やまびこ

 それほどきつくはない傾斜の道だった。しかし今日は汗が滝のように流れていた。こまめな水分補給を心掛けているにもかかわらず口の渇きが収まらず、ペットボトルのふたを回す手がしびれたように震えている。

 見晴らしのいい山のてっぺんに人の気配がないことは、普段であれば喜ばしいことだが、今日のそれは絶望だった。

 山頂へたどり着くと私は、向かいの山の方へと大きく叫んだ。すると、「助けてくださーい!!」という私の声にあわせて「タスケテクダサーイ」とどこか人をあざ笑うかのような声のやまびこが返ってきた。

「助けてくださーい!!」

「タスケテクダサーイ!」

「追われています!」

「オワレテイマース!」

「何か、得体のしれない」

「ナニカ、エタイノッ」

「人でない何かに追われているんです!」

「……? 、……!!」

「熊のような胴体をしていて!」

「……」

「顔がそのまま」

「  」

「口になっている」


「化け物みたいなものに追われているんです!」


 風の音が聞こえなくなり内側から半分になる音が聞こえた。



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