力フィジカル強化や攻撃力アップが大半で、せいぜいバフやデバフの付与や効果しかないと聞いていたけど?」


「一般的にはねぇ。稀にあたしのような特殊系なスキル能力者もいるよぉ。ちなみに、あたしの《無限格納庫ハンガー》は具現化系ね」


 そうなのか……探索者シーカー歴一年の俺でも知らないことは多いらしい。


 いつの間にか、SPSの冷却機能が作動し体感温度が20度まで下げられている。

 指揮する四葉さんを先頭に、俺達D班が先に進もうとした途端、何かが目の前を過り足止めしてきた。


 配信用の追跡ドローン・フェアリーだ。

 捕捉として、こいつも特殊耐熱加工がされている。


『ミユキよ、先へと進む前にDuチューブの生配信を始めるぞ。汝がメイン配信者だから、実況を頼むぞ』


「え? 班長さん、俺がやるんですか?」


『勿論じゃ。ダンジョン配信は、救世主である汝が主役なのだからな。視聴者も汝を身近に感じ、さぞ舞い踊り盛り上げてくれるじゃろうて。楓の方でSNSに宣伝済みじゃ。既に1万人が待機しておるぞい』


 い、1万人!?


 おいおい、どうなってんの!?

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