第16話 D班メンバー

 登校してから実に平和な学校生活を送れていると思う。


 アリアが傍にいてくれるからか、藤堂達もすっかり大人しくなっている。

 時折、奴に睨まれるが今更気にする必要もない。

 以前のように絡まれ殴られなければ別になんてことはなかった。


 けど藤堂の取り巻き達は、俺に何か話しかけたがっている様子が見られる。

時折ことらに近づこうとする素振りはあるも、アリアが前に出て「ご主人様に何か用か?」と圧をかけられ連中は「いや別に……」と散って行く場面が何度かあった。

あれほど藤堂の腰巾着として一緒につるんでいたのに、今じゃ距離を置いて一言も話していないような気がする。


 クラスの連中も藤堂を関わらないよう無視している様子で、すっかり腫物として浮いた存在となっていた。


 一方で、何かと俺に話しかけようと頻繁に近づいてくる。

 みんなどうやら昨日の反田をブッ飛ばした動画を観ているようだ。

 なんでも超有名なインフルエンサー達がこぞって拡散したことで、SNSでトレンド入りしているとか。


 けど素直に喜べる内容じゃない。

 DUM機関がフォローしてくれたこともあり俺にお咎めがなかったけど、やったことは過剰防衛だからだ。

 逆にその動画があったから、俺の正当性が証明されたという捉え方もできた。



「西埜くん!」


 昼休み。

どこかの女子が教室に入ってきて、俺に話しかけてきた。

別クラスの子だが、俺は彼女のことを知っている。

何しろ有名な女子だからだ。


柏木かしわぎ サヤ。

母親が外国人のハーフで亜麻色の髪に可愛らしく整った容姿。

制服をラフに着こなす垢抜けた雰囲気を持つ。

学生でありながらモデルをしているだけあり、恵まれた抜群のスタイル。

琴石 莉穂に続く学校内トップクラスの美少女だ。


 そんな彼女が、まさか俺の苗字を呼び自ら話しかけてくるなんて……。


「なんだ其方は? 我が主に何用か?」


 アリアは俺の前に立ち、両腕を組んで柏木さんと向き合う。


「キミがアリアちゃんだね? 噂は聞いているよ。背も高いし金髪も綺麗でガチ可愛いね……アタシと一緒にモデルしない?」


「興味のない話だ。それよりご主人様に何用かと聞いている。ご主人様は朝からクラス内で応対され、お疲れになられている。お付き合い上、仕方ないと割り切ることもできるが、其方は初対面ではないか? 王族への謁見とて事前のアポイントは必然だ。無暗な接触は控えてもらおう」


 俺の思いを代弁するかのようにズバンと言ってくれる、アリア。

 凄ぇ……俺じゃ絶対に言えない台詞だ。


 しかし柏木さんは動じていない。

 柔らかそうな唇に人差し指を添えて「う~ん」と体を左右に揺さぶっている。

 

「アリアちゃんって西埜くんのこと好きなんでしょ?」


「は、はぁ!? 何を戯けたことを!」


「だってぇ、超一途そうだもん。普通、同じ年代の男子に『ご主人様』なんて言えないしょ?」


 同じ年代じゃなくても、メイド喫茶でない限り「ご主人様」と呼ばないと思う。


「こ、こ、この私がご主人様を好きだなど……そんな大それたこと、お、お、お、思う筈はないではないか! 私は円卓騎士ランスロットとしてお傍にお仕えしているだけで幸せというか……しかし異性としても……いや違う! いいや違わない、あれ? も、もう! なんなのだ、貴様はぁぁぁぁぁ!?」


 すっかり破顔し言語も支離滅裂なってしまう、アリア。

 こんな動揺を見せた彼女は初めてだ。

 まるで核心を突かれたように挙動不審ぶりを見せた。


 てかもろ円卓騎士ランスロットだとぶっちゃけている。

 いつか異界人だとバレなきゃきけどな。


 柏木さんは「ふ~ん」と面白そうに微笑を浮かべている。


「きゃは、アリアちゃんおもろー。いいよん、今日はアリアちゃんに免じて引いてあげる。んじゃ西埜くん、待たね! 今度、連絡先ID交換して!」


 嵐が去るように、彼女は手を振って教室から出て行った。


「なんて女だ……落ち着け、落ち着けぇ、私……フーッ」


 アリアは豊かな胸元に両手を添え深呼吸を繰り返している。

 ここまで彼女が取り乱すとは……あの柏木さん相当な曲者だな。

 いやただ単にアリアがちょろいだけなのか。


 けど見方によっては、アリアは俺のこと主従だけでなく異性としても慕っているように見えてしまう……まさかね。



 放課後、DUN機関の本部に行くことになる。

 また屋上からヘリに乗らされるようだ。


 けど今回は控えめの多用途ヘリコプターだった。

 まるで救助訓練さながらに自衛隊員により搭乗させられてしまう。


 それからダンジョン対策特務機関の地下本部にて。

 

「――ミユキよ。よく来たな、今日はD班メンバーの顔合わせじゃ。楽にしてくれ」


 銀髪の小さな美少女吸血鬼ことミランダ班長は、木製でアンティーク風の革製椅子に背を持たれて微笑んでいる。

 D班に所属することになった俺は、いわば彼女の部下という立場だ。

 なので、もろ呼び捨てだしタメ口でもある。

 見た目は小学生くらいなので違和感しかないけど。


 俺は促されるまま席へと座る。

 部屋にはミランダ班長と副班長の東雲さん、アリアにファティと馴染みの面子だ。


 東雲さんが「入りなさい」と指示すると、扉が開き三人の女性達が入ってきた。

 ん、三人? 二人だと聞いていたけど?


 うち二人は東雲さんと同じ自衛隊制服のスカートタイプを綺麗に着こなしている。

 にしても随分と若い。一人は俺より一学年上くらいで、もう一人は逆に年下っぽい少女。

 おまけに二人とも物凄く容姿端麗な美少女だ。


「まずはD班のメンバーを紹介する」


 ミリンダ班長の言葉を皮切りに、制服姿の女子達は姿勢を伸ばし敬礼して見せてきた。


柊木ひいらぎ 四葉よつばです。どうかよろしくお願いします」


 柊木さんは落ち着いていて優しそうな年上の美人先輩といった印象だ。

 ボリュームのある前髪をハートアップに纏め、少し目尻が垂れ下がった穏やかで優しそうな瞳。

 何より凄いのは制服越しからでも際立つ大きすぎる胸……アリアも凄いけどサイズだけなら上回っているかもしれない。


星澤ほしざわ 鈴音すずねです! よろしく!」


 星澤さんは溌剌はつらつとした爽やかな感じの子だ。

小柄で華奢なスレンダー体形、年齢も妹の瑠唯と同じくらいに見えた。

 茶色に染めた髪をサイドテールにしてシュシュでまとめている。

 くっきりと大きな二重の瞳が子猫のようで可愛らしい美少女だ。


「は、初めまして、西埜 御幸です」


 俺は椅子から立ち上がり自己紹介と共にお辞儀して見せる。


「まぁ、お互い片苦しい挨拶はそこまでじゃ。四葉と鈴音は同じD班として苦楽を共にする間柄となる。アリアとファティ同様、ダンジョン探索だけでなく様々な場面でサポートすることになるじゃろう」


「そういうことよ、御幸くん」


「よろしくね、先輩!」


「はっ、いや、うん! 四葉さん、鈴音ちゃん、よろしく!」


 親交を深めるため、これから互いに下の名前で呼び合うことにした。


「それじゃ次は私の紹介でいいかしら? 立花 恭子よ。よろしくね、救世主君」


 立花と名乗った科学者のようなドクターコートを羽織った女性が軽く会釈をしてきた。

 この中で最も艶っぽく大人びた美女だ。二十代後半くらいだろうか。

 ゆるふわウェーブのロングヘア、丸みを帯びた眼鏡の奥で切れ長の瞳を覗かせている。

艶やかな朱唇の右下にあるホクロがなんとセクシーだ。

 さらにスタイルもやばく、ぱっくりと空いたブラウスから豊満な胸の谷間を露わにしている。


「立花博士はDUN機関の研究者じゃ。見た目はいかがわしい痴女じゃが、主任を務めておる」


「正確には研究開発局技術開発部の責任者よ。あとミランダちゃん、痴女じゃないわ。モテるけどね」


「はい、よろしくお願いします」


 この人はどう見ても大人の女性だし敬語でいいだろう。

 少し癖が強そうな印象だ。

 

 そんな立花博士は俺のじっと見つめながら、色っぽく口元を上げて微笑む。


「それじゃ、御幸・ ・君。早速、服を脱いでもらっていい?」


「えっ? ふ、服を? いきなりなんですか?」


「決まっているじゃない……身体検査するのよ。体の隅々、ま・で・ね」


 な、何この急展開!?

 どゆこと!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る