第18話 今更なんっすか?
翌朝、アリアと一緒に登校する。
相変わらず通行人達から注目を浴びるも、アリアが守ってくれるおかげで見知らぬ人から不用意に声をかけられ絡まれるということはなかった。
ただ同じ学校の生徒ならば挨拶くらいは黙認している様子だ。
「おはよう西埜君!」
ふとある女子に声をかけられ、俺は思わず身を縮こませる。
「あっ……生徒会長?」
彼女は、
才女と呼ばれる学校の生徒会長で、多くの男子生徒が憧れる高嶺の花として有名だ。
背中まで伸びた黒髪に、赤縁の眼鏡をかけており綺麗系ながらも可愛らしさを持つ美貌。
清楚感を醸し出しながらもスタイルが良く、特に大きな胸は男ならつい視線を向けてしまう。
そんな生徒会長とお近づきになりたいと思う学校の男子は多いわけだが、その「恋愛や異性には興味ない」という塩対応ぶりから見えない防壁で敬遠させている。
したがって自分から挨拶するような女子ではないと思っていた。
ましてや別クラスで陰キャぼっちの俺なんかに……。
「お、おはよう……鷲見さん」
ついコミュ障ぶりを発揮しカミカミ口調で返してしまう。
彼女は気にせず、ニコっと微笑み何気に俺の隣を歩く。
反対側で歩いていたアリアの目つきがキッと変わったが、相手は同じ学校の女子生徒でしかも生徒会長ということもあり空気を読んだのか黙認している。
けど気まずい空気には違いない。
「あ、あのぅ……俺に何か?」
「たまには一緒に登校したいと思ったんだけど駄目かな?」
「い、いえ……けど鷲見さんとは別クラスだし、今まで話したことなかったから」
「そうだよね。じゃあ、まず謝ろっかな……ごめんなさい、西埜君。今まで助けてあげられなくて」
「え? なんのこと?」
「……藤堂君のこと。彼に苛められているの知っていながら生徒会長として何もしてあげれなかった。別クラスとはいえ……教師に相談くらいできた筈なのに」
「いや鷲見さんが謝ることじゃ……担任でさえ見て見ぬフリだったし。きっと教師達も藤堂の親父さん、ダンジョン管理省の事務次官と知っているから下手に口を出せなかったんだと思うよ」
「それでもだよ……現に西埜君、あんな怖そうな半グレ達相手にたった一人で勇敢に立ち向かったじゃない? あの動画を見る度に思うの、私は逃げていたんだって、生徒会長失格だって。だから一言、キミに謝りたくて……」
「あの時は周りから『救世主』とか色々言われて、つい変なスイッチが入ったと言うか……けど危なく殺しかけたわけだし、決して褒められることじゃないよ。だから気にしないでね」
以前の俺だって厄介ごとはごめんだと避けるだろうからな。
正直そのことで誰かを怨んだりはしていない。
寧ろそっとしておいてほしいと思うくらいで……。
鷲見さんは、そんな俺を上目遣いで見つめ優しい微笑を浮かべる。
「……西埜君、凄いね。本当に……すっかりキミの見方が変わっちゃったぁ♡」
頬をピンク色に染めながら言ってきた。
いったい俺の何が凄いのか謎だ。
けど今まで鷲見さんに抱いていた真面目でお堅い美人生徒会長という印象が変わったのは確かだ。
登校後、鷲見さんは寂しそうに「じゃあ、またね」と言って自分のクラスに向かった。
「……まぁ、ご主人様の素晴らしさが他の者に広まる分にはいいでしょう」
アリアは気難しい表情でぶつぶつと呟いている。
鷲見さんといる時から、ずっとこんな調子だ。
まさか焼きもち?
いやそんな筈は……。
けど、この際だ。
以前から不思議に思っていたことを聞いてみるか。
「――ずっと疑問に思っていたけど、アリアはどうして俺なんかを『主』として仕えてくれるんだい? ボスを斃せるスキル持ちだから?」
「それだけではございません。一目見た時から『この方しかいない』と確信したからであります」
「見た時だって? 最初に出会ったダンジョン?」
「ええ、正確には父上殿の動画配信の時です。あのバルサウロスに対して勇敢に立ち向かう姿……まさに理想とする勇者その者でした」
そ、そうなの?
なんだか恥ずかしい……あの時はとにかく必死だったんだ。
だから今の俺にそう称賛される資格があるのかわからない。
でも自分を変えたいという気持ちはある。
アリアの期待に応えるためにも……そのためにD班に入ったのだから。
◇◇◇
ホームルームが始まるも、藤堂はまだ来ていない。
担任より「藤堂は欠席だ」だと言われる。
そういう担任もどこか覇気がないようだ。
噂によると校長と教頭から呼び出され、何かの責任を追及されているとか。
同時に藤堂の取り巻き達も朝から職員室に呼び出され、今は死んだ魚のような目をしている。
何故か俺の方ばかりチラ見してくるけど、関係ないので無視することにした。
またクラス、いや学校内ではこんな話題で盛り上がっている。
なんでも今日、三年生と一年生で物凄い美少女二人が転校してきたらしい。
「見た? 転校してきた三年の先輩! めちゃ美人だけじゃなく胸がやばいんだよ!」
「一年生の子も小柄で超かわいいぞ! ぜってぇ芸能人だと思う!」
すっかり男子共を中心に持ち切りで、藤堂が休んだことなど蚊帳の外だ。
そんなに凄い美少女達なら、ちょっとは見てみたい気もするけど、実は俺もそれどころじゃない。
「西埜く~ん、いるぅ?」
昼休みが始まったと同時に、柏木サヤが教室に入って来る。
「また貴様か!」
アリアは席から立ち上がり威嚇する。
昨日の件から相当警戒している様子だ。
柏木さんは相変わらず動じておらず、「アリアちゃん、やっほ~!」と気さくに手を振っている。
そして真っすぐ俺に近づいてきた。
「西埜く~ん、約束だよ!
「え? お、俺……そんな約束したっけ?」
柏木さんから一方的に言って去って行ったのは覚えているけど。
「いいじゃん! 言っとくけど、あたしが男子と交換するなんて絶対にあり得ないことなんだからね!」
まるで光栄に思えと言わんばかりの口振りだ。
確かに陰キャぼっちの俺なんかが、現役のモデルである彼女と連絡先を交換するなんて本来なら絶対にあり得ない。
けど仮に交換したとして、俺にどうしろって言うんだ?
そもそもこの子とは接点なんてないわけだし……。
などと俺が戸惑っていると。
「ちょっと柏木さん! 貴女、昨日からなんなの!」
そう言ってきたのは意外にも、琴石 莉穂だ。
「……琴石ちゃん? ふ~ん、西埜くんの幼馴染だっけ? 藤堂ってクズ男からストーカーに遭っていたっていう、んで何?」
「あんな
「迷惑? そんなことないよね、西埜く~ん?」
「え? いや、そのぅ……(汗)」
「西埜は優しいからはっきり言えないのよ! それで
申し訳なさそうに俯く、琴石。
朝も鷲見さんに言ったけど、あくまで俺の問題なんだから彼女が気にする必要なんてないのに……。
柏木さんは癖なのか、また唇に人差し指を添えて「う~ん」と体を左右に揺さぶり始める。
「わかったぁ! 琴石ちゃんも西埜くんのこと好きなんだね?」
「は、はぁ!? いきなり何を……わたしなんかが」
琴石は大口を開けて戸惑いを見せている。
けど何故か満更嫌そうじゃない。
「琴石殿! そやつはそういう女ですぞ、気をつけてくだされ!」
「アリアちゃんだって、西埜くんを独り占めにしたいくらい大好きな癖に」
「ふぁわぁぁぁ! また戯けたことを!! ここで斬り捨ててくれるぅ、そこへなおれぇぇぇ!!!」
「やーだーよ。あたしラブ&ピースだもん! だったら、みんなで西埜くんを推してハーレムしちゃえばいいじゃん!」
なっ、柏木さん! キミはなんつぅーことを!
そう言うのやめてくれる!? 俺、別にハーレムなんて望んでないし!
てかなんで、ぐいぐい俺を推してくるの!?
もう今更なんっすか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます