エメラルドの影
幼少期の頃、私は目につくものを何でも周りに尋ねていた。
「あれって何?」
「〇○だよ」
「じゃあ、あれは?」
「あれは△△」
多くの場合はすぐにそれについての答えが得られ、そうでない時も、大抵もっともらしい説明が得られた。
そうした事を繰り返すうちに、光の破片のようなもの、色のついたガラスに光が透過したことでできる、ガラスと同じ色をした像をテーブルの上で見つけて、「これってなに ?」といつもの調子で母さんに尋ねた。母さんはしばらく考え込んだのち「あれは……影、光の、光の影」という答えを返した。
わかったような、そうでないような心待ちで、机の上の光を指でなぞっていると、やがてそれにも飽きがきて、また質問を繰り返す日々に戻った。
母さんと手をつないで歩いているときに道路の上であたりを眺めていると、後ろでカチャンという音がした。それが気になって後ろを振り向こうとしたが止められて、母さんはつないでいた手を引っ張って歩く速度を速めた。後ろの音は、カチャン、カチャン、カチャ、カチャ、チャッ、チャ、チャ、カッ、カ、カッ、とそれに合わせるように鳴り響いていた。
信号に止められて立ち止まると母さんは慌てて何度も歩道のボタンを押し続けていた。後ろを振り返ると、二つ後ろの電柱の影から、『エメラルド色をしたモザイク状の人の形の光の影』が、こちらを覗くようにはみ出していた。
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