第4話 美少女達の告白

 その少女はあまりにも美しかった。

 長い黄金色の髪と同色の瞳を持ち、真っ白な艶肌。

 神秘的で大人びた美貌は女神様のようだ。


 体に密着した鎧を纏っているが、浮き彫りになっている曲線から豊満な胸と引き締まったウエストと抜群のスタイルの良さが伺える。

 明らかに日本人離れした幻想的な美少女剣士だった。


 けどあんなに細い両腕で、重そうな巨剣を軽々と扱っていたよな?

 それに俺のこと「救世主」と呼んでいた。


「あ、ありがとうございます。貴女は?」


「私はアリア・ヴァルキリー。どうかアリアとお呼びください」


 アリアと名乗った美少女は俺に近づくや否や、その場で跪き深々と頭を下げてみせた。


「な、何を!?」


「騎士としての礼節でございます。我が主よ、貴方様に永久の忠誠を誓いましょう――」


 主? 今、俺のこと主って言ったよな!?

 しかも永久の忠誠を誓うって……え?

 なんで? どうして? まだ出会ってから数十秒しか経ってないのに!?

 年齢も俺と変わらなそうだけど、ひょっとして痛い子なのか?


「どうか頭を上げてください、アリアさん! とりあえず助けてくれてありがとございます!」


「いえ、騎士として当然のことをしたまでのこと。間に合ってよかったです」


 アリアは立ち上がり優しい微笑を浮かべている。

 やばい……綺麗すぎて直視できない。

 見た目と名前からして外国の子か、日本語めちゃ上手だけど。


「アリアさんはどうしてこのダンジョンに? 俺達のことはネットで知ったんですか?」


「私にさん付けと敬語は不要です。少し違いますが、正確には任務が故です」


「任務?」


「ええ貴方様親子を無事に地上までお送りするための。もうじき仲間も駆けつけることでしょう」



:いきなり美少女探索者シーカーの登場ッ!

:めちゃかわいいてか綺麗っす!

:いや探索者シーカー違わね? 見たことのない装備だぞ

:すくなくても政府公認の装備じゃない。ギルドで支給されたモノじゃない

:ソロか? あの大剣も探索者シーカー向きじゃないよね?

:今流行りのコスプレ系Duチューバーじゃね?

:いいじゃん! かわいければなんでもあり!

:どこのチャンネルの子だろ? 登録したい

:アリアたん、よろ~



 コメントをチラ見する限り、誰もアリアのことを知らないらしい。

 ギルドに所属しているわけじゃないようだし、親父のようにソロ探索者シーカーという線も薄い感じか。

 まるでイレギュラー扱いだ。


「もう、アリアったら! そんなに急いだら追いつけないじゃありませんか!」


 遠くから別の女の子が走ってくる。

 青色のシスター服こと修道服スカプラリオに身を包んだ少女だ。

 肩まで伸びた薄紫色の髪に碧色の瞳が特徴な、清楚系の可愛らしくて綺麗な聖女。

 その容貌からして、この子も相当日本人離れしている。


「すまない、ファティ。だが其方のペースに合わせていたら間に合うものも間に合わないと判断したまでだ」


「まぁ確かに神聖官クレリックのわたくしでは、円卓騎士ランスロットである貴女の脚力には到底追いつけませんが……っと、そのお方は?」


「ああ、このお方こそ班長・ ・が申された我らの救世主様だ」


 アリアから自己紹介を受けると、ファティと呼ばれた聖女は「まぁ!」と明るい表情を浮かべてささっと乱れた身形を整え始める。

 そしてアリア同様に跪き、まるで神に祈るかのように両手を組む。


「初めまして救世主様。わたくしは神聖官クレリックのファティ・フォセリアと申します。どうか、お見知りおきを」


「うん、ああ……西埜 御幸です。どうかかしこまらないでください。ファティさんまで、どうして俺のこと救世主と呼ぶの?」


「ファティで結構です。そう言い伝えがあるからです。唯一、絶対無比の邪悪なる頭目を打ち滅ぼす力を宿す英雄であると……わたくしは神に仕える神聖官クレリックとして、そのお方に身も心も捧げることを務めとしております」


「え?」


 今なんと!? 身も心もって……まさか。

 こんなかわいい子が陰キャぼっちの俺なんかと!?


「んん! ご主人様、こやつの戯言なら気になさらないでください。あくまで幼き頃に抱いていた夢物語を申しているだけのこと。そのような教義などございません」


 アリアはわざとらしく咳払いをしながら教えてくる。

 いつの間にか俺のこと「ご主人様」と呼ばれているんですけど。



:ファティたんもカワユス

:シスター服ええなぁ

:おいらも聖女に身も心も捧げられたい

:アリアたんにご主人様と呼ばれたい件

:息子、いきなりモテはじめるw

:コノヤロー羨ましいじゃねーか!

:ハーレムかよ

:よし今すぐ代わってやろう!

:草

:てかこの子達は何者なの?

:謎の美少女天使降臨!

:そういえば、息子のスキルについて何か知っているっぽいぞ

:アリアたんの話からして、どっかの組織に属しているのかな?



 羨望する視聴者と疑念する視聴者。

 妙に慕われるあまり、つい流されそうになったけど、いったい何者なんだ?


「アリアとファティさんは、どこかのギルドに所属しているの?」


「いえ民間では……私達からは申してはいけないと言われておりますので、また日を改めてお教えいたしましょう」


「それより、お父上様に《治癒ヒール》を施しましょう。そのために、わたくしが派遣されたのですから」


 ファティは親父に近づき手を翳し始めた。

 すると掌がほんのりと光り、丈司の体へと粒子が降り注ぐ。


「おおっ、すっかり痛みが消失したぞ! もう何ともないわい! サンキュ、姉ちゃん!」


 ふらふらだった親父がいきなり飛び跳ねて両腕をぶんぶんと振り回している。

 まさか速効で完治したのか?


「今のはスキル?」


「いえ、回復魔法です。ファティは神聖官クレリックであると同時に有能な回復術士ヒーラーでもありますので」


 魔法だって!?

 まさか……いったい何者なんだ、この子達!?


 それから俺と親父はアリアとファティの護衛の下、無事に地上に出ることができた。

 ダンジョンの入り口付近には普段に増して厳重体制となっており、普段見られない自衛隊が警備している物々しい雰囲気だ。

 しかもバリゲートの遠くから多くのマスコミと野次馬が囲っている。


 俺と親父は何故かパトカーに乗せられてしまう。

 そのままアパートまで送ってくれるらしい。


「それではご主人様、私達はこれにて失礼します。近日中にお会いいたしましょう」


「ミユキ様、次こそゆっくりとお話いたしましょうね」


「う、うん……本当にありがとう。もう感謝しきれないよ」


 こうして彼女達と別れ、家路へと向かう。

 不思議な子達だ。てか結局何者なのかわからずじまいだ。


 特に、アリア。凛として力強く綺麗な子だった。

 跪かれた時はガチで焦った。まるで告白を受けているみたいだったから。


「まさかな……」


 そう思いタブレットを確認する。

 気がつけば今回の生配信で同接が最高1000万人を突破し、また『オヤジちゃんねる』の登録者人数が100万人となる大盛況ぶりの祭り状態となっていた。


 おいおい、マジかよ……。

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