白い札

 また今年もこの季節になってしまった。

 普段はエアコンの下の棚の上に置きっぱなしになっている去年の同じ時期に使ったきりのインクジェットプリンターが、今はソファの近くにあるローテーブルに線でつないだノートパソコンとともに乗せられて、テーブルを揺らしながらカシャンカシャンカシャンと年賀状のはがきに宛名と裏面の画像を描いていた。

 ある時点でそれがジーッ、ジーッという音へと変わって、はがきと同じサイズの白い札が吐き出された。動作が止まった事からインク切れかと思って、プリンターの液晶に表示されているインク残量を確認するとまだ問題はなかった。

 どうした事かと思いながら、ひとまず印刷を再開してみるとカシャンカシャンと通常に戻った。同じようなことがその後何度か起こり、(このプリンターは今年で終わりかな) などと考えているうちにすべての印刷が終わっていた。


 新年を迎えて、自宅のポストに投げ入れられた年賀状の束をローテーブルの上に置き、新聞に書かれた当たり番号と届いた年賀状の番号とを見比べていると、この前と同じ白い札が見つかった。何かの手違いかと思って一旦わきに置いておき、番号の確認を続けたところ、5枚おき、3枚おき、1枚おきと白い札が増えていきやがて残り全てが白い札となっていることが分かった。

 それを見て、「うわぁあ!!」と後ろにのけぞると、テーブルのふちに足をぶつけてしまった。すると、テーブルから落ちてひっくり返った年賀状の裏面の大半が真っ白になっているのが見えた。

 

 それから、家に届くはがき、封筒、書類、チラシにいたるすべてが白紙となった。


 きっかけは何であったのか、ふらふらと家の中を見渡すと、カレンダーから、記念写真、たしかミュージシャンのポスター、コップの底に貼りっぱなしになっていた紙片、家の壁紙までもが真っ白になってしまっていた。

 ふらふらと玄関から外へ出て、ポストを開けると白い紙の束が滝のように流れ落ちた。呆然とそれを眺めた後、ふと表札へと目を移すとそこには真っ白なプレートが一枚貼られているだけだった。


 頭が真っ白になった。



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