第3話 謎の特殊スキル

:ファッ! いったい何が起こった!?

:ボスを一撃って嘘だろ!?

:ぽかーん( ゚Д゚)

:バルサウロス実はめちゃ雑魚だった件w

:ワンパンキル草生える

:いやいやいや! バルサウロスが弱いわけないじゃん!

:お前ら以前戦った【不滅の疾風エターナル・ゲイル】の末路知らねーのか!? Sランクの探索者シーカー達ですら傷一つ負わせられないままボロ雑巾のぐちゃぐちゃだぞ!

:最後は美味しく頂きましたw

:どうせ合成だろ。流石にありえんわ

:お邪魔します。めちゃ大変なことになっていますね

:「史上初のボス殺し」ってトレンド入りしています!

:凄ッ!

:どうなってんの!?



 なんだか雪崩れ込むようにコメントが殺到している。

 俺もついテンションが上がって「よわっ」とか言っちゃったけど、実際はとんでもないバケモノだったと思う。

 てか今更になって両膝が震えてきたんだけど……。


 目の前には菫青色アオハライトに輝く大きくな鉱石が地面に突き刺さっている。

 モンスターの生命源であり、心臓とも言える『魔核石コア』だ。

 つまり俺が斃したボス、バルサウロスの残骸であった。

 通常の低級モンスターなら小石サイズかせいぜい掌に収まる程度だが、やはりボスだけありかなりの大きさだ。

 小石程度でも数万単位で換金できるからな。

 あれほどのサイズだと百万、いや一千万円以上になるんじゃないだろうか。

 けども俺一人じゃとても回収できる代物じゃない。

 力自慢の親父なら担げるかもしれないが。


「あっ思い出したわ。親父、大丈夫か!?」


「う……うっぐ、み、御幸……無事なのか? バルサウロスはどうした? 借金は返したのか?」


「見てのとおり無傷だよ。ボスは俺が斃した。あと借金は親父が自分で返せよ!」


「はっ? バルサウロスを斃したって……お前、何言ってんの?」


 親父こと丈司は痛みを忘れたかのように起き上がる。

 突き刺さっている『魔核石コア』を見て呆然とした。


「……嘘やん。ガチですやん。てか息子よ、何したの?」


「ん? 殴ったよ、そしたらワンパンで崩れて砕け散ったんだ」


「バ、バカを言うな! 冗談は顔だけにしろよ!」


 悪かったな。

 てかソース顔のくどいあんたに似ず、さっぱり系の平凡モブ顔で良かったと思ってるよ。


 頭に来たのでドローンをスマホにリンクさせ、アーカイブした動画を見せてみる。


「うわぁ、本当じゃねーか! しかもこれ、スキルじゃないのか!?」


「スキル? 俺が?」


 ダンジョンが出現したことが影響だろうか。

 稀に探索者シーカーの間でそういった特殊能力に目覚める者がいるらしい。

 勿論、地上に持ち込んではいけない力なので大抵は所属するギルドで厳重に管理され、ソロの場合は市役所が定期的に訪問するなど徹底されている。


「そういや頭の中に声が聞こえたんだ……力を継承するとか。ああ、思い出したぞ、確か《支配者破壊ボスブレイク》というスキルだ」


「ボスブレイク? 知らんスキルだ……大抵のスキルは身体能力フィジカル強化だったり、攻撃力アップだったり、あるいはバフやデバフの付与や効果くらいなもんだ。無論、どれもダンジョンのボス相手に通じるスキルじゃない。そもそも人間じゃ屠れない相手だ」


 けど俺はできた。

 しかもワンパンで……ひょっとして、とんでもない力に目覚めたのか?

 いや、目覚めたんじゃない。貰ったんだ。

 あの頭に響いた声の主から……いったい誰なんだろう? 

 

 いくら考えても思い当たらないので、「とりあえずここから出よう」と親父を立たせようとするも痛みが強いようで上手く立ち上がれない。

 やはり肋骨や腕などの骨にビビが入っている様子だ。


 支援役サポーターの俺は鞄から緊急用の医療セットを取り出し、応急処置を行う。

 麻酔薬により痛みは和らぎ、なんとか歩けるまで回復した。


「う~っ……御幸、あの『魔核石コア』、なんとかして持って帰れないか?」


「無茶言うなよ。親父に肩を貸した状態であんな大きいモン担げるわけがないだろ? それより、これを見てくれよ! 『オヤジちゃんねる』の同時接続同接数が10万人を突破して今も増え続けているんだ! チャンネル登録者数も5万人に達しているんだよ!」


「なんだって!? おおっ、ガチバズりじゃん! でかしたぞ、息子ぉぉぉ!!!」


 親父はタブレットを取り上げ、爆速を続ける数字にテンションを上げ大喜びだ。

 同接される分、広告収入も得られるからな。

 借金まみれの我が家にとってこれ以上の喜びはないだろう。



 ボス部屋を出て上層を目指して歩き出した。

 ここは深層、きっと強力な上級モンスターがいるに違いない。

 閃光弾はまだ残っているし、煙幕スモーク弾やモンスターよけスプレーもある。

 万一は俺のスキルもあるし、なんとか乗り切れそうだ。


 そう心配したけど杞憂だった。

 深層と下層にはモンスターは現れないどころか気配すらない。

 これもボスを斃した影響だろうか。


「御幸……あそこの鉱石も超貴重なんだよ。どれも高く売れるってのに……クソォ!」


 親父こと丈司は恨めしそうに周囲を見渡しながら呟き、俺に支えられながら歩いている。

 結構、重症のくせに現金な男だと思った。


 中層に入り、不意にモンスターと遭遇する。

 緑色の肌をしたやせ細った小鬼、ゴブリンだ。

 しかも集団性だからか10体はいる。


 本来なら上層に出現する低モンスターだ。

 こうして中層で現れることはあり得ない。

 やっぱり俺がボスを斃したから?


 ゴブリン達は洞窟の通路を塞ぐ形で隊列を組み始める。

 各々の手には錆びれた小剣が握られていた。


「……これじゃ後方に逃げられても前には進めない状況か」


 別ルートまで迂回する方法があるけど、早く親父を病院に連れて行かなきゃいけない。

 あまり時間をかけたくない。

 それに相手はゴブリンだ。

 数が多いとはいえ、ボスのバルサウロスに比べりゃなんてことはない。

 今の俺なら素手だろうと……。


「親父、ここで待っていてくれ。俺が戦う!」



:おっ!

:おっ!

:おっ!

:息子が戦うんか?

:やれやれ

:また華麗なワンパンキルを見せてくれ

:ゴブリン如き超余裕!



 視聴者も盛り上がっている。

 ここは期待に応えよう。


 俺は親父から離れ突撃する。

 真ん中のゴブリンが「ホォーク!」と雄叫びを上げて向かってきた。

 勿論ここは先手必勝だ。


「くらえ――《支配者破壊ボスブレイク》!」


 速攻でブン殴った。

 ゴブリンは「ブギャ!」と悲鳴を上げ倒れる。


 けど、あれ? 何か可笑しいぞ。

 どうして体がバラバラに崩れない?

 針を刺した水風船みたいに弾け飛ばないんだ?


 俺が殴ったゴブリンはむくっと起き上がり、恨めしそうにこちらを睨みつけている。


「こ、こいつ生きているぞ!? まさかスキルの不発!?」



:生きてるやん

:普通にダメージ受けただけ草

:ボス戦はラッキーパンチかよ

:ゴブリンさん、バルサウロスより強かった件www

:んなワケあるか。舐めとんのか?

:息子、本気だせ

:優しさ捨てなきゃあかん!

:イキってたのに残念

:スキル持ちの元探索者シーカーです。特殊なスキルほど発動条件がある筈です。おそらく条件を満たしてないのでは?

:解説あざーす。納得したわ

:乙

:てことは息子ピンチじゃんw



 スキル発動条件?

 それが満たせないとスキルが使えないってことなのか?

 いったいなんなんだよ!


 ゴブリン達が唸り声を上げて近づいてくる。

 やばい……これってリンチに遭うパターンだ。

 俺は撃退用スプレーを手に持ち身構える。

 これで斃せてもせいぜい3体くらい……残りはどうするか。


 そう思った時だ。


「グベェ!」


「ギャァァァ!」


 ゴブリン達の首と胴体が次々と宙を舞った。

 最後の1体が真っ二つに引き裂かれ、その先には人影が佇んでいる。


 身の丈程の大剣を手にした黄金色髪の美少女剣士。


「――大丈夫ですか、救世主様」


 凛とした声と共に少女は微笑を浮かべた。

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