第21話 超リア充兄妹からのお誘い
いきなり昌斗さんの車でドライブすることになった、俺とアリア。
高級スポーツカーだけあって、後部座席は広いとは言えないけど革製のシートといい座り心地は自体は悪くない。
特に加速時など気持ち良く、昌斗さんの運転技術の高さが伺えた。
そして何かと隣に座るアリアと密着できて嬉しいやら恥ずかしいやら。
しばらく走行すると、とある喫茶店へと辿り着く。
そこで「少しお茶しないか?」と誘われ、車から降りた。
レトロモダンな雰囲気を醸し出したお洒落な喫茶店だ。
愛想の良い店員より、テーブル席へと案内される。
俺とアリアは椅子に腰を下ろすと、テーブルを挟んだ向かい側に、昌斗さんと早織さんが座った。
注文したコーヒーとショートケーキが置かれ、早織さんから「どうか遠慮なさらず食べてくださいね」と進められる。
「急に誘って悪かったね、御幸君」
「いえ、まぁ驚きましたけど……」
「実はキミと色々話がしたくてね……ケンは学校に来てたかい?」
「ケン?」
「藤堂 健太だ。一応、彼は【
「いいえ、今日は休んでました」
「……そうか」
昌斗さんは、どこか失望した表情を浮かべた。
すると席から立ち上り、いきなり俺に向けて深々と頭を下げてみせる。
しかも店のマスターや店員、他の客がいるにもかかわらず。
「すまなかった。心から謝罪するよ」
「え……? なんのことですか?」
「ケンのことだ。ずっとキミに酷い苛めを繰り返していたと聞く」
「そんな……昌斗さんが謝る話じゃ」
「いや、このことは
当事者の藤堂は勿論、取り巻きや責任を放棄した担任ですら謝罪の言葉がないのに……。
なんて誠実な人なのだろう。
「どうか頭を上げてください。俺は大丈夫なので……今じゃこうして彼女が守ってくれてますし、俺も変わらなきゃと思い始めところでして、はい」
俺はちらっと隣のアリアを見つめる。
彼女は瞳を潤ませ頬を染めていた。
「ご主人様……このアリア・ヴァルキリー、この身を挺して貴方様をお守り致しましょう!」
力強くそう言ってくれる。
だからこそ、俺も頑張りたいと思うわけで。
「……負けませんから」
早織は少しムッとした表情を浮かべフォークで突っついたケーキを口にする。
頭を上げた昌斗さんは「ははは」と笑い椅子に座った。
「アリアさんのことは知ってるよ。DUN機関だよね? ダンジョン対策特務機関、トップは防衛省か?」
「まぁ日本経済を支える不破財閥の御曹司である貴方に隠しても意味がないことですね。ご察しのとおりです」
なんでも不破財閥は防衛省を通じてDUN機関に資金援助をしている間柄とか。
リア充を飛び超え過ぎて言葉も出てこない。
「そうか……御幸君がフリーなら是非に【
昌斗さんは呟きながら自分に言い聞かせている。
そんなに俺を引き抜きたかったのか?
まぁ個人的には昌斗さんには好感を持っているけど、正直に言うとそこだけだからな。
それならDUN機関の方が親身になってくれるし、また華やかで良いと思える。
あれ? そう思ってしまうってことは、やっぱり女子ばかりに組織を編成した「謎の司令官」だかの思惑どおりなのか?
「では兄さん、わたしから御幸さんにお話しなさってもいい?」
「ああ、あの件だね。いいよ、早織」
早織さんは明るく「はい」と返事をして、俺に綺麗な瞳を向けてきた。
「――御幸さん、聖雲学園に転入しませんか?」
「え?」
「祖父が理事をしている学校です。わたし生徒会長であると同時に人材委員長でもあるのです」
「じ、人材委員?」
「優秀と認められた他校の生徒を引き抜くスカウトマンみたいなものさ。早織は祖父からその権限を与えられている。無論、表向きには存在しない役職だけどね」
なんでも聖雲学園は、日本の将来を背負う生徒を育成することを目的としている。
そのため優秀と認められた生徒でれば学費免除とか何かしら優遇した形で、他校の生徒に声をかけ引く抜くことがあるらしい。
早織は学生ながら、人材委員の責任者でもあると言う。
「理事長から許可を頂いています。お爺様も是非に我が学園にと仰っておられました。どうでしょうか、御幸さん。学費の方は心配なさらなくて結構です」
「いや、急に言われても……どうして俺なんかが?」
「御幸君のこと色々と調べていくうちに、あの学校がキミに相応しい場所じゃないとわかったからだよ。教師ですら生徒の苛めを向き合わず黙認するなんてもっての他だ。現にケンといい学校側から、キミに対して謝罪の言葉なんて一切ないだろ?」
「はい、そのとおりです」
「それに他の生徒達からも色々注目され迷惑しているんじゃないかい? キミの学業に支障をきたさないか心配なんだよ」
た、確かに環境は大幅に変わってしまった。
けど色々な女の子に声をかけてもらって友達になったし……いやいやいや、そうじゃないだろ。
今は苛められなくなったことで満足しているけど、言われてみれば周囲の目線や変貌ぶりに違和感というか「今更なんっすか?」という煩わしさを感じていた。
けど……。
俺は隣に座る、アリアをちら見する。
「アリアさんのことが気になるなら、彼女も一緒に聖雲学園に来るといい。キミと同じ条件でね。なんなら他の子達もいいよ。皆、素行も良いようだし、各分野で優秀な子達ばかりだ。早織も別にいいだろ?」
「ええ勿論、御幸さんが当学園に転入して頂けるという条件であれば……(本当は御幸さんだけに来てほしいのですが、お優しい方なので仕方ないですね)」
え? てことは他のD班の四葉さんと鈴音も有りなのか?
また莉穂やサヤも……ガチで?
あの天下の聖雲学園か。
そこに在籍するかしないかで、これからの将来が大きく変わると言っても過言じゃない。
決して悪い話じゃないと思う。
けど、みんなの意志だってあるだろうし……。
まずは俺がどうしたいかだ。
「早織さん……仮に俺が聖雲学園に転入するとして、そのぅ勉強やスポーツとか他の生徒さん達について行ける自信がないんですけど」
自慢じゃないけど、俺の成績と運動神経は普通だ。
順位も真ん中くらいで辛うじてバカにされない程度だと自負している。
ダンジョンのボスを斃すしか取り柄にない俺が、とてもエリート達についていける筈がない。
「学力に関しては当学園では個人に合わせたカリキュラムを用意し、授業の不足分や苦手部分を教師と共に行うシステムとなっています。勿論、努力は必要です。ですが当学園となる生徒でもっとも必要な条件は『人間性』であると、わたしは思っています」
「人間性?」
「はい。周囲に流されず、正しく強き心を持つこと。現に御幸さんはただ一人、このわたしを助けてくれたではありあませんか?」
「そ、そうだけど……あの時は妙なスイッチが入ったというか」
「だとしてもだ。ダンジョンでボスと遭遇した時も、キミは父親を庇って自分から身を挺して戦いを挑んだ。そして反田のような男をブチのめしても情が深く優しさを見せている……俺と早織は、御幸君のそういった人間性を高く評価しているんだよ」
「これは努力にも繋がることだと思っています。投げ出さず諦めない志。御幸さんなら、ちょっとしたサポートで学力や運動も飛躍的に向上されていくでしょう」
「いくら学力が高くスポーツ万能でも品行方正が悪く人間性が欠如している生徒なら、聖雲学園は絶対に受け入れない。それは俺のギルド【
藤堂がギルドを解雇?
今までそれで散々マウント取っていたのにバカな奴だ。
素行の悪さが理由でS級の超有名ギルドを辞めさせられたとなれば、もうどのギルドでも相手にされないだろう。
てか、藤堂が昌斗さんとなんの約束をしていたのか気になるけど……。
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