第22話 救世主、変わり始める
「いきなりの話で、御幸さんも困惑されているでしょう? ごめんなさい」
「はい、正直に言いますと……まさかって感じで」
つい同い年の早織さん相手に敬語になってしまう、俺。
それだけ尊く輝いて見える女の子だと思う。
「俺達も一方的な提案なのは悪いと思っているよ。たが早織も御幸君にすっかり惚れ……いや、キミのこれからを心配してね。ケンのこともあったし、いい機会だと判断して誘ったんだ」
今、昌斗さん、さらりと何か言ったよな?
早織さんが俺に惚れなんちゃらって……まさか聞き間違いだろ?
こんな綺麗な子が俺なんかを。
「ですからご返答は後日で構いません。なんでしたら、聖雲学園に一度ご見学されては如何でしょう? アリアさんや他の方達とご一緒に当学園の雰囲気や生徒達が活動している様を見て頂きたいです。」
「それって平日?」
「ええ。御幸さんの学校には、こちら側で連絡して許可を頂きますのでご安心ください」
ここまで推してくれるなら見学くらいなら別にいいかな。
一応みんなにも声を掛けておこう。
「うん、早織さん。お願いします!」
「はい! それと御幸さん……」
「はい?」
「そのぅ、わたしに敬語は不要ですからね。それと、早織と呼んでください……一応は同学年なので」
「え? あ、ああ……ごめん。じゃあ早織、お願いするよ」
「はい」
「ちなみに妹の喋り方は気にしないでほしい。俺と違って、この子は祖父と父に寵愛を受けた、自慢の箱入り娘なんだ」
昌斗さんの言葉に、早織は「もう兄さんったら」と頬を膨らませる。
なんだか仲の良い兄妹だと思う。
「そういえば半グレ達に絡まれた時、どうして早織は一人だったの?」
「そ、それはそのぅ……恥ずかしいです」
急にしおらしくなる、早織。
すると昌斗さんが助け舟を出してきた。
「早織は好奇心旺盛というか、やんちゃなところがあってね。俺に会うため屋敷から抜け出し、一人でギルド本部に向かう途中で反田達に絡まれたそうだ。どうやら奴らは以前からずっと拉致する機会を狙っていたらしい」
自分を解雇した昌斗さんに対する復讐目的か。
やっぱり結構やばい状況だったようだ
良かった、助けられて……。
けど今、さらりと「屋敷」とか言ったぞ。
俺ん家なんかボロアパートなのに、この辺から住む世界が違うなぁ。
それから少し雑談を交え喫茶店を出る。
昌斗さんの車で自宅のアパートまで送ってもらった。
◇◇◇
家では親父の丈司がやたらと機嫌がいい。
なんでも俺が討伐したダンジョンのボス、バルサウロスの『
「ほら御幸、これはお前の取り分だ。受け取れ」
丈司はボンと札束を俺に渡してくる。
帯封が付いているので、100万円ほどだった。
「い、いらねーよ! 俺、まだ高校生だぞ!」
「はぁ? お前が斃したんだろ? これでも学生だから取り分を少なすぎて申し訳ないと思っているくらいだぞ。ちなみに瑠唯にも同じ金額のお小遣いを渡している。見ろ――」
丈司は居間の隅っこで蹲っている娘に向けて人差し指を向けた。
妹の瑠唯は100万円札を抱えてガタガタと奥歯を鳴らし震えている。
「……お兄ちゃん、わ、わたし、可笑しくなっちゃう。ぜ、絶対にイケナイ方向にいっちゃいそうだよぉぉぉ……ど、ど、どうしょう」
妹が迷走して精神崩壊しかけてるぅ!!!
俺が絶句している中、アリアが「妹殿、しっかりなされ」と優しく介抱してくれてた。
ちなみに報酬金は手取りで、9000万円ほど得ていたらしい。
これでも『
さらに贅沢を言えば、素材などあればもっと高値だったとか。
「後で調べたのだが国によってボスの単価が違うらしいぞ。アメリカや中国だと倍以上の価格で『
「それはまた別の話として……残りの報酬金はどうしたんだ? 借金に当てたのか?」
「税金分を残しつつ後は以前話した、ミランダさんが紹介してくれた物件に全額回した。現在、工事中で来月くらいには、このボロアパートから引っ越せるぞ」
「はぁ!? 中古物件だろ!? 改築でもすんのかよ!?」
「まぁそんなところだ。投資する価値があるとだけ言っとくぞ。それに父さんが抱えた借金の方は《オヤジちゃんねる》で賄うつもりだ。現在、登録者数150万人まで達したからな……前回の件といい、広告収入も爆上がりだぞ」
上機嫌で説明してくる、丈司。
何やら考えがあるようだけど、一度失敗を犯した親父だけに胡散臭い。
まぁこれ以上、借金しなければいいや。
それから就寝前。
俺は仕切りの向こう側で寝ている、アリアに声を掛けてみる。
「アリア、起きているか?」
「はい、ご主人様。如何なされました?」
「今日、早織から受けた誘いなんだけど……アリアはどう思う?」
「ご主人様がお決めになられた道を進むべきだと思っています」
如何にも彼女らしい返答だ。
「悪い話じゃないとは思っているんだ……環境を変えることである意味、自分自身のリセットになるかなって。それに今より成績も上がりそうだし……まずは聖雲学園がどんなところなのか見学して決めたいと思っている。だからそのぅ――」
「はい?」
「聖雲学園に行くと決めた時は、アリアも一緒に来てほしい」
「勿論です。このアリア、ご主人様が向かう場所であればどこだろうとお供致します」
「……ありがとう、おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ、我が主よ」
危ない……。
嬉しすぎて思わず声が震えそうになった。
これ以上、話していたら余計なこと言ってしまいそうだ。
最近じゃ、アリアが傍にいることが当たり前になりつつある。
だからだろうか。
今じゃ彼女の忠誠心に見合う男にならなければと思い始めているんだ。
だからこそ、まずは俺が自分に自信を持てるように変わっていかないと……。
◇◇◇
週末。
ダンジョン探索の決行日となる。
ついにDUN機関のD班が本格始動されることになった。
「お久しぶりです、ユヅキ様。わたくしの麗しき救世主様」
「うん、ファティも元気そうで。今日はよろしくね」
「はい。神に仕える
D班専用の大型バス車両内。
シスター服を纏ったファティが俺に向けて祈りを捧げてくれる。
ここにも忠誠が心溢れた美少女がいるんだ。
「んん! ご主人様の護衛はこの私の役目だ。ファティよ、お前は
アリアはわざとらしく咳払いをしてみせる。
「アリアこそ、わたくしが不在をいいことに、ユヅキ様に妙な真似をしてないでしょうね?」
「するか! お前のような神職の分際で年がら年中、卑猥な妄想など抱いておらん! 一緒にするな!」
「卑猥ではありません。神に身を捧げるように、英雄たるお方に純潔を捧げる。これこそが神のご意思なのです。幼い頃から英雄譚を読み、ずっと夢見ておりました悲願です」
そして志半ばでダンジョンの内で倒れ、気づけばアリアと共にこの世界に転生していたとか。
現在、異世界で叶わなかった反動が、救世主とする俺に注がれているらしい。
「……ファティちゃんの気持ちはわかるけど、男の子の前でいたずらに言う言葉じゃないわ」
「だから、いつまでも待機扱いなんだよぉ。早くこっちの文化に馴染みなさいっての」
同じメンバーの四葉と鈴音が呆れた顔で言ってきた。
ファティは「フンです!」と鼻を鳴らしてそっぽを向き、俺に寄り添ってはニコニコと可愛らしい微笑みを向けている。
「ところで、僕達はどこのダンジョンに向かうの?」
車内にある全ての窓が黒いカーテンで覆われ外の景色が見えない。
これは吸血鬼の班長、ミランダに配慮しているからだ。
異世界では班長と敵対関係にあった、ファティが「ユヅキ様、いっそ悪鬼滅殺のためカーテンを開けましょう!」と提案して、東雲副班長から「陽の光を浴びたら、班長が灰になってしまうじゃないですか! 貴女はいい加減、異世界癖を直しなさい!」と叱られている。
当のミランダ班長は後部座席を独り占めして悠々とくつろぎ、「フッ」と余裕の笑みを浮かべている。
見た目こそ、まだ幼いツインテールの銀髪美少女だけに違和感しかない。
「――炎の魔神イフリートが支配する『煉獄ダンジョン』じゃ」
ミランダの小さな唇から、そう知らせてきた。
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