第12話 救世主の決断
お世辞にも広いとはいえない居間に、ちょこんと座っている銀髪の美少女吸血鬼ことミリンダ。
彼女の傍には東雲 楓さんとアリア、それにファティが佇んでいる。
ちゃぶ台越しの向かい側には、親父の丈司が縮こまり何故か正座していた。
なんだか圧迫面接のような絵面だ。
「ど、どうしてDUN機関の……D班の皆さんが俺の家にいるの?」
「汝を待っておったのじゃ、理由は父上殿に伝えておる」
「御幸……お前、
「そうだけど、人助けのためというか……まぁ、やりすぎちゃったとは思っているよ、うん」
「別に汝を咎めているわけではない。寧ろ見込んだどおりの男じゃと褒め称えていたくらいじゃ、そこは安心してほしい」
「じゃどうして、みんな揃っているんです? 一般人に手を上げた、俺を処分するとかじゃないんですか?」
「この私がいる限り、我が主にそんなことは断じてさせません! どうかご安心ください!」
「そのとおりです! ミユキ様に手を出すのであれば、わたくしがこの忌まわしき吸血鬼を浄化させてみせましょう!」
アリアとファティが物凄い剣幕で俺を庇ってくれる。
特にファティはもろ上官である筈のミランダをキルすると宣言していた。
二人の暴走ぶりに、東雲さんは強く咳払いをして「貴女達は話を拗らせるだけなので黙ってください」と窘め、アリアとファティは「すみません……」と縮こまっている。
「処分などせん。そもそも、妾達は非公式の組織じゃからな。わざわざ自宅まで押し入ったのは、この度の事を踏まえてお父上殿を通して汝と相談したかったからじゃ。交渉の場と思っても良いぞ。とりあえず座って話をしようぞ」
「交渉ですか……」
ミランダに促され、俺は親父の隣に座り込む。
相変わらず違和感を覚えてしまう班長だ。
見た目は可憐な西洋人形のような女の子なのに、やたら言葉に威厳が込められている。
魔王の娘としてのカリスマ性というやつか?
まずは東雲さんから事の経緯と概要が説明された。
アリアと別れた後、D班はずっと俺の行動を監視していたようだ。
詳しい手段は教えてくれなかったが、口振りからしてドローンじゃないかと思っている。
そこで、早織さんが半グレの
通常なら反田は即死となるが、俺が加減を試みたことにより九割殺しで抑えることができたようだ。
しかし瀕死には変わりなく、救急搬送されたとしても治療が間に合わず死が確定した状態であったと言う。
そこで
「反田という者は無事に命を繋ぎましたが、一般の病院ではなくDUN機関が関連する場所で治療を受けております」
「あのクズはこれまでに多くの余罪があるようじゃからのぅ。動けるようになれば警察に引き渡す予定じゃ」
なんでもファティの回復魔法なら全快まで可能だったが、反田にそこまでする必要はないと辛うじて生かす程度で留めたらしい。
「……そうでしたか。とりあえず人殺しにならなくて良かったです。フォローありがとうございます」
俺は深々と頭を下げて見せる。
彼女達の様子からスキルで殴った件は咎められないようだ。
「まぁ仮に殺めてしまっても気にすることはない。調べる限り吐き気のする自業自得のクズじゃからな。寧ろ社会貢献じゃ」
「それに政府もあんな反社者如きで、救世主となる西埜君を罰することはないでしょう。それこそ我らDUN機関が総力を挙げて隠蔽と情報操作を駆使し不問に致すところです」
なんだか物騒なこと言っているな。
その気になれば法も無視できるって意味じゃないか……やべぇ。
だから防衛省と繋がっていても表沙汰にしない非公式の組織なのか。
「っとまぁ、ここまでが事のあらましというところじゃ。本題はここからとなる」
「……本題ですか?」
「うむ、ミユキ殿も既に理解している筈じゃ。《
ミリンダの問いに、俺は率直に頷いた。
影でD班のサポートがなければ、もっと事態は大変なことになっていたのだから。
「班長さんを始め、フォローしてもらった皆さんには感謝しております」
「うむ、我らのことはよい。これも任務じゃからな。それよりもじゃ、汝の《
「はい――まず一つは威力が絶大すぎるため、人間相手ではこの度のような事態を犯しかねないということ。もう一つはボス以外の相手では西埜君は普通の高校生と変わりないという点です」
「つまりじゃ。あの時、リーダーの反田が自らしゃしゃり出たから、奴だけをブチのめすことで事は収まったようなものじゃ。仮にそれ以外の三下相手では、ミユキ殿は今頃袋叩きにあっていたじゃろうな」
「そんなこと、この私がさせません! すっ飛んでそのような輩など成敗してみせましょうぞ!」
「アリア。貴女、その頃は輸送ヘリの中じゃありませんか? 空でも飛べるんですか?」
豪語するアリアの隣でファティは呆れ顔で指摘する。
異世界では幼馴染というだけあり、この二人は仲が良く微笑ましく見える。
けど笑いごとじゃない。
現にゴブリン相手でも斃し切れず危なく反撃を受けそうになったからな。
「……ミランダ班長さんの仰るとおりです、はい」
「そこでじゃ、やはりミユキ殿にはD班に入ってほしい。理由は本部で説明した政府の思惑もあるがそれだけではないぞ。ミユキ殿の身を我らが守りやすくするためと、汝自身が
「……俺が強く成長するため?」
「うむ、我らD班だけでなくDUN機関が総力を挙げその支援を行うと約束しよう。とにかく我らと繋がりを持ってほしいのじゃ。無論、仮契約でも構わん。ちなみに父上殿には了承を得られておる」
「親父が?」
「御幸よ……父さんは嬉しいぞ。将来的には年収とかメジャリーガー以上にヤバイそうじゃないか……よぉっ! 西埜家の大
強欲親父め!
ほぼ金のことしか頭にないじゃねーか!
あと借金は自分で返せよな!
でも決して悪い話じゃない。
特に
正直、偶然得たスキルでこのまま流されていくのは何か違うと引っかかっていた。
けど俺自身が強くなるためのサポートや支援なら是非に受けたい。
本物のリア充である昌斗さんと出会い、ああいう生き方に俺は憧れてしまった。
そして二度と藤堂みたいな奴に苛められないため、自分に自信を持てるようになって陰キャぼっち生活を脱却したい。
スキルの力に振り回されることなく、自分のモノとしてコントロールできるくらい強くなりたいんだ。
そのためのギブアンドテイクなら断る理由もないだろう。
俺がぐっと拳を握り締める。
力強くまっすぐな眼差しで、ミランダ班長とアリア達を見据えた。
「――やります! こんな俺でよければD班に入れてください!」
俺の返答に、みんなは「おお~っ!」と声を漏らし拍手してくれた。
特に親父は「よく言った、息子よ!」と感涙している。
この男は金のことしか言わねーから、ぶっちゃけ不信感しかない。
かくして俺はダンジョン対策特務機関・D班に所属することになった。
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