第15話 藤堂の受難(ざまぁ回)
クソッ、なんでこうなるんだよ!?
調子が狂っちまう!
昨日から、藤堂 健太が苛立ち荒れていた。
ずっと雑魚だと思いバカにし、いじめてきた西埜 御幸がダンジョンのボスを斃して英雄として祀り上げられてしまったことが原因だ。
今では誰もが御幸を救世主として羨望の眼差しを向け、藤堂もファンだったDuチューバーのペコキンや鈴ちゃんも彼を推す熱狂ぶりを見せている。
自分じゃ決して到達できないであろう境地を御幸があっさりと辿り着いてしまったのだ。
しかも苛立つのはそれだけじゃない。
――アリア・ヴァルキリー。
おとぎ話に出てきそうな現実離れした金髪の美少女。
綺麗だけじゃなく、男の願望を具現化したような抜群のスタイル。
流暢な日本語を話し、おまけにやたらと強い。
この女に完膚なきまでねじ伏せられたことで、藤堂は陽キャのリア充だけじゃなく
昨日はすっかりバツが悪くなり、あれから早退するも少しずつ築き上げてきたモノが崩れていくことを実感する。
暇潰しにとセフレに連絡してみるも、
『……ケンちゃん何? 今忙しいんだけど……会いたい? 無理無理~。それよりケンちゃん、以前から西埜って人いじめているよね? ならもう会わない方がいいわ~じゃね』
なんでこのビッチから西埜が出てくるんだ?
『何よ、二度と連絡してこないでね。え? 理由? 決まっているじゃない……ケンちゃんのせいで、あたしまで巻き込まれたくないからよ。自分で何をしてきたのかわかっているでしょ? ダサい救世主イジメさん』
救世主? 西埜か!?
俺が西埜を苛めていたから関係を終わらせるってのか!?
ダサいってなんだよ、クソが!
『あっ、ケンちゃん! やっほ~、うん別れよ。いきなりなんでよって? だって好きな男子できたんだもん、キャッ♡ ん? 誰って、西埜くんだよん! 動画見たぁ、もうカッコイイよねぇ! そういやさぁ、ケンちゃんさぁ……彼をいじめているんでしょ? やばいね……んじゃ、今からブロックするから☆』
この糞ビッチまで西埜、西埜って、おい!
ちくしょう! 一方的にブロックしやがった!
『ピ――ッ、おかけになった電話番号は現在使われておりません』
有無もなく速攻で着信拒否かよぉぉぉぉぉ!!!
結局、誰も相手にされず一方的に関係を切られてしまった。
さらに翌日。
登校するも教室に入った時からクラス内の空気が可笑しかった。
以前は媚びっていた連中が自分と一切目を合わせようとしない。
特に片思いで狙っている、琴石
そして取り巻きの仲間達からも、
「ケンちゃんさぁ、もうやめないか……Duチューブ見たろ? 今の西埜は、ダンジョンのボスだけじゃなく半グレリーダーまで斃せるんだぜ」
「ガチやばいよ……俺らじゃ敵わないって」
「ネットでも西埜を苛められてんのバレてんぞ。ペコキンも動くかもしれないって……特定されるの時間の問題だろ? もうケンちゃんとは付き合いきれねーわ」
おい待てよ! 俺だけが悪いってのか!?
テメェらだって面白おかしく煽ってやがっただろーが!
さらに「今からでも西埜に謝れば、これまでのこと全てチャラは無理でもダメージの軽減くらいできるんじゃね?」と弱腰で提案してくる始末だ。
「うるせーっ! 誰が西埜なんぞに謝るかぁ!! どうして俺があんな雑魚に頭下げなきゃならねーんだぁぁぁぁぁああ!!!」
藤堂は断固拒否した。
それから取り巻き達ともギクシャクした感じとなり距離を置かれるようになる。
すると、いきなり教室内がざわついた。
西埜 御幸が入ってきたからだ。
彼の後ろには例のアリアがボディーガードの如く付き添っている。
その光景は藤堂から見ても眩しく、同時に嫉妬と屈辱感が沸き上がるほどだ。
(西埜の糞が、すっかりイキりやがって!)
周囲から「昨夜の動画はやばかった」だの「カッコイイ~」など羨望の眼差しで見られているにもかかわらず、御幸の意に介さない態度に苛立ちを覚えた。
当の本人はただ単に、掌を返したクラスメイト達の反応に戸惑い黙りを決め込んでいるだけなのだが。
さらに片思い中の莉穂まで御幸を見つめる瞳が変わっている。
明らかに好意を抱く眼差しだ。
(やめろ莉穂! そんな目で西埜を見るんじゃねぇ!! 西埜めぇぇぇぇ!!!)
藤堂は激情に駆られ憎悪を燃やし始める。
だがここで、暴力で訴えるわけにはいかない。
以前と異なり周囲はすっかり御幸の味方だ。
これまでのノリで何か仕掛けるのであれば確実に非難を受ける。もう教師とて見てみぬ振りはしないだろう。
それにきっとアリアがしゃしゃり出て封殺されるに違いない。
今度は絶対に病院送りだ。
(さらに……西埜。ダンジョンのボスを一瞬でキルし、あの反田さんも殺されかけたとか)
藤堂は嘗て落ちぶれる以前のSランク
素手で挑んでも、きっと返り討ちに遭うのは確実だ。
辛うじてその冷静さだけは残っていた。
そして昼休み。
ある男から連絡を受けた。
『――やぁ、ケン。元気にしているかい?』
どこか気取ったような口調。
「ユウヤ……何の用だ?」
連絡相手は、
同い年の男子高生であり普段は名門高校、聖雲学園に通っている。
成績だけでなく、
その爽やかなルックスと振る舞いから、『王子勇者』と呼ばれギルドマスターからも一目置かれていた。
だが決して性格が良いとは言えない男。
寧ろ藤堂と同じように弱者を見下すタイプだ。
しかも相当な遊び人でセフレも自分より多数いる。
そして似た者キャラだからだろうか。
自分よりランク下の藤堂をライバル視しては何かと絡んできた。
『ははは、つれないね~。まぁ無理もないか。あんなバカな真似をしてきたんだからねぇ』
天河の言いたいことはわかっている。
どうせ西埜の件だろ? と思った。
反面、もうネットで特定されているのかと胸騒ぎする。
「……うるせーっ。お前に関係ねーだろうが。わざわざそんな事を言いに連絡してきたのか?」
『フン、こっちも忙しい中、同じギルドのよしみで教えてあげようと親切に連絡してんだよ――ギルドマスターがキミと話があるとさ』
瞬間、藤堂の心臓が重く波を打った。
「ギ、ギルドマスター……昌斗さんが? な、なんで」
『とぼけんな。反田の件、知ってるだろ? 奴が絡み拉致しようとした子、ギルドマスターの妹で僕の大切な幼馴染である『早織』だ。たまたま救世主君が助けてくれたから事なきことを得たけど、そのことでギルドマスター、いや昌斗さんは彼に恩を感じている。早織だって同じさ。んで調べたら、救世主君は学校で酷い苛めを受けているって話じゃないか? んで、加害者の首謀者ってのが……』
「な、何が言いてぇんだ? コラァ」
『そっ。ケン、キミのことだよ。けど安心したまえ、まだネットでは特定されてないみたいだ。昌斗さんはその前にキミと話をつけたいと思っている。首謀者がキミだと判明すれば、きっと非難の目は【
なんだと? あの昌斗さんまで……。
クソッタレがぁ……どいつもこいつ西埜を持ち上げやがってぇ!
『どのような話になるかはわからないけど、同じギルドメンバーとして皆が迷惑しているよ。潔く辞めてくれるなら、それはそれで結構。そのための連絡さ。じゃあ、ごきげんよう――』
こして天河から一方的に切られてしまう。
藤堂が呆然とする中、ブルッとスマホが鳴った。
画面に表示された内容を見た瞬間、血の気が引き青ざめる。
「う、わっ……昌斗さん」
>ケン
お前に話がある
学校が終わったらギルド本部に来い
それはギルドマスター不破 昌斗からの呼び出しメールだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます