【04】
夜詩くんは泣いてないときでも泣いたあとの顔か泣く前の顔をしており、今は泣きそうな顔をしながら僕の存在におろおろしている。また例によって例のごとく、母と喧嘩して家出をして来た僕は叔父の家に居座っていた。開き直っていた。くつろいでいた。
「お構いなく」
「構うよ」
「いたら迷惑?」
「そんなことはないけど」
「けど、なに」
「……怒らないでよ」
夜詩くんはすぐに涙ぐむ。あなたにイラついてるんじゃなく、ただ若さに任せてやりたい放題してみたいだけであることを僕は叔父に伝える。夜詩くんは目元を拭ってから、クッションを抱きしめる。
電子音。
母からの着信を無視して、僕はテレビをつけた。すると夜詩くんのスマホのほうに着信があった。やはり母のようだった。夜詩くんはリビングを出て玄関のあたりで、なにやらもそもそと話している。言葉としては聞きとれないけれど、音として中途半端に聞こえるのが、逆に気になる。ふん。どうでもいいや。
結局、その夜は叔父の家に泊まっていいことになる。やったぜ。普段は食べないようなデリバリーのピザを頼み、コーラだって飲む。母は僕が人工甘味料だの炭酸ジュースだのを摂取するのを極端に嫌がる。
そんな贅沢が出来るのも夜詩くんが穏やかに鬱々としているからで、彼が入院してしまうと僕は逃げ場所をなくす。
母は僕が夜詩くんの入院している病院に僕を連れていかない。面会は、絶対にさせてもらえなかった。退院後の夜詩くんはうちで一旦引き取ることもあったが、一ヶ月もしないうちにまた自宅に戻っていった。
意外と、元気そうに見えるときのが危ないのだ。それはつまり、行動力があるってことだから。一日寝たきりだったり、ご飯をちゃんと食べられなかったり、お風呂に入るのを面倒がる夜詩くんは自殺を決行する気力もない。そのほうがいい。人生から逃げるように泣いているか書いているかの夜詩くんが僕は好きだ。出来れば書いていてほしい。人が泣くのはやっぱり悲しいことだし、書けばお金にもなるのだから。
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