第13話 またバズったようです
「――ではミユキ殿。後日連絡するので、また本部に来てほしい。今度はDUN機関の案内と汝をサポートする
ミランダ班長はすくっと立ち上がる。何故かやたらと「美女」を強調してきた。
全員女性がいいなんて一言も言った覚えがないのに、すっかりハーレム好き扱いだ。
「ではアリア、後のことは頼むぞ」
「あいわかった班長」
何故かアリアだけ残し、他のD班メンバーが撤収していく。
「アリアは戻らないの?」
「はい。私は今日から、四六時中ご主人様に仕えるため、ここに住むことになっております」
「なんだって!?」
「本部でも話したじゃろ? アリアは仕えるべき主の傍にいることが認められておると……もう煮るなり焼くなり好きにして良いぞい」
ミランダ班長は意味ありげな言葉を残し、バタンとドアを閉めて去って行った。
「煮るなり焼くなりって……何言ってんだか、なぁ親父?」
「まぁ、そう言うな。家主の父さんもいいよって認めたからな……それにアリアちゃんの分の生活費もたんまりと貰えたし」
やっぱ金かよ、クソ親父ッ!
俺だってもろ年頃の青少年なんだけど!
それに……。
「このアパート、2DKだろ? 二部屋しかないのにアリアは何処で寝ろってんだ? 居間に布団でも敷くつもりか?」
我が西埜家の内部事情を説明すると、親父は畳5畳部屋に一人で寝ており(狭く、おまけに加齢臭あり)、俺と瑠唯が6畳部屋をカーテンで区切って共有している。
「当面の間、アリアさんは私と一緒に寝る予定だよ。流石にお兄ちゃんや
瑠唯まで説明してくる。いつの間にそんな話が進んでいるんだ?
ちなみに妹は反抗期なので親父を「父さん」とは呼ばない。
「けど狭いじゃん……アリア、寝返りもままならないけど大丈夫か?」
「ご安心ください、ご主人様! あちらの世界でも如何に危険な魔境だろうと野宿した経験がございます! ここも同様と思えばなんてことはありますまい!」
「失礼ね! ボロっちいけど、ちゃんとしたお
瑠唯がツッコミ、アリアは「これは申し訳ない」と頭を下げて見せている。
実は天然な
「アリアちゃん、少しの間だけ辛抱してくれ。近いうちに引っ越すからね……ミランダさんにいい物件紹介してもらったんだ」
「まさか家を買う気じゃないだろうな、親父?」
「ああ、そのまさかだ。まぁ中古物件だけどな。『オヤジちゃんねる』も登録者数100万人越えして今も爆上がりだし、ペコキンさんも動画を提供する代わりに推してくれている。それに今後は、御幸を含めD班の子達とダンジョン探索をコラボする予定だからな。再生回数もうなぎ上り確実だろう」
マジかよ……ちゃっかり親父もあやかっているな。
そうか、昨日連絡を受けていた「――キンさん」ってペコキンさんだったのか。
おまけに人気Duチューバーの鈴ちゃんまで、俺を推してくれているんだっけ。
凄ぇ……なんだか怒涛の如く環境が変わってきたぞ。
けどその分、俺も頑張って変わっていかないとな。
そのためにD班に入ることを決意したんだ。
◇◇◇
翌日。
俺はアリアと二人で登校する。
夜中は妹越しとはいえ、すぐ傍で彼女が寝ていると思うとドキドキして眠れなかった。
また意識してしまうほど、ミリンダ班長が言っていた「煮るなり焼くなり」って言葉が脳裏に過るもんだから余計だ。
精神的にも早く引っ越したい……やっぱり俺も一人の男なんだなっとつくづく実感した。
「――そうそう、今日はご主人様に紹介したい者達がございます。放課後、本部に立ち寄ってもよろしいですか?」
「紹介したい人? D班のメンバーかい? 他にもアリアのような異界人がいるとか?」
「いえ、その者達は副班長(東城)と同様にこの世界の者達です。二人とも相当なレアスキル持ちには変わりませんが……」
二人か。D班ってことは女性だな。
粒ぞろいの美女ばかりという言葉に、心なしか期待が高まってしまうのは何故だろう?
「わかった。楽しみにしておくよ」
そう笑みを浮かべながら周囲を見渡す。
やっぱり通行人が、さっきからこちらをチラ見している。
学生からサラリーマン、主婦に至るまでひそひそと呟いている様子だ。
時折、スマホで勝手に撮られるなどあまりマナーが良くない。
まぁ通り過ぎる多くの女子生徒から「やばっ、カッコいい」とか「超イケてる」とか、明らかに陰キャぼっちの俺にそぐわないワードが聞かれている。
(そうか、みんなアリアに注目しているのか。まぁ日本人離れした金髪美少女だからな)
それなら仕方ないと割り切ることにした。
するとスマホの着信音が鳴る。
瑠唯からだ。
>お兄ちゃん。
昨日、女の子を助けて半グレリーダーをブッ飛ばした動画がネットで流れているよ!
「なんだって!?」
瑠唯からのメールによると、野次馬の誰かがこっそり一部始終を動画に収めていたらしい。
その内容がネットでアップされ、バズっているそうだ。
しかし被害者の早織さんを助けもしないで動画撮影してやがったのかよ……ムカつくなぁ、そいつ。
「おはようございます、西埜先輩!」
「昨日は超カッコよかったです!」
「私、すっかり先輩のファンになりました!」
駆け足で近づく、同じ制服を着た一年生っぽい女子ら数名が声をかけてくる。
「……あっ、いや、そのぅ」
基本コミュ障だから初対面相手では後輩だろうと上手く言葉が出てこない。
それでも女子達は「キャーッかわいい!」とか「返事してもらえた!」とはしゃいでいる。
最後は握手を求められ、仕方なく応じると「ありがとうございます!」と喜んで去って行った。
「……な、なんだかなぁ。俺としてはやりすぎたと反省しているのに」
危なく反田をキルしそうになったからな。
D班のフォローがなければ今頃どうなっていたことやら。
「しかし、ご主人様が人助けしたことには変わりありません。このアリア、お仕えする身として誇りに思いますぞ」
「そ、そぉ? まぁアリアがそう言ってくれるなら、そう思うかな……」
彼女が傍にいてくれて助かる。
一緒にいてくれるだけで自信がつき、誇らしく思えるからだ。
そからも通行人にチラ見されたり、声をかけられたりする。
いい加減、遅刻しそうなので、アリアから「遅刻します故、失礼」と厳粛な態度で対応してくれた。
うん、めちゃ有能。
なんとか学校に着き教室に入る。
「……くっ、西埜め」
藤堂が教室の隅っこで顔を顰めながら悔しそうに何か呟いている。
アリアの前だからか、いつもは取り巻き達とギャーギャー騒いで俺に絡んでくるのにその気配はない。
その取り巻き達も「……やべ」と俺を見るや言葉を漏らし視線を反らす。
何やら藤堂から距離を置いている。
そんな藤堂達をクラスメイト達は無視し、「おお、西埜君だ」と好意的な眼差しを向けていた。
これまで俺を散々いじめて嘲笑い、幅を利かせイキっていた連中がすっかり鳴りを潜めている。
いや寧ろクラスから浮き孤立している雰囲気だ。
(まぁ、どうでもいいや)
自分の学校生活が脅かされなければいいだろうと割り切り、俺は席へと座った。
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