風船

 学校からの帰り道の住宅街の中にある小さな公園で見たことがない人が地面に置いた木の板の上で片手に風船を持って、変わった靴でカンッ、カンッという音をさせながら踊っていた。

 興味本意で踊っているそばに近づいてみたところ、その人はこちらに気づいたようで、動きを止めて板から降りると自分の方へと歩いてきた。

 そして、しゃがんでこちらに目線を合わせてきたと思えば、その人が持っていた風船に繋がる糸を僕の手の周りでくるくると回して結び付けた。その後、僕の手を包むようにして手を閉じさせて、「はなさないでね」といってきて、「それ、あげるから」と続けた。

 手が風船の紐に絞められるのを感じながら、しばらく風船を眺めていると、「また明日会おう」とそう告げられて、僕はそのまま、「じゃあね」いう声に見送られて家に帰った。

 家に帰って風船のことを尋ねられると、公園で風船の人にもらったと答えた。そのまま風船は、二階にある自分の部屋に浮かべておいた。天井に張り付いた風船は、外で見た時より大きく見えた。


 翌朝、朝食をとって学校へ行った。学校の友達に昨日見た人の事を話した。みんなはそんな人見てないっていうので、放課後にみんなで公園に行くことになった。


 公園には誰もいなかった。


 残念なような、寂しいような気持ちで、頭の中が何故か空っぽになったみたいな気持ちがして、そのまま家までまっすぐ走って帰った。ドアを開けて玄関の中に入ってすぐに母さんが、「あんた、あの風船誰にもらったの? なんであんな大きさになっているの?」と、尋ねてきた。

「だから、風船の人だよ、顔が風船の」と答えたその瞬間、パァンとけたたましい破裂音がして、開けっ放しになっていた玄関のドアの外側に急に赤色のゴムのようなものが現われて玄関を防ぐように張り付いた。

 こちらにきた母さんがそれ押すと、腕が肘までそこに入って、そこで母さんの腕は弾き返された。背中を震わせながら、母さんは靴を履いたままの僕を連れて、勝手口を目指した。そこでもやはり赤色のゴムのようなものがガラスの外に張り付いていた。

 庭に面した居間に入ると、天井から昨日公園で聞いたのと同じカンッ、カンッという音がして、そこから次第に足音のする回数が増えていき、昨日聞いたのと同じリズムの足音が響き渡り、やがてそれは激しくなってゆき、「ヨシッ!!」という掛け声の後、ダダン! と跳び下りてきたような音を響かせ、しばらく続く無音の中で、「……、コロソッ」という呟き声がしてきた。

 それから二階からの足音は、静かで、抑圧的な、一定のリズムを刻む冷酷な足音へと変わった。






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