第23話 対ダンジョン用の戦闘服
煉獄ダンジョン。
俺が住む町に点在するダンジョンで、最も苛烈と言われる地下迷宮だ。
およそ100階層まで続くとされ、深層に入るにつれ強力な魔物が出現する。
そこまでは通常の大型ダンジョンと変わりないのだが、苛烈と呼ばれる所以は出現するモンスターの質であった。
全てが炎系モンスターで構成されていたからだ。
したがってダンジョン内は異常な熱気で立ち込められており、並みの
特に夏場はアタック不可能と言われ、真冬とてSランク
まさに煉獄。苛烈なるダンジョン。
それらを支配するボスこそ、炎の魔神と称される『イフリート』とされている。
だがこの情報はネットどころか、どのギルドでさえも知られていない、DUN機関の独自情報だ。
何しろ深層に辿り着いた
「――数日前。開発部が製造した耐熱特化型ドローンで深層のボス部屋まで到達し、イフリートの撮影に成功しています、が……」
東雲さんは言葉を詰まらせる。
そのまま俺達にタブレットの映像を見せてきた。
紅蓮の炎に包まれた巨大な魔人のような姿を捕捉したかと思った瞬間、すぐに映像が途切れてしまっている。
「見てのとおり、灼熱に耐え切れず溶けてしまったようじゃ」
ミランダ班長がそう補足した。
なんでも攻撃を受けたわけじゃなく、近づいた瞬間にドローンが燃え尽きてしまったらしい。
いやいやいや!
「これじゃボスに近づくことさえ無理じゃないですか?」
「ミユキ様の仰るとおりです。いっそ、不老不死である忌まわしき班長が突貫して灰になるべきでしょう」
「ファティ特務二尉、いい加減になさい! そんな真似、この私がさせませんよ!」
東雲さんが凄い剣幕で怒っている。
実はこの副班長、ミランダ班長に心酔、というよりもかなり溺愛しているらしい。
それが理由で、有望だった女性自衛官からDUN機関に移籍したという噂もあるくらいだ。
ここで余談となるがD班のメンバーは、全員が非公式組織だが自衛隊と同じ階級が付けられている。
ミランダ班長は特務三佐。
東雲副班長は特務一尉。
アリアとファティは特務二尉。
四葉は特務三尉。
鈴音は特務准尉。
以上で階級上に必ず「特務」がつく。
これら「特務階級」は、ダンジョン探索時や救世主(俺)の護衛時に関してのみ、二階特進した発言権を有し自衛隊に直接指示することを認められているという。
アリアがよく自衛隊のヘリを呼び寄せることができるのも「特務」に所以する立場からだ。
けどD班入りした俺には、まだ階級がついていない。
今回の戦いから評価され見定められるとか。
ミランダ班長から「ゆくゆくは現場でチームを束ねる隊長になってほしい」と言われている。
果たして俺なんかにそんな器があるのかわからない。
いや、これから自分を磨き上げるんだ。
とまぁ話は戻り、
「――そのためのSPSじゃ。少なくても深層までは問題なく行けるじゃろう」
「ただし開発者である立花博士の説明によると、ボス戦での耐久性能は5分が限界のようです」
「それってノーダメージだった場合でしょ? 戦闘中にスーツが破損したりすれば、ドローンの二の舞ってわけよね?」
四葉さんの問いに、説明するミランダと東雲さんは無言で頷いた。
「したがって汝らは可能な限り遠距離での支援が望ましい。あとはミユキが《
「けど近づいただけで溶かされちゃうんですよね? そのSPSだが装備しても、上手く接触できるかどうか……」
俺は当然の疑念を投げかける。
何せ、まだ試着すらしてないからな。性能がよくわからない。
なんでもスーツの調整に手間取ったらしく、ぶっつけ本番での初陣だ。
「その辺はなんとかなる。そうじゃな、鈴音よ?」
「うぃす、班長。けど組み立てるのに、四葉ネェのサポートありきで3分はかかるかよぉ」
「鈴音、組み立てるって何を?」
「秘密だよん、センパイ。にしし~」
そう無邪気そうなに笑い、白い歯を見せてくる。
アイドルのような可愛らしい容貌だけに、ついドキっとしてしまう。
まぁ、きっと対イフリート用の兵器だと予想した。
◇◇◇
それから間もなくして『煉獄ダンジョン』に辿り着いた。
背筋を伸ばしバスへと降りると、異様な光景を目の当たりにする。
自衛隊が厳重体制でバリケードしている外側で、多くの報道陣で溢れていた。
数えきれないほどの記者達が所狭しとせめぎ合い、大きなカメラを担いだ人達で賑わっている。
またテレビのニュースで見たことのある美人女子アナが実況していた。
「なんか凄いことになっているんですけど……でもどうしてマスコミがこんな大勢いるんだ?」
『妾がリークしたからじゃ』
頭上からミリンダ班長の声。
気づけばカメラ機能が搭載された追跡型の小型ドローンが浮遊している。
通称「フェアリー」と呼ばれる高性能型で
「班長さんが? どうして」
『これも宣伝のためじゃ。何度も言っておるがDUN機関は非公式じゃが秘密組織ではない。組織の運営を維持するためには防衛省の予算や不破財閥の援助だけでは心許無いところもあるじゃろう。こうして表沙汰にすることで国内だけでなく世界中に、我が組織のアピールできる。より多くのスポンサー獲得を狙う意図もあるのじゃ』
「なるほど……」
『ちなみに
「わ、わかりました、班長さん」
やばっ、急に緊張してきたぞ。
こりゃ下手に醜態を晒せなくなってきたじゃないか。
「D班のみんな、こっちよ」
セクシー美女の立花博士が手を振って、俺達を呼んでいる。
開発部は先に到着し待機していたようだ。
博士の後ろには、彼女の部下らしき女性研究員スタッフ達がいる。
ダンジョン入り口前に設置された真っ白な仮設テントへと案内され、事前に着用していた黒色のインナースーツ姿となった。
それから研究スタッフから旅行バックほどのアタッシュケースが手渡される。
ケースを開けると、漆黒の光沢を発したラグビーボールのような楕円型の
所々に見られる溝部分から、淡いブルーライトの光が発せられている。
「――これが、SPSよ」
立花博士が、俺に近づき説明してくれた。
「でも博士、確か体に装備するアシストスーツだと聞いていたんですが?」
「そうよ、御幸君。まずは触ってごらんなさい」
俺は言われるがまま、ユニットに触れてみる。
〔――認識コード確認:IGNITION WEARING MODE――〕
突如、機械音声が鳴り響いた。
同時に楕円形のユニットが大きく開かれていく。
いきなり俺の体を飲み込むかのように覆い始め、複雑な可変機構を繰り返しながら磁石のように各部位に装着される。
そして――カシュ!
〔――COMPLETE,SPS START UP〕
気がつけば、俺は漆黒色のコンバット・スーツを身に纏っていた。
全身に密着する形で縁取られた薄型の
頭部は兜のようなヘルメットにバイザーが下ろされ、視界にはSPSの状況が表示されたパラメータなどがウィンドウ状で映し出されていた。
「カッコイイ~!」
思わぬ近未来的な装いに、ついテンションが上がってしまう。
子供の頃、憧れていたヒーローに変身した気分だ。
それにしても、まるっきり重さや違和感がない。
寧ろ軽快で、何も着てないようだ。
アリア達女性陣も似たような姿をしていた。
しかも抜群のスタイルに美しいボディラインが浮き彫りなった感じで、目のやり場に戸惑ってしまう。
『よし、各自ブリーフィング後に
視界斜め上のウィンドウから、ミランダ班長の美少女顔が映し出された。
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